第一章 バスの中
あんなこと言われちゃったら、変に気まずくなっちゃうじゃん!
林間学習二日目のバスの中。
いびきをかいて寝る人もちらほら。
でも、私——葵は違う。
ずっと、身体を硬直させているのだ!
それはもちろん、モテモテ男子の蓮くんと肩なんかがぶつからないように。
一軍女子の良菜ちゃんに目をつけられてしまったからなおさら!
昨日盗み聞きした声。
昨日、良菜ちゃんは蓮くんに告白して振られたらしい。
でも、簡単には諦められないらしく。
馴れ馴れしく蓮くんと話している私が気に食わないらしい。
そりゃあー、こんな地味な女がモテ男子と話してたらダメだよね。
わかってる。わかってるんだけど⋯⋯。
「さっきから怒ったみたいな顔して、どうしたの?」
⋯⋯ッ! いつものように甘い声。
身体に力入れすぎて、顔が強張ってたみたいだ。
「べ、別にぃ」
ふう、と一度、力を抜いてみる。
肩や足が軽くなるような感覚。
ちょっと、気にしすぎてたかも。
「優、付き合ったね」
そっか。蓮くんは優くんと大の仲良しだもんね。
「おめでたいね」
蓮くんはどこか、遠い目をしていて。
「悲しいの?」
その瞳には、何か内気な気持ちが感情が押し込まれているような気がした。
「悲しいというよりは、羨ましいかな」
あー。なんか共感。
「好きな人、いるんだよね?」
昨日の告白で言ってたもん。
「うん」
誰なんだろう。気になるけど、それは友達として。
ちゃんと線を引いておかないと、後戻りできなくなるかもしれないから。
「——好きだよ、葵」
え?
私の聞き間違いじゃなければだけど⋯⋯。
蓮くんは、揺るぎのない凛々しい瞳で私のことを見つめていて。
今の言葉も、私へ?
第二章 告白
目を見開いて、蓮くんを見つめ返す。
体温はどんどん上昇していく。
「え、ええ?」
なんて返したらいいのか、わからない。
私は、蓮くんと付き合いたいの?
違う——と思うんだけど。
「おれの好きな人は、内山さんだけだよ?」
ふふっと小悪魔のように微笑む蓮くん。
周りの雑音より、自分の鼓動の方がうるさい。
「よかったら、おれと付き合って」
まさか。こんなこと、私にあり得るんだ。
でも、中途半端な気持ちでオーケーしたらダメだ。
それに、良菜ちゃんも蓮くんのことを好きなんだ。もちろん、私以上に。
「返事は今度、夏祭りで聞かせてよ」
な、夏祭り?
自然な流れで、夏祭りに一緒に行く話が進んでる。
毎年、二駅ほど先の広場で屋台が出たりする催しがあるんだよね。
去年は恋乃葉と行った。
「わ、わかった」
なんだろう。蓮くんを今まで以上に近くに感じる。
「他の子も、誘っていい?」
せっかくなら、良菜ちゃんを誘いたい。
それに、ふたりきりは心臓がもたない。
「いいよ。誰がいいの?」
振って振られたふたりだけど、ダメかな?
でも、聞いてみる価値はあるよね?
「良菜ちゃん⋯⋯。ダメかな?」
すると、蓮くんの表情は一瞬険しくなった。
「相手がいいなら、いいよ」
無理、させちゃったかな?
「なら、おれもひとり誘っていい?」
優くんとか? でも、優くんは恋乃葉と一緒に行くよね?
「前から一緒に行こうって話してた。凪と」
凪くん? ふたりって仲良かったっけ?
「いいね」
ふたりが話してるところ、見たことないけど。
「それじゃあ決まり。渡辺にも伝えておいて」
「うん」
去年とは天と地くらい気持ちが上下してるなあ。
第三章 うちは行かない
それから週明け。
私は、夏祭りに誘うために良菜ちゃんを探していた。
普段は、絶対に話しかけられないようなメンバーと一緒にいる良菜ちゃんだから不安しかないけど。
「良菜ちゃん!」
運よく、同じタイミングで登校してきたみたい。
靴箱でばったり。
「何?」
警戒心持たれちゃってる。
「あのね——」
事情を話すと、良菜ちゃんはためらいなく。
「行かない」
と、断られてしまった。
「なんで?」
もしかして、もう好きじゃないのかな?
でも、林間学習で私に宣言してきたの、振られたあとだよね?
