その頃、舞踏会場では第二王子であるローガンが姿を現し、令嬢達に挨拶を述べると、美しい令嬢達と会話をしたりダンスをしたり。
煌びやかな令嬢達は華がある。
ただそんな華達の相手をローガン一人ではしきれないので、その場には王宮勤めの男性や、騎士達も参加し、ローガン本来の目的の為に笑顔の裏で取り調べが行っていく。
会話の中で、婚約者が以前いなかったか、婚約破棄されていないか、前回の舞踏会で庭へと出たかなど様々な事が楽しい会話の中で調べられていく。
少しばかり集団お見合いの雰囲気が醸し出され、何人かは本気で頬を染めあう姿も見られるが、ローガンにとってはそれらはどうでもいいことであった。
「どうだ。絞り込めたか?」
ローガンの言葉に、側近らは首を横に振った。
「殿下。この中には該当する者はいないようです」
その言葉に、ローガンは一度黙り込むと、自分が聞き間違え可能性も視野に入れて側近へと口を開いた。
「やむを得ない。国王陛下から許可はもらっている。神官らを会場へと入れ、聖女がいないか調べろ。令嬢らには神官だとばれないようにな」
「はい」
数名の神官らが通常の神官服ではなく、執事服で会場を側近らとともにまわっていく。
しばらくの間ローガンは横目でそれを見つめながら令嬢らと会話をし、そして神官らが帰って来ると一度席を外し、別室へと移動する。
聖女が居れば神官が気づかないわけがない。
しかし、本来神殿からほとんど出てこない神官らを外に連れ出して調べてもらったと言うのに、結果は思わしくなかった。
「本当に、いなかったのか?」
ローガンの言葉に、神官は頷く。
「はい。見せていただいた聖水は、まぎれもなく聖女が作ったもの。ですが、令嬢達の中に、あの聖水が作れるほどの力を持った者などいません」
その言葉にローガンは大きくため息をつき、額を手で押さえた。
「では、私が見たのは幻だとでも?」
神官は首を横に振り、希望に満ちた瞳で言った。
「いいえ。実際に聖水が証拠として残っております。あれほどの力、神殿には必要な人材です」
そんな事はローガンにも分かっている。だからこそ、今回の舞踏会を開いたのである。
「はぁ。とにかく分かった。下がっていいぞ」
神官らは頭を下げ、その場から下がる。ローガンの側近であるシンは頭を抱えるローガンに、更に頭を抱えたくなることを伝える。
「殿下。王妃様より、婚約者選びについて報告に来るようにと、言付かってきました」
「まだ舞踏会は終わっていないと言うのに……何故……今」
今回の舞踏会は聖女を見つける為だと王妃も知っているはずだが、王妃は第二王子に婚約者が未だ決まっていない事を良しとはしていなかった。
その為、本当に婚約者候補を見つけるようにと王子には伝えられていたのだ。
そんな場合ではないと何度も伝えても、聞く耳を持たない王妃である。
「はぁ……会場に来た令嬢らに挨拶をしたら向かうと、伝えてくれ」
ローガンは、大きくため息をつくと、自分を奮い立たせ立ち上がり、令嬢らに失礼にあたらないようにしっかり挨拶をし、側近らや王城勤めの者達のお見合いの場として後は花を咲かせてくれと締めくくった。
王子を得られなかった令嬢らはがっかりとはしたものの、代わりに与えられたチャンスに、瞳を煌めかせたのであった。
「ほーら、お食べなさい。あーん」
その頃、私は、美女から直々に”あーん”としてもらい、美味しくお菓子を咀嚼していた。
何か忘れている気がするが、美女の膝の上というのは、とても居心地がいい。
しかもお菓子はどれも絶品である。
「ん-。美味しい」
「ふふふ。たくさんお食べなさい」
「はい!」
貧乏男爵家の私では一生食べる機会のなかったであろう高級なお菓子。
最初は王妃殿下に恐れ多いと硬直していたのだけれど、王妃殿下がとてもお優しくて、緊張も和らいでいた。
せっかくだから、お腹いっぱい食べさせてもらおうなんて貧乏根性も出てくる。
「それで、コレットはどうして恋がしてみたいの?」
「え? えっと、ずっと夢なんです」
「夢。そうよね。乙女だものね」
「は……はい」
「それなら、私の息子なんてどうかしら?」
お菓子を食べながら、王妃殿下と恋バナ。
こんな日がくるなど思ってもみなかった。
それにしても、王妃殿下の冗談は冗談でも言ってはいけないような気がする。
貧乏男爵令嬢と第二王子殿下が恋なんて、絶対にありえない。
その時、部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
一体誰が入ってくるのだろう。
私はここにいたままでいいのだろうかと思っていたのだが、入ってきた人物を見て固まった。
「母上。私にもやらなければならないことがあるのですよ?」
「あらあら、ローガン。私の所に来る以上に大事なことがあるの?」
「ええ。もちろんです」
部屋に入ってきたのは、美しい白銀の髪と青い瞳を持った、我が国の第二王子殿下であらせられるローガン様であった。
王妃殿下によく似て、この王子殿下もまたお美しい。
私は呆然とそんなことを想っていると、ローガン様が私に視線を向けて、目を丸くした。
「母上。一体どこで妖精を拾ってきたのですか」
その言葉に、私は部屋をきょろきょろと見回す。
妖精?
