お昼休み。
恋が、理央と明日香とお弁当を食べていると、廊下の方から、声がした。
「西木、お願いだから譲ってくれよ」
「譲るって言ったって、黒沢の気持ちの問題だからさ。っていうか、黒沢も黒沢で、二又かけるなんて性格悪い」
「小悪魔ちゃんなんだよ、あいつ。俺、譲ってくれたら一生感謝するよ?」
「悪いけど、俺も黒沢なんだよね」
恋が聞き耳を立てていると、理央が気付いて、
「あちゃあだね」
と言った。
「恋の鞘当て真っ最中かあ。黒沢さん、性格良くないんじゃないかなあ」
「うち、小悪魔って言うと黒沢さん思い出す」
明日香が言った。
「羨ましい様な気もするけど、原くんと山科くんなら、まあタイプじゃないから譲ってあげようかなあと思うんだよね。上からだけど。」
「明日香は地味めイケメンより上野くんとか樋山くんとか王道イケメンのがタイプだもんね」
「タイプって言ったって、恋、顔の好みで深い意味ないよ。誤解しないでね。うち、自分で分かってるけど、美意識高くて面食いだからさ。恋も多分男だったら好みの範囲。」
「良いのかな、西木くんと原くん」
恋達が噂していると、廊下とは反対側で、隣のクラスのベランダから、上履きのまま黒沢さん本人が教室に入って来た。
「新田さん」
黒沢さんは廊下の様子を伺いながら恋に声を掛けた。
「ねえ、どう思う?、あの二人。」
「……」
「黒沢さん辞めなよ。二又なんか。」
理央が言うと、黒沢さんは2つに結った長い髪をさっと振った。
「良いんだよ、恋愛の醍醐味。ちょっとくらい競って貰わなきゃ、楽しくないよ」
「性格悪い。いつか嫌われても知らないよ。」
「平気平気。さっきまで何て言ってるか聞いてたんだ。2人とも私の事好きって。嬉しいな。」
黒沢さんはにこにこしながら言った。
「三角関係って、人生の醍醐味だよね。私、自分が三角関係じゃなかったら、絶対我慢できないもん。新田さんもそうでしょう。分かる分かる。」
「……」
平然とそう言った後、黒沢さんはにやりと見せるように笑うと恋に口を開いた。
「ね、お願い新田さん、あの二人に言ってきて。どっちも好きで、選べないって。」
「選べないの?」
恋はちょっと自分と重ねて、同情して聞くと、黒沢さんは恋の肩をぱしんとたたいて、
「臨機応変。西木くんの前では西木くんを選ぶし、原くんの前では原くんを選ぶよ。当然じゃん」
とケラケラ笑った。
「あ、黒沢」
「あ」
教室に入って来た黒沢さんに、廊下の二人が気づいた。
とたんに黒沢さんは甘い声を作り、
「原くん西木くん、どうしたの?」
と言いながらしゃなりしゃなりと二人の方に歩き出した。
ふと思い出してお茶会の事を考えていた恋に、明日香がお弁当のミートボールを摘みながら、半笑いで
「すごい女。うち絶対真似できない」
と呟いた。



