稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~

 私は慌ててローガン様の後ろへと姿を隠す。

 ここで見つかってしまえば、神殿へ引きづり込まれると、私は恐怖を抱いていた。

 もうあそこへは戻りたくない。

 ぎゅっとローガン様の服を掴んでいると、振り向いたローガン様と視線があった。

「す、すみません。人見知りで……」

 上目づかいで見上げると、ローガン様がコホンと息をついてうなずいた。

「ああ、大丈夫。そこにいて。すぐに話を終えるから」

「は、はい」

 ローガン様は神官に告げた。

「すまないが、今は時間が取れない。後程そちらに連絡を入れよう。それでいいか?」

 神官は頭を下げ、うなずく。

「いえ、お話し中に申し訳ございませんでした」

 神官が去っていくのを見送って、私はふぅと息をついた。

「……可愛いな」

「え? 何かおっしゃいましたか?」

「あ、いや、なんでもないんだ」

「?」

 ローガン様は一度咳をつくと、私の前で跪き手を取った。

「それでは、これからよろしくね。婚約者殿」

 キラキラと輝く笑顔が眩しい。

 あぁ、やはり美丈夫。顔が良すぎる。

「ひゃい。よろしく、お願いいたします」

 自分でもちょろすぎるのではないかと思う。だが、ちょろいんでもいいのだ。

 美形に罪はない。

 私はそう思ったのであった。



 王宮にてローガン様に婚約を申し込まれてから数日後。

 正式に王家から婚約の打診が男爵家へとあり、私の両親は手紙を全て読み終えてから、喜びよりも戦々恐々とした様子で震ていた。

 王家からの打診を断れるわけもないのに”婚約を受けるか?”と一応聞いてきた父の顔は、今までに見た事のないほど青ざめていた。

 母は未だに間違いなのでは? と尋ねて来る始末だ。

 そんな両親とは裏腹に、私は満面の笑顔で浮かれ、庭を散歩しながらふんふんと鼻歌を歌っていた。

 男爵家の庭は、全く広くはない。

 しかも、貧乏男爵家なので庭師はおらず私が世話をしていた。

 令嬢らしからぬ汚れてもいいワンピースに白いエプロンをつけ、頭には余った布で作った三角巾をつけている。

 可愛らしく胸元にワンポイント花の刺繍をしてみた。

 ご令嬢っぽいぞと自画自賛していたのだが、それを見たお母様は卒倒してしまった。

 見た目は可愛らしいのに“残念な子”扱いを両親からはよくされる。

 前世の時から植物を育てることが得意だった私からしてみれば、庭を管理するのは容易いことだ。

 ただし、私の植物の育て方は普通には当てはまらないだろう。

 普通植物を育てる為には、土作りや雑草抜きや病気にかからないように手入れなど、様々な手間が必要である。

 四季ごとに育てる植物も違えば、花や実をつける季節も異なる。 
 
 だがしかし、そんな常識が私の庭には通用しない。
 
 庭は、美しい花々が咲きほこるが、見る人が見ればその異様さに気付かれるだろう。
 
 冬に咲く花が春の今でも美しく咲き、十年に一度しか実をつけないと言われる木にはたくさんの実がたわわになっている。

 そしてほとんどの植物が、秘境と呼ばれる場所でしか手に入らない薬草であったり、育てるのが困難な魔法薬になる植物だったりする。

 昔から育て慣れている植物達。

 私は、前世でもこうした植物を育てては神官に販売していた。

 あの頃の神官は、元気だろうか。

 私はベンチに腰掛けると、ローガン様から届いた手紙を開いた。

 微かに花の香りのついたその手紙は可愛らしく、ローガン様がこんなに可愛らしい便せんを使っているなんて、と、なんだかにやにやとしてしまう。

 手紙には、数日後に両親と兄に紹介したいので王宮へと招待するという内容がしたためられており、さらににやにやが止まらない。

「ふふふ。何だか婚約者って感じだわ……今度は婚約破棄にならないようにしなくては」

 以前はほんのちょっとの期間しか婚約者という立場にはいなかったこともあり、今度こそはという思いがある。

「そうだ! せっかくだから、未来のご両親様とお義兄様にプレゼントを作ってみようかしら」

 そうと決まればと、私は立ち上がるとポケットに手紙は直し、庭の端の小屋へと歩いて行く。

 この小屋は、私専用のものである。

 天井には、乾燥中の植物がたくさんぶら下げており、香りは甘い花の匂いや薬草をつぶした時の苦い匂いなど様々なものである。

 よくよく嗅ぐと気分が悪くなってくるので、私は小屋に入るとすぐに壁にかけているマスクを着け、手袋をはめた。

 壁一面にもさまざまな植物がぶら下がっており、その中から私はいくつかの木の実と、乾燥させた花、それに反対側に掛けられている薬草を手に取るとそれらを混ぜ合わせ、小さな小分けの袋へと入れていく。

 これは聖女の時には出来なかった趣味である。

 元々ポプリづくりなどには興味があったのだが、聖女の仕事が忙しすぎてそんなことをする余裕がなかったのだ。

 それに自由に使える小屋などなかった。

 だからこそ、こうして自分専用に小屋で好き勝手に作りものが出来るのは、私にとってとても嬉しいことであった。

 小分けの袋には、お義父様用、お義母様用、お義兄様用、そして婚約者であるローガン様用とリボンの色を変えて結んでいく。

 これで良い香りのする匂い袋の完成である。

「喜んでくれるかしら? ……あ、そういえば私本当に聖女の力……本当にこの体の中にもあるのかしら?」

 生まれ変わったのだから、聖女の力なんてものとは無縁だと思っていた。

 それに、聖女の力なんてものはない方がいい。

 ただ、在るのかはちゃんと確認しておかなければならないだろう。

 私は物は試しにと、匂い袋に聖力を注いでみる。

 すると淡く、輝き、そして匂い袋の中へとしみこんで行った。

 自分の手をグーパーと広げて見ながら、私は大きくため息をついた。

「本当に……聖力がある。はぁぁ。こんな力……いらないのに。でもローガン様のお兄様がご病気って言っていたし……それは……治せるものなら治してあげたい」

 矛盾する気持ちに、またため息をつきながら、聖女だとばれないように第一王子の病気を治してしまうのが一番だなと考える。

 そしてチラリと、匂い袋に視線を向けると、手に取り、念入りに聖力を注ぎ込んでいく。

「だって、婚約者様のご家族だもの。うん。ちょっとだけ。うん。ちょーっとだけ特別性にしておくくらい、いいわよね」

 婚約者が出来たという事に浮かれまくっている自覚はある。

 ただ……おそらくはばれないはずだ。

 私は作り終わると、マスクと手袋を外し、匂い袋を手に休憩用のハンモックへと座った。

 ゆらゆらと揺らしながらにやにやと匂い袋を見つめる。

「ムフフ」

 ちゅっとローガン様用の匂い袋にキスし、プレゼントをしたら喜んでくれるだろうかと、頭の中で妄想を広げていく。



『わぁ。素敵な物をありがとう。嬉しいよ。愛しいコレット。』

『愛しいコレットは本当に素敵な女性だね。』

『これ以上私を魅了して、どうするつもりだい?』


「ムフフフフ~」
 頭の中で妄想を繰り広げながら、恋というのは妄想だけでもこんなに楽しいのだなと、私はそう思ったのであった。