――オーガスト・ドラクル。
東の海岸沿いを治める辺境伯であり、戦闘狂として名高い人物だ。
数年前に事故で先代夫妻がなくなり、一人息子であるオーガストが急遽後を継いだ。
海より来る蛮族を千切っては投げ、千切っては投げ……防衛戦では負け知らずの戦闘狂。先代の死も不慮の事故ということになっているが、本当のところはわかりかねる――と、釣書には記されていた。
写真の男性は長い黒髪を首の後ろで無造作に束ね、漆黒の瞳で鋭く遠くを見据えていた。
「釣書に悪意が滲み出ておりますわねえ」
リリーは苦笑した。
戦闘狂もなにも、辺境伯が外敵から領地を守るのは当然の役目だろうに。どうにも王都の温室育ちは生ぬるくて困る――そう思ったが、リリーは口にしなかった。
「お父様、なぜこの方を私にお勧めに? 遠いから、というだけではないでしょう」
「むろんだ」
伯爵はにこりと笑い、椅子の背にもたれた。
「王命だよ。それに、わたしは人を見る目はないが、土を見る目はあるんだ」
差し出された手の爪は、土で真っ黒になっていた。
東の海岸沿いを治める辺境伯であり、戦闘狂として名高い人物だ。
数年前に事故で先代夫妻がなくなり、一人息子であるオーガストが急遽後を継いだ。
海より来る蛮族を千切っては投げ、千切っては投げ……防衛戦では負け知らずの戦闘狂。先代の死も不慮の事故ということになっているが、本当のところはわかりかねる――と、釣書には記されていた。
写真の男性は長い黒髪を首の後ろで無造作に束ね、漆黒の瞳で鋭く遠くを見据えていた。
「釣書に悪意が滲み出ておりますわねえ」
リリーは苦笑した。
戦闘狂もなにも、辺境伯が外敵から領地を守るのは当然の役目だろうに。どうにも王都の温室育ちは生ぬるくて困る――そう思ったが、リリーは口にしなかった。
「お父様、なぜこの方を私にお勧めに? 遠いから、というだけではないでしょう」
「むろんだ」
伯爵はにこりと笑い、椅子の背にもたれた。
「王命だよ。それに、わたしは人を見る目はないが、土を見る目はあるんだ」
差し出された手の爪は、土で真っ黒になっていた。



