戦闘狂の新妻

 海賊を撃退してから数週間後、リリーの父、ヘムロック・ブルグマンシア伯爵がペンバートンを訪れていた。


「やあ、久しいね、リリー。ドラクル辺境伯もご無沙汰しております」


 明るい陽射しが窓から降り注ぐ城の応接室で、ヘムロックはソファに腰掛け、背筋を伸ばした。


「お父様、ずいぶんとふっくらされましたね」


 久しぶりに顔を合わせたヘムロックは、以前のふくよかさをすっかり取り戻していた。


「ああ、辺境回りが終わったからな。まったく、過酷な王命だった。辺境伯全員を訪ねて、防衛状況を確認しろだなんて」

「珍しい植物はありまして?」

「もちろん。やはり地域による植生の差は大きい。ペンバートンもあとでゆっくり見学させてもらおう」


 オーガストは苦笑して茶を勧める。


「ありがとう、オーガスト卿。義息子(むすこ)殿と呼んだ方がいいかね」

「そ、それは……いえ、義息子(むすこ)とお呼びください」

「はは、仲睦まじくて何よりだ。わたしのアコナイトも来たがっていたがね。任務明けだから家で休ませているよ」

「そのまま休んでいていただいて結構です」


 リリーが冷ややかに言うと、ヘムロックは苦笑し、オーガストは首を傾げた。


「アコナイト? きみが先日使っていた毒草かい?」

「いえ、母の愛称です」


 リリーは顔をしかめて答えた。


「母は諜報の家系の出なのです。今でも王家より任務を賜って諜報員として役目を続けております」


 オーガストは目を丸くした。


「きみの母君が社交界で男と遊び歩いているという噂は」

「その噂は、わたしが流したのさ」


 ヘムロックがティーカップを傾けながら言った。


「よからぬ動きをしている家にも、すんなり入り込めるようにね。素晴らしい手腕だろう、わたしのアコナイトは」

「その恥ずかしい呼び方は家の中だけにしてくださいませ……」


 リリーがため息交じりで言ったが、ヘムロックは薄く微笑むだけだった。

 その後、オーガストとリリーの挙式について軽く打ち合わせを行い、ヘムロックは「浜辺の海藻を採取してくる」と言い残して城を出て行った。


「やはりきみは母君によく似ている」

「どこがですか」


 リリーは頬を膨らませてオーガストを見上げた。


「素直じゃないところと、やりたい放題に見せかけて、恐ろしく冷静に計算しているところ、あとは」


 オーガストはそこで言葉を切り、じっとリリーを見つめた。

 その顔が、母を見つめる父と同じものだと気づき、リリーは慌ててオーガストの口を手で塞いだ。


「それ以上はおっしゃらなくて結構です!」

「はは、僕の妻は本当にかわいらしい毒花だ」


 笑うオーガストを、リリーは真っ赤になって睨んだ。