「なんでも。そんなの、蓮くんがイヤに決まってるでしょ」
ふんッ、とそっぽを向かれてしまう。
「でも、まだ蓮くんのことを好きなんだよね?」
「そ、そうだけど⋯⋯」
素直じゃないのか、本気でイヤなのか。
「だいたい、蓮くんはアンタのことを好きなんだから。うちに勝ち目なんて」
もしかして、ネガティブになっちゃってる?
た、確かに告白はされたけど。知らぬが仏だよッ。
「私、良菜ちゃんと夏祭りに行きたい」
私らしくないけど、おねだりしてみる。
すると、良菜ちゃんは眉をひそめて。
「わかったから! そんな目で見てこないで!」
じゃあね! と半ば強引に階段を駆け上がっていく良菜ちゃん。
やった。良菜ちゃんが一緒なら、楽しめそう。
ホッとしながら教室へ。
あ、蓮くんが凪くんと話してる。
同じく、夏祭りのことかな?
まだ七月に入ったばっかり。夏祭りは八月十日。
早く行きたくなってきた!
「れ、蓮くん。おはよー」
告白されたから、今までみたいに話すのはなんだか気が引ける。
「おはよう、内山さん」
ニコッと蓮くんは微笑。
そういえば。告白されたときは「葵」って言われた気がするけど、あれは幻聴だったのかな?
「ちょうど今、夏祭りのこと話してたところだよ」
そうなんだ、とわかりきっていながらも頷く。
「凪くん、来れるの?」
林間学習以来、凪くんと話す。
なんだかくすぐったい感覚になる。
「うん。行きたい」
よかった。これで四人揃って夏祭りに行けるよ。
「何時からがいい?」
普段は夜に外に出ないから、なるべく早めがいいけど、たまには長い時間楽しむのもいいかも!
「七時から花火らしいから、六時とかでいいんじゃね?」
あ、そうだ。良菜ちゃんにも聞きに行かないと。
「ごめん。ちょっと待ってて」
まだ教室にいてくれてるといいけど。
第四章 素っ気ない女の子
⋯⋯いた! しかも、まだひとりだ。
「良菜ちゃん——!」
なるべく目立たないように、手を振って気づかせる。
期待通り振り向いてくれて、とことことやってくる。
「何?」
「夏祭りの集合時間、何時がいい?」
良菜ちゃんの表情は、やっぱり暗い気がする。
「⋯⋯なんでもいいわ。三人で決めて」
じゃあね、と強引に話を終わらせて席に戻ってしまった良菜ちゃん。
なんか、心にすっぽり穴が空いたみたいな虚無を感じる。
とぼとぼと教室に戻ると、まだ蓮くんと凪くんは話している途中みたい。
「お待たせ、ふたりとも」
って、待ってないか。
「どうだった?」
軽く走ったせいか、胸がドキドキする。
「なんでもいいって」
蓮くんは、察したような表情を見せた。
「やっぱり、渡辺はおれと生きたくないんだと思う」
——ッ。
言い返せない。
でも、良菜ちゃんは蓮くんのことを本気で好きなんだ。
私みたいに中途半端じゃなくて、心の底から想ってるんだよね。
それなら、諦めないでほしいのに。
私は、どうするべきなんだろう。
「ごめんね、自己中だったね」
ヤバい。泣きそう。
「あとでまた、良菜ちゃんに聞きに行くことにするよ」
私が良菜ちゃんを夏祭りに誘ったこと自体、良菜ちゃん本人はイヤだったのかも。
私はただ、良菜ちゃんに蓮くんと話す機会を持ってほしかっただけなのに。
これじゃあ、きれいごとなだけだよね。誰も望んでないことなのかもしれないのに。
第五章 勇気を与えてくれる人
その日の帰り道。
部活に入っていない私は、いつも通りひとりで下校中。
良菜ちゃん⋯⋯。
あのあと、良菜ちゃんに話しかけようとしても、ずっと他の子と一緒にいたから、話しかける隙が全くなかったんだ。
蓮くんだって、気を遣ってるだけでほんとは一緒に行きたくないのかもしれない。
「まだ落ち込んでんの?」
刹那、風のように現れた人は。
「凪くん⋯⋯」
凪くんも、部活入ってなかったっけ。
そうだ。凪くんにもめいわくかけちゃったから謝らないと。
「ごめんね、凪くん」
すると、凪くんは首を傾げて。
「え、何が?」
と一言。
「良菜ちゃんのこととか、めいわくかけちゃったから」
あー、と凪くんは棒読みで答える。
「おれは正直、なんとも思ってないから」
なんだろう。胸がザワザワする。
「それより——」
瞬間、凪くんの指が、私のあごをとらえた。
クイッと、凪くんの顔に私の顔が引き寄せられる。
焦って体温が上がるのを感じる。
「おれは、内山がそんな顔してる方が辛い」
⋯⋯えッ? そ、それってどういう⋯⋯?