一体どこに居るのだろうかと思いながら、私は、口の中のお菓子を急いで咀嚼して呑み込んだ。
けれど、あまりに急いだものだから、胸につっかえてしまう。
「うっ……むむむむむ」
胸をトントンと叩くと、王妃殿下が飲み物を手渡して下さった。
それを私は一気に飲み干す。
「ぷはっ。……すみません。ありがとうございます」
「コレット。大丈夫?」
優しく背中を撫でられ、私はうなずいた。
「だ、大丈夫です。お、王妃様、一度降りてもよろしいでしょうか。第二王子殿下にご挨拶を……」
「あら、嫌よ。コレットは私の膝の上にいなさい」
そんなやり取りをしていると、ローガン様がため息をつきながら言った。
「母上、その妖精さんはどこから連れてきたのです。勝手に連れて来たらご両親が心配しているのではないですか?」
「あら、あら。攫ってきたわけではないわ。とっても可愛らしいでしょう? コレットと言うの。一人で王宮に来たと言うから大丈夫よ。あぁ、私ずっと娘が欲しかったの。コレットは理想そのものだわ」
さも何の問題もないようにそういう王妃殿下に、ローガン様は額に手を当てながらわざとらしくもう一度ため息をついた。
そしてこちらへと視線を向けると申し訳なさそうに謝罪の言葉を継げる。
「すまない。どこのご令嬢かは知らないが、母が迷惑をかけた。王宮には、用事があって来たのではないか?」
「え? あ、はい……ハッ!? そ、そうでした」
今の今まで、王妃殿下の膝の上が居心地が良すぎて忘れていたけれど、私はローガン様の婚約者選びの場にきたのだ。
ただ……本人を目の前にしてそういう勇気はなかった。
それにしても、ローガン様がここにいるということは、早々に運命の人が見つかったのだろう……。
せめて側近様や騎士様とご縁を結びたかった。
私はせっかくの出会いの場に参加すらできなかったとがっくりとしたが、頭を王妃に撫でられて、気を取り直す。
美女の王妃殿下の膝の上で食べたお菓子はどれも絶品で、悔いはない。
「へへ」
「ふふ。コレットはとても可愛らしいわね」
「王妃殿下にそう言っていただけて、光栄です」
優しい眼差しに、私はデレデレである。
そんな私に向ける瞳から一変、鋭い瞳でローガン様を見ると、王妃殿下が尋ねた。
「それで、貴方のお相手は見つけましたか?」
「……母上、その話は後程」
ちらりとローガン様に視線を向けられ、二人の会話の邪魔になっているのだと気づくと、王妃の膝の上から降りようとした。
しかし、王妃殿下にぎゅっと抱き留められる。
「その様子だと、お相手見つからなかったのでしょう? なら、この子はどう? コレットというの。とっても可愛いわ。私、娘にするならこの子がいいわ」
犬猫を欲しがるのと同じくらいのテンションで突然そう告げられた言葉。
私は突然のことに目を見開いた。
ローガン様は、顔をひきつらせた。
「母上……何を……」
呆れた声でそう呟くローガン様に王妃殿下は背筋を正す。
「私、何度も言いましたよね……母は、娘が欲しいのです」
あまりに冷ややかな声に、ローガン様もつられて背筋を正す。
「母上」
「母は、何度も、何度も再三話をしたはずですが?」
美女の睨みとは恐ろしいものだ。
私はぶるっと体を震わせた。
王妃殿下は、私の方へと視線を向けると言った。
「コレットも、恋をしたいとさっき言っていたでしょう? ね? とりあえずお試しで」
え?
