翌日以降も、リリーは城内と城下を忙しく駆け回っていた。
ある日の朝食の後。リリーが侍女とペンバートンの庭師と共に訓練場にやってきた。
訓練場には汗と砂埃の匂いが満ちていた。
木剣の打ち合う音が乾いた音を立て、兵士たちの掛け声が城壁に反響する。その中でオーガストは誰よりも多く手合わせしていた。
リリーがそれを横目に見ながらすぐ側の花壇にしゃがみ込み、苗を植える準備をしていると、訓練中のオーガストが木剣片手に声をかけた。
「リリー、何を植えているんだい?」
周囲では同じく訓練中だった兵士たちも手を止め、様子をうかがっている。
「これはシーベリーです。東の国ではサジーとも呼ばれるそうです」
リリーは棘のついた苗をオーガストに見せた。
その後ろでは庭師が等間隔に穴を掘り、侍女が肥料を撒いていく。いつの間にか集まってきた兵士たちが、興味津々といった様子で覗き込んでいた。
リリーは前掛けのポケットから、鮮やかな黄色の実を取り出した。
「旦那様、これ食べてみてくださる?」
オーガストは受け取った実を口に放り込み、次の瞬間、盛大にむせた。
「……酸っぱいな! げほっ、なんだこれは!?」
「はい、あなたも」
リリーは隣にいた兵士にも実を渡す。渋々食べた兵士は、目を丸くした。
「なんだかまろやかな味です。たしかに酸味はありますが」
「あなたは壊血病になりかけなのね。今すぐ医務室へお行きなさい」
「奥方! 俺にもください!」
「はいはい、並んでちょうだいね。このシーベリーの実は栄養が豊富ですし、火傷や切り傷に効く薬の材料にもなりますから、植えておいて損はありませんわ。あとで薬師やお医者様にもご挨拶に行かないといけませんね」
シーベリーの実を配るリリーに、兵士たちは苦笑した。
「奥方は、俺の思ってた貴族令嬢とはちょっと違うっすね」
「あなたの思うような貴族令嬢が、こんな僻地に嫁ぐわけないでしょう」
リリーは淡々と言いながら、庭師が掘った穴へ苗を植えていく。根に土をかぶせ、上から押さえた。
兵士たちは「それはそうだ」と顔を見合わせながらうなずいた。オーガストがわずかに顔をしかめたが、その変化に気づいた者はいなかった。
「この僻地が、国を蛮族から守る砦なのです。みなさま、胸を張りなさい。あなた方こそが、我が国の防人なのですから」
リリーが兵士たちを見回すと、彼らは目を見開き、すぐさま背筋を伸ばして敬礼した。
「死ぬまでついていきます」
「死なせないために、わたくしが嫁いできたのです。あ、蛮族は生け捕りにしてちょうだいね。試したい毒草……薬草がありますからね」
リリーは笑って立ち上がる。
残された兵士たちは、上機嫌な様子で訓練へ戻っていった。
オーガストも訓練へ戻ろうとしたが、リリーの銀髪に葉が一枚絡んでいるのに気づき、そっと払い落としてから踵を返した。
ある日の朝食の後。リリーが侍女とペンバートンの庭師と共に訓練場にやってきた。
訓練場には汗と砂埃の匂いが満ちていた。
木剣の打ち合う音が乾いた音を立て、兵士たちの掛け声が城壁に反響する。その中でオーガストは誰よりも多く手合わせしていた。
リリーがそれを横目に見ながらすぐ側の花壇にしゃがみ込み、苗を植える準備をしていると、訓練中のオーガストが木剣片手に声をかけた。
「リリー、何を植えているんだい?」
周囲では同じく訓練中だった兵士たちも手を止め、様子をうかがっている。
「これはシーベリーです。東の国ではサジーとも呼ばれるそうです」
リリーは棘のついた苗をオーガストに見せた。
その後ろでは庭師が等間隔に穴を掘り、侍女が肥料を撒いていく。いつの間にか集まってきた兵士たちが、興味津々といった様子で覗き込んでいた。
リリーは前掛けのポケットから、鮮やかな黄色の実を取り出した。
「旦那様、これ食べてみてくださる?」
オーガストは受け取った実を口に放り込み、次の瞬間、盛大にむせた。
「……酸っぱいな! げほっ、なんだこれは!?」
「はい、あなたも」
リリーは隣にいた兵士にも実を渡す。渋々食べた兵士は、目を丸くした。
「なんだかまろやかな味です。たしかに酸味はありますが」
「あなたは壊血病になりかけなのね。今すぐ医務室へお行きなさい」
「奥方! 俺にもください!」
「はいはい、並んでちょうだいね。このシーベリーの実は栄養が豊富ですし、火傷や切り傷に効く薬の材料にもなりますから、植えておいて損はありませんわ。あとで薬師やお医者様にもご挨拶に行かないといけませんね」
シーベリーの実を配るリリーに、兵士たちは苦笑した。
「奥方は、俺の思ってた貴族令嬢とはちょっと違うっすね」
「あなたの思うような貴族令嬢が、こんな僻地に嫁ぐわけないでしょう」
リリーは淡々と言いながら、庭師が掘った穴へ苗を植えていく。根に土をかぶせ、上から押さえた。
兵士たちは「それはそうだ」と顔を見合わせながらうなずいた。オーガストがわずかに顔をしかめたが、その変化に気づいた者はいなかった。
「この僻地が、国を蛮族から守る砦なのです。みなさま、胸を張りなさい。あなた方こそが、我が国の防人なのですから」
リリーが兵士たちを見回すと、彼らは目を見開き、すぐさま背筋を伸ばして敬礼した。
「死ぬまでついていきます」
「死なせないために、わたくしが嫁いできたのです。あ、蛮族は生け捕りにしてちょうだいね。試したい毒草……薬草がありますからね」
リリーは笑って立ち上がる。
残された兵士たちは、上機嫌な様子で訓練へ戻っていった。
オーガストも訓練へ戻ろうとしたが、リリーの銀髪に葉が一枚絡んでいるのに気づき、そっと払い落としてから踵を返した。