「だから、夏祭りの件でおれのことは気にしないで」
パッとあごの手を離される。
まだやんわりと指の温もりが残ってる。
「あ、ありがとう」
それに、なんだか勇気をもらえた気がする。
なんだかんだで、凪くんと一緒に帰るのは初めてに近い。
第六章 諦めてほしくない
翌朝。
私はいつもより少し早く学校にやってきた。
そして、人生で初めて待ち伏せをするんだ。
この学校の生徒なら、登校したときに絶対に靴箱を通る。
そこで良菜ちゃんを待ち伏せするんだ!
「良菜ちゃんッ」
危ない危ない。
靴箱に来たと同時に良菜ちゃんがやってきた。
「何? ずっとここで待ってたの?」
変な目で見られてる?!
「話したいことが、あって」
良菜ちゃんの力強い瞳に負けたらダメだ。
「夏祭り、一緒に行きたくないのかなって」
良菜ちゃんは少し悩むように顔を伏せると。
「行きたくない」
⋯⋯やっぱり私、おせっかいだったんだ。
「ごめん、悪気はなくて」
「違う」
言葉を遮断される。
「蓮くんはきっと、うちと一緒に行きたくないから」
そっか。蓮くんに同情してたんだ。
「良菜ちゃんはもう、蓮くんのことを好きじゃないの?」
素朴な疑問のつもりだった。
でも、良菜ちゃんのみけんにしわがよった。
「好きだよ! 振られたのに、まだずっと好き」
不意に大きな声で告白されて、ブルブルッと身体が震えた。
「でも、蓮くんはアンタのことを好きなの。蓮くんの恋を邪魔なんてできない」
なんだ。ただの乙女か。と思ってたら違う。
良菜ちゃんも、良菜ちゃんなりに考えてたことがあるんだね。当たり前か。
「私、蓮くんに告白されたよ。夏祭りの日に返事がほしいって言われた」
すると良菜ちゃんは、瞳を光沢たっくさんで光らせて。
「何? うちにマウント取って、それで満足?」
あ、ダメだ。これじゃあちゃんと伝わらない。
「そうじゃなくて。——私は単純に、良菜ちゃんに蓮くんを諦めてほしくない」
語彙力が皆無な自分を恨みたい。
私はほんとに、良菜ちゃんに幸せになってほしいから。
「⋯⋯時間も、行くかどうかもなんでもいい。蓮くんに許可はもらっておいて」
すすッと横を通り過ぎる良菜ちゃんから、暑い体温を感じた。
第七章 ソワソワ
教室に戻ると、今日も蓮くんと凪くんが和気あいあいと話している姿を一番にとらえた。
蓮くん、モテるけど悩みもたくさん握らせる⋯⋯。
恐るべし。
「おはよう」
「おはよー」
自然とあいさつされるのさえ、なんだかゾワゾワする。
私が席につくと、恋乃葉もちょうど席についた。
そうだ。恋乃葉にも一応聞いておこうかな。
「恋乃葉。今年の夏祭りって、誰と行くの?」
恋乃葉もその話にすぐのってくれて。
「今年は優くんと行く予定。ごめんねッ、去年まで一緒に行ってたのに突然⋯⋯」
やっぱり行くんだ。
浴衣とか着たら絶対似合うよね、恋乃葉って。
でも、毎年「めんどくさい」で終わらせちゃうんだもん。
優くんもきっと、恋乃葉の浴衣を見たらかわいすぎて倒れちゃうよ。
「それは全然いいよ。楽しんでね」
「そう? そういう葵は、今年はどうするの?」
そっか。まだ伝えてなかったっけ。
恋乃葉にはちゃんと伝えた方がいいよね。
夏祭りのことも、蓮くんのことも。
「それがね⋯⋯⋯⋯」
蓮くんに告白されたことも、返事を保留にしていることも、夏祭りは蓮くんや凪くん、良菜ちゃんと行くことも。
あんなこと言われちゃったら、変に気まずくなっちゃうじゃん!