先ほどの話、本気だったのだろうか。
一国の王子をお試しなど出来るわけがない。
それに何より、男爵令嬢と王子殿下では釣り合いが全く取れない。
私のしたい恋愛は、あくまでも自分の身の丈に合った恋愛である。
王子殿下など高根の花すぎる。
しかし、瞳を輝かせる王妃殿下の笑顔が眩しすぎた。
私の最大の弱点は、美形に弱いことだ。
前世でも何だかんだと美形に頼まれれば、血反吐を吐きつつ叶えてしまった。
まさか今世でも血反吐を吐くことになるのだろうか……。
「さぁ、そうと決まれば、二人でちょっと散歩でもしてらっしゃいな」
「ご冗談を、母上、ご令嬢にも失礼です」
「冗談ではありません。失礼でもありませんわ」
ローガン様は王妃殿下の圧力に、ため息をつくと私の目の前に跪いて手を指し伸ばす。
「お嬢さん、一緒に庭を散歩をしに行っていただけますか?」
一瞬、ドキッと胸が高鳴った。
王子様が跪き手を指し伸ばすというのは、乙女ならば夢に見たことがある光景だ。
けれど……けれど。
ローガン様の視線が、物が立っていた。
これは小さな子を相手にするうな、そんな視線である。私はがくりと内心で肩を落とす。
まぁ、ただ、本物の王子様と庭を散歩できる機会など、これを逃してしまえば一生ないだろう。それならば良い思い出として一瞬でも疑似恋愛体験しようと、私は決める。
「はい。喜んで」
にっこりとほほ笑みを浮かべて、私はローガン様の手を取った。
煌びやかな令嬢達は華がある。
ただそんな華達の相手をローガン一人ではしきれないので、その場には王宮勤めの男性や、騎士達も参加し、ローガン本来の目的の為に笑顔の裏で取り調べが行っていく。
会話の中で、婚約者が以前いなかったか、婚約破棄されていないか、前回の舞踏会で庭へと出たかなど様々な事が楽しい会話の中で調べられていく。
少しばかり集団お見合いの雰囲気が醸し出され、何人かは本気で頬を染めあう姿も見られるが、ローガンにとってはそれらはどうでもいいことであった。
「どうだ。絞り込めたか?」
ローガンの言葉に、側近らは首を横に振った。
「殿下。この中には該当する者はいないようです」
その言葉に、ローガンは一度黙り込むと、自分が聞き間違え可能性も視野に入れて側近へと口を開いた。
「やむを得ない。国王陛下から許可はもらっている。神官らを会場へと入れ、聖女がいないか調べろ。令嬢らには神官だとばれないようにな」
「はい」
数名の神官らが通常の神官服ではなく、執事服で会場を側近らとともにまわっていく。
しばらくの間ローガンは横目でそれを見つめながら令嬢らと会話をし、そして神官らが帰って来ると一度席を外し、別室へと移動する。
聖女が居れば神官が気づかないわけがない。
しかし、本来神殿からほとんど出てこない神官らを外に連れ出して調べてもらったと言うのに、結果は思わしくなかった。
「本当に、いなかったのか?」
ローガンの言葉に、神官は頷く。
「はい。見せていただいた聖水は、まぎれもなく聖女が作ったもの。ですが、令嬢達の中に、あの聖水が作れるほどの力を持った者などいません」
その言葉にローガンは大きくため息をつき、額を手で押さえた。
「では、私が見たのは幻だとでも?」
神官は首を横に振り、希望に満ちた瞳で言った。
「いいえ。実際に聖水が証拠として残っております。あれほどの力、神殿には必要な人材です」
そんな事はローガンにも分かっている。だからこそ、今回の舞踏会を開いたのである。
「はぁ。とにかく分かった。下がっていいぞ」
神官らは頭を下げ、その場から下がる。ローガンの側近であるシンは頭を抱えるローガンに、更に頭を抱えたくなることを伝える。
「殿下。王妃様より、婚約者選びについて報告に来るようにと、言付かってきました」
「まだ舞踏会は終わっていないと言うのに……何故……今」
今回の舞踏会は聖女を見つける為だと王妃も知っているはずだが、王妃は第二王子に婚約者が未だ決まっていない事を良しとはしていなかった。
その為、本当に婚約者候補を見つけるようにと王子には伝えられていたのだ。
そんな場合ではないと何度も伝えても、聞く耳を持たない王妃である。
「はぁ……会場に来た令嬢らに挨拶をしたら向かうと、伝えてくれ」
ローガンは、大きくため息をつくと、自分を奮い立たせ立ち上がり、令嬢らに失礼にあたらないようにしっかり挨拶をし、側近らや王城勤めの者達のお見合いの場として後は花を咲かせてくれと締めくくった。
王子を得られなかった令嬢らはがっかりとはしたものの、代わりに与えられたチャンスに、瞳を煌めかせたのであった。
「ほーら、お食べなさい。あーん」
その頃、私は、美女から直々に”あーん”としてもらい、美味しくお菓子を咀嚼していた。
何か忘れている気がするが、美女の膝の上というのは、とても居心地がいい。
しかもお菓子はどれも絶品である。
「ん-。美味しい」
「ふふふ。たくさんお食べなさい」
「はい!」
貧乏男爵家の私では一生食べる機会のなかったであろう高級なお菓子。
最初は王妃殿下に恐れ多いと硬直していたのだけれど、王妃殿下がとてもお優しくて、緊張も和らいでいた。
せっかくだから、お腹いっぱい食べさせてもらおうなんて貧乏根性も出てくる。
「それで、コレットはどうして恋がしてみたいの?」
「え? えっと、ずっと夢なんです」
「夢。そうよね。乙女だものね」
「は……はい」
「それなら、私の息子なんてどうかしら?」
お菓子を食べながら、王妃殿下と恋バナ。
こんな日がくるなど思ってもみなかった。
それにしても、王妃殿下の冗談は冗談でも言ってはいけないような気がする。
貧乏男爵令嬢と第二王子殿下が恋なんて、絶対にありえない。
その時、部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
一体誰が入ってくるのだろう。
私はここにいたままでいいのだろうかと思っていたのだが、入ってきた人物を見て固まった。
「母上。私にもやらなければならないことがあるのですよ?」
「あらあら、ローガン。私の所に来る以上に大事なことがあるの?」
「ええ。もちろんです」
部屋に入ってきたのは、美しい白銀の髪と青い瞳を持った、我が国の第二王子殿下であらせられるローガン様であった。
王妃殿下によく似て、この王子殿下もまたお美しい。
私は呆然とそんなことを想っていると、ローガン様が私に視線を向けて、目を丸くした。
「母上。一体どこで妖精を拾ってきたのですか」
その言葉に、私は部屋をきょろきょろと見回す。
妖精?