林間学習二日目のバスの中。
いびきをかいて寝る人もちらほら。
でも、私——葵は違う。
ずっと、身体を硬直させているのだ!
それはもちろん、モテモテ男子の蓮くんと肩なんかがぶつからないように。
一軍女子の良菜ちゃんに目をつけられてしまったからなおさら!
昨日盗み聞きした声。
昨日、良菜ちゃんは蓮くんに告白して振られたらしい。
でも、簡単には諦められないらしく。
馴れ馴れしく蓮くんと話している私が気に食わないらしい。
そりゃあー、こんな地味な女がモテ男子と話してたらダメだよね。
わかってる。わかってるんだけど⋯⋯。
「さっきから怒ったみたいな顔して、どうしたの?」
⋯⋯ッ! いつものように甘い声。
身体に力入れすぎて、顔が強張ってたみたいだ。
「べ、別にぃ」
ふう、と一度、力を抜いてみる。
肩や足が軽くなるような感覚。
ちょっと、気にしすぎてたかも。
「優、付き合ったね」
そっか。蓮くんは優くんと大の仲良しだもんね。
「おめでたいね」
蓮くんはどこか、遠い目をしていて。
「悲しいの?」
その瞳には、何か内気な気持ちが感情が押し込まれているような気がした。
「悲しいというよりは、羨ましいかな」
あー。なんか共感。
「好きな人、いるんだよね?」
昨日の告白で言ってたもん。
「うん」
誰なんだろう。気になるけど、それは友達として。
ちゃんと線を引いておかないと、後戻りできなくなるかもしれないから。
「——好きだよ、葵」
え?
私の聞き間違いじゃなければだけど⋯⋯。
蓮くんは、揺るぎのない凛々しい瞳で私のことを見つめていて。
今の言葉も、私へ?
第二章 告白
目を見開いて、蓮くんを見つめ返す。
体温はどんどん上昇していく。
「え、ええ?」
なんて返したらいいのか、わからない。
私は、蓮くんと付き合いたいの?
違う——と思うんだけど。
「おれの好きな人は、内山さんだけだよ?」
ふふっと小悪魔のように微笑む蓮くん。
周りの雑音より、自分の鼓動の方がうるさい。
「よかったら、おれと付き合って」
まさか。こんなこと、私にあり得るんだ。
でも、中途半端な気持ちでオーケーしたらダメだ。
それに、良菜ちゃんも蓮くんのことを好きなんだ。もちろん、私以上に。
「返事は今度、夏祭りで聞かせてよ」
な、夏祭り?
自然な流れで、夏祭りに一緒に行く話が進んでる。
毎年、二駅ほど先の広場で屋台が出たりする催しがあるんだよね。
去年は恋乃葉と行った。
「わ、わかった」
なんだろう。蓮くんを今まで以上に近くに感じる。
「他の子も、誘っていい?」
せっかくなら、良菜ちゃんを誘いたい。
それに、ふたりきりは心臓がもたない。
「いいよ。誰がいいの?」
振って振られたふたりだけど、ダメかな?
でも、聞いてみる価値はあるよね?
「良菜ちゃん⋯⋯。ダメかな?」
すると、蓮くんの表情は一瞬険しくなった。
「相手がいいなら、いいよ」
無理、させちゃったかな?
「なら、おれもひとり誘っていい?」
優くんとか? でも、優くんは恋乃葉と一緒に行くよね?
「前から一緒に行こうって話してた。凪と」
凪くん? ふたりって仲良かったっけ?
「いいね」
ふたりが話してるところ、見たことないけど。
「それじゃあ決まり。渡辺にも伝えておいて」
「うん」
去年とは天と地くらい気持ちが上下してるなあ。
第三章 うちは行かない
それから週明け。
私は、夏祭りに誘うために良菜ちゃんを探していた。
普段は、絶対に話しかけられないようなメンバーと一緒にいる良菜ちゃんだから不安しかないけど。
「良菜ちゃん!」
運よく、同じタイミングで登校してきたみたい。
靴箱でばったり。
「何?」
警戒心持たれちゃってる。
「あのね——」
事情を話すと、良菜ちゃんはためらいなく。
「行かない」
と、断られてしまった。
「なんで?」
もしかして、もう好きじゃないのかな?
でも、林間学習で私に宣言してきたの、振られたあとだよね?