一体どこに居るのだろうかと思いながら、私は、口の中のお菓子を急いで咀嚼して呑み込んだ。
けれど、あまりに急いだものだから、胸につっかえてしまう。
「うっ……むむむむむ」
胸をトントンと叩くと、王妃殿下が飲み物を手渡して下さった。
それを私は一気に飲み干す。
「ぷはっ。……すみません。ありがとうございます」
「コレット。大丈夫?」
優しく背中を撫でられ、私はうなずいた。
「だ、大丈夫です。お、王妃様、一度降りてもよろしいでしょうか。第二王子殿下にご挨拶を……」
「あら、嫌よ。コレットは私の膝の上にいなさい」
そんなやり取りをしていると、ローガン様がため息をつきながら言った。
「母上、その妖精さんはどこから連れてきたのです。勝手に連れて来たらご両親が心配しているのではないですか?」
「あら、あら。攫ってきたわけではないわ。とっても可愛らしいでしょう? コレットと言うの。一人で王宮に来たと言うから大丈夫よ。あぁ、私ずっと娘が欲しかったの。コレットは理想そのものだわ」
さも何の問題もないようにそういう王妃殿下に、ローガン様は額に手を当てながらわざとらしくもう一度ため息をついた。
そしてこちらへと視線を向けると申し訳なさそうに謝罪の言葉を継げる。
「すまない。どこのご令嬢かは知らないが、母が迷惑をかけた。王宮には、用事があって来たのではないか?」
「え? あ、はい……ハッ!? そ、そうでした」
今の今まで、王妃殿下の膝の上が居心地が良すぎて忘れていたけれど、私はローガン様の婚約者選びの場にきたのだ。
ただ……本人を目の前にしてそういう勇気はなかった。
それにしても、ローガン様がここにいるということは、早々に運命の人が見つかったのだろう……。
せめて側近様や騎士様とご縁を結びたかった。
私はせっかくの出会いの場に参加すらできなかったとがっくりとしたが、頭を王妃に撫でられて、気を取り直す。
美女の王妃殿下の膝の上で食べたお菓子はどれも絶品で、悔いはない。
「へへ」
「ふふ。コレットはとても可愛らしいわね」
「王妃殿下にそう言っていただけて、光栄です」
優しい眼差しに、私はデレデレである。
そんな私に向ける瞳から一変、鋭い瞳でローガン様を見ると、王妃殿下が尋ねた。
「それで、貴方のお相手は見つけましたか?」
「……母上、その話は後程」
ちらりとローガン様に視線を向けられ、二人の会話の邪魔になっているのだと気づくと、王妃の膝の上から降りようとした。
しかし、王妃殿下にぎゅっと抱き留められる。
「その様子だと、お相手見つからなかったのでしょう? なら、この子はどう? コレットというの。とっても可愛いわ。私、娘にするならこの子がいいわ」
犬猫を欲しがるのと同じくらいのテンションで突然そう告げられた言葉。
私は突然のことに目を見開いた。
ローガン様は、顔をひきつらせた。
「母上……何を……」
呆れた声でそう呟くローガン様に王妃殿下は背筋を正す。
「私、何度も言いましたよね……母は、娘が欲しいのです」
あまりに冷ややかな声に、ローガン様もつられて背筋を正す。
「母上」
「母は、何度も、何度も再三話をしたはずですが?」
美女の睨みとは恐ろしいものだ。
私はぶるっと体を震わせた。
王妃殿下は、私の方へと視線を向けると言った。
「コレットも、恋をしたいとさっき言っていたでしょう? ね? とりあえずお試しで」
え?
先ほどの話、本気だったのだろうか。
一国の王子をお試しなど出来るわけがない。
それに何より、男爵令嬢と王子殿下では釣り合いが全く取れない。
私のしたい恋愛は、あくまでも自分の身の丈に合った恋愛である。
王子殿下など高根の花すぎる。
しかし、瞳を輝かせる王妃殿下の笑顔が眩しすぎた。
私の最大の弱点は、美形に弱いことだ。
前世でも何だかんだと美形に頼まれれば、血反吐を吐きつつ叶えてしまった。
まさか今世でも血反吐を吐くことになるのだろうか……。
「さぁ、そうと決まれば、二人でちょっと散歩でもしてらっしゃいな」
「ご冗談を、母上、ご令嬢にも失礼です」
「冗談ではありません。失礼でもありませんわ」
ローガン様は王妃殿下の圧力に、ため息をつくと私の目の前に跪いて手を指し伸ばす。
「お嬢さん、一緒に庭を散歩をしに行っていただけますか?」
一瞬、ドキッと胸が高鳴った。
王子様が跪き手を指し伸ばすというのは、乙女ならば夢に見たことがある光景だ。
けれど……けれど。
ローガン様の視線が、物が立っていた。
これは小さな子を相手にするうな、そんな視線である。私はがくりと内心で肩を落とす。
まぁ、ただ、本物の王子様と庭を散歩できる機会など、これを逃してしまえば一生ないだろう。それならば良い思い出として一瞬でも疑似恋愛体験しようと、私は決める。
「はい。喜んで」
にっこりとほほ笑みを浮かべて、私はローガン様の手を取った。