「なんでも。そんなの、蓮くんがイヤに決まってるでしょ」
ふんッ、とそっぽを向かれてしまう。
「でも、まだ蓮くんのことを好きなんだよね?」
「そ、そうだけど⋯⋯」
素直じゃないのか、本気でイヤなのか。
「だいたい、蓮くんはアンタのことを好きなんだから。うちに勝ち目なんて」
もしかして、ネガティブになっちゃってる?
た、確かに告白はされたけど。知らぬが仏だよッ。
「私、良菜ちゃんと夏祭りに行きたい」
私らしくないけど、おねだりしてみる。
すると、良菜ちゃんは眉をひそめて。
「わかったから! そんな目で見てこないで!」
じゃあね! と半ば強引に階段を駆け上がっていく良菜ちゃん。
やった。良菜ちゃんが一緒なら、楽しめそう。
ホッとしながら教室へ。
あ、蓮くんが凪くんと話してる。
同じく、夏祭りのことかな?
まだ七月に入ったばっかり。夏祭りは八月十日。
早く行きたくなってきた!
「れ、蓮くん。おはよー」
告白されたから、今までみたいに話すのはなんだか気が引ける。
「おはよう、内山さん」
ニコッと蓮くんは微笑。
そういえば。告白されたときは「葵」って言われた気がするけど、あれは幻聴だったのかな?
「ちょうど今、夏祭りのこと話してたところだよ」
そうなんだ、とわかりきっていながらも頷く。
「凪くん、来れるの?」
林間学習以来、凪くんと話す。
なんだかくすぐったい感覚になる。
「うん。行きたい」
よかった。これで四人揃って夏祭りに行けるよ。
「何時からがいい?」
普段は夜に外に出ないから、なるべく早めがいいけど、たまには長い時間楽しむのもいいかも!
「七時から花火らしいから、六時とかでいいんじゃね?」
あ、そうだ。良菜ちゃんにも聞きに行かないと。
「ごめん。ちょっと待ってて」
まだ教室にいてくれてるといいけど。
第四章 素っ気ない女の子
⋯⋯いた! しかも、まだひとりだ。
「良菜ちゃん——!」
なるべく目立たないように、手を振って気づかせる。
期待通り振り向いてくれて、とことことやってくる。
「何?」
「夏祭りの集合時間、何時がいい?」
良菜ちゃんの表情は、やっぱり暗い気がする。
「⋯⋯なんでもいいわ。三人で決めて」
じゃあね、と強引に話を終わらせて席に戻ってしまった良菜ちゃん。
なんか、心にすっぽり穴が空いたみたいな虚無を感じる。
とぼとぼと教室に戻ると、まだ蓮くんと凪くんは話している途中みたい。
「お待たせ、ふたりとも」
って、待ってないか。
「どうだった?」
軽く走ったせいか、胸がドキドキする。
「なんでもいいって」
蓮くんは、察したような表情を見せた。
「やっぱり、渡辺はおれと生きたくないんだと思う」
——ッ。
言い返せない。
でも、良菜ちゃんは蓮くんのことを本気で好きなんだ。
私みたいに中途半端じゃなくて、心の底から想ってるんだよね。
それなら、諦めないでほしいのに。
私は、どうするべきなんだろう。
「ごめんね、自己中だったね」
ヤバい。泣きそう。
「あとでまた、良菜ちゃんに聞きに行くことにするよ」
私が良菜ちゃんを夏祭りに誘ったこと自体、良菜ちゃん本人はイヤだったのかも。
私はただ、良菜ちゃんに蓮くんと話す機会を持ってほしかっただけなのに。
これじゃあ、きれいごとなだけだよね。誰も望んでないことなのかもしれないのに。
第五章 勇気を与えてくれる人
その日の帰り道。
部活に入っていない私は、いつも通りひとりで下校中。
良菜ちゃん⋯⋯。
あのあと、良菜ちゃんに話しかけようとしても、ずっと他の子と一緒にいたから、話しかける隙が全くなかったんだ。
蓮くんだって、気を遣ってるだけでほんとは一緒に行きたくないのかもしれない。
「まだ落ち込んでんの?」
刹那、風のように現れた人は。
「凪くん⋯⋯」
凪くんも、部活入ってなかったっけ。
そうだ。凪くんにもめいわくかけちゃったから謝らないと。
「ごめんね、凪くん」
すると、凪くんは首を傾げて。
「え、何が?」
と一言。
「良菜ちゃんのこととか、めいわくかけちゃったから」
あー、と凪くんは棒読みで答える。
「おれは正直、なんとも思ってないから」
なんだろう。胸がザワザワする。
「それより——」
瞬間、凪くんの指が、私のあごをとらえた。
クイッと、凪くんの顔に私の顔が引き寄せられる。
焦って体温が上がるのを感じる。
「おれは、内山がそんな顔してる方が辛い」
⋯⋯えッ? そ、それってどういう⋯⋯?
「だから、夏祭りの件でおれのことは気にしないで」
パッとあごの手を離される。
まだやんわりと指の温もりが残ってる。
「あ、ありがとう」
それに、なんだか勇気をもらえた気がする。
なんだかんだで、凪くんと一緒に帰るのは初めてに近い。
第六章 諦めてほしくない
翌朝。
私はいつもより少し早く学校にやってきた。
そして、人生で初めて待ち伏せをするんだ。
この学校の生徒なら、登校したときに絶対に靴箱を通る。
そこで良菜ちゃんを待ち伏せするんだ!
「良菜ちゃんッ」
危ない危ない。
靴箱に来たと同時に良菜ちゃんがやってきた。
「何? ずっとここで待ってたの?」
変な目で見られてる?!
「話したいことが、あって」
良菜ちゃんの力強い瞳に負けたらダメだ。
「夏祭り、一緒に行きたくないのかなって」
良菜ちゃんは少し悩むように顔を伏せると。
「行きたくない」
⋯⋯やっぱり私、おせっかいだったんだ。
「ごめん、悪気はなくて」
「違う」
言葉を遮断される。
「蓮くんはきっと、うちと一緒に行きたくないから」
そっか。蓮くんに同情してたんだ。
「良菜ちゃんはもう、蓮くんのことを好きじゃないの?」
素朴な疑問のつもりだった。
でも、良菜ちゃんのみけんにしわがよった。
「好きだよ! 振られたのに、まだずっと好き」
不意に大きな声で告白されて、ブルブルッと身体が震えた。
「でも、蓮くんはアンタのことを好きなの。蓮くんの恋を邪魔なんてできない」
なんだ。ただの乙女か。と思ってたら違う。
良菜ちゃんも、良菜ちゃんなりに考えてたことがあるんだね。当たり前か。
「私、蓮くんに告白されたよ。夏祭りの日に返事がほしいって言われた」
すると良菜ちゃんは、瞳を光沢たっくさんで光らせて。
「何? うちにマウント取って、それで満足?」
あ、ダメだ。これじゃあちゃんと伝わらない。
「そうじゃなくて。——私は単純に、良菜ちゃんに蓮くんを諦めてほしくない」
語彙力が皆無な自分を恨みたい。
私はほんとに、良菜ちゃんに幸せになってほしいから。
「⋯⋯時間も、行くかどうかもなんでもいい。蓮くんに許可はもらっておいて」
すすッと横を通り過ぎる良菜ちゃんから、暑い体温を感じた。
第七章 ソワソワ
教室に戻ると、今日も蓮くんと凪くんが和気あいあいと話している姿を一番にとらえた。
蓮くん、モテるけど悩みもたくさん握らせる⋯⋯。
恐るべし。
「おはよう」
「おはよー」
自然とあいさつされるのさえ、なんだかゾワゾワする。
私が席につくと、恋乃葉もちょうど席についた。
そうだ。恋乃葉にも一応聞いておこうかな。
「恋乃葉。今年の夏祭りって、誰と行くの?」
恋乃葉もその話にすぐのってくれて。
「今年は優くんと行く予定。ごめんねッ、去年まで一緒に行ってたのに突然⋯⋯」
やっぱり行くんだ。
浴衣とか着たら絶対似合うよね、恋乃葉って。
でも、毎年「めんどくさい」で終わらせちゃうんだもん。
優くんもきっと、恋乃葉の浴衣を見たらかわいすぎて倒れちゃうよ。
「それは全然いいよ。楽しんでね」
「そう? そういう葵は、今年はどうするの?」
そっか。まだ伝えてなかったっけ。
恋乃葉にはちゃんと伝えた方がいいよね。
夏祭りのことも、蓮くんのことも。
「それがね⋯⋯⋯⋯」
蓮くんに告白されたことも、返事を保留にしていることも、夏祭りは蓮くんや凪くん、良菜ちゃんと行くことも。

