稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~

 久しぶりにローガン様から来訪の知らせを受け私はシシリーと共に気合を入れて準備をしていた。

 会うのはとても嬉しい。けれどそれと同時に、私は不安も抱いていた。

 私は、大きく深呼吸をすると、自分が決め他のことなのだからと気合を入れる。

「お嬢様ぁ。とてもお美しいですー!」

 私は髪の毛を可愛らしく結い上げてくれるシシリーに苦笑を浮かべた。

「ねぇ、そのシシリーって一体誰をモデルにしたの?」

 その言葉にシシリーは小首を傾げた。

「何をおっしゃっているんです? モデルなどおりませんよ。私はこのお屋敷に使えるただのシシリーでございますから」

 つまり、楽しく人間になりきっているのだなと私は呆れ顔を浮かべながらも、シシリーのおかげで肩の力が抜けたのであった。

 その頃、客室の一室にて、ローガンは執事のロンに紅茶を入れてもらいながら、話をしていた。

「以前私に依頼してきた女が、今、コレット様を狙っているとの情報が入っています」

 香り豊かな紅茶を、ローガンは一口飲むと、難しい表情のままため息をついた。

「他に、何かあるか?」

 ロンは静かな口調で話を続ける。

「ドラゴニアの国王は十六年前に亡くなった聖女様に異様な執着があるとか。手に入らなかったのはヴェールガのせいだと恨んでいるようです」

「聖女様か。確かに、コレットの力は聖女様と近いのかもしれないな」

 噴水の水全てを聖水に変えてしまうほどである。

 ローガンはロンと情報を共有しながら、今後どうしていくべきか、頭の中で思案する。

「まだ正確な情報は入りませんが、ドラゴニアに竜神が現れ、次期国王を指名したとか。ただ、現在それはドラゴニアでもめているようで、正確な情報はまだ入って来ていません」

 ダシャの姿を思いだし、ローガンは眉間にしわを寄せる。

 その時であった。爽やかな風が部屋を吹き抜けたかと思うと、部屋がノックされ、可愛らしく着飾ったコレットが入ってきた。

「ローガン様! 今日は来て下さってありがとうございます」

 可愛らしい笑顔を向けられたローガンは、ふっと表情をほころばせると、ロンに話はここまでと視線で伝え、二人だけのお茶会が始まる。

「コレット、今日も可愛らしいね」

「ふふ。ありがとうございます」

 しばらく話をした後に、二人は庭へと出ると、綺麗に咲く花の庭を歩く。

 今日は魔法使い達は王城で仕事があるということで誰もいない。

 コレットは、笑顔で話を聞いてくれるローガンに、静かに覚悟を決めたように口を開いた。

「ローガン様。私、貴方に言わなければならないことがあるの」

 真っ直ぐなその視線に、ローガンは足を止めるとコレットの方を見返す。

「どうしたの? コレット」

「私……実は」

 震える手を、コレットは抑えた。

 過去を清算すると決めた。

 そしてそれは今目の前にいる婚約者にも話をしておかなければならないことである。

 そう思い、覚悟を決めて口を開こうとした時であった。

 突然、黒い霧が辺りに広がり始め、ローガンはコレットを引き寄せると辺りを見回した。

「何だ!?」

「ローガン様!? これは」

 黒い霧の中に影が幾人も現れ、そしてその手には剣が握られている。

「何者だ!? 私をこの国の王子と知っての狼藉か!?」

 影達は揺らめくようにローガンへと攻撃を仕掛ける。ローガンはコレットが狙われている事を悟ると、その体を抱き上げて、一歩下がると剣を構える。

「狙いはコレットか」

 影達は瞳をぎらつかせると、ローガンへと一斉に切りかかった。

 コレットを抱き上げ、片手に剣を構えるローガンは、じっと影の動きを見据えながら、どこかに逃げる活路はないかと考える。

 現状、コレットを抱き抱えたままでこの人数相手に勝つことは難しい。

 どうすべきかと考えていた時、後ろから容赦なく剣が振り下ろされ、次々に攻撃を受ける。

 このままでは押され、いずれどこかで隙をつかれる。

 その時であった。

 いつの間にかローガンとコレットの後ろには王城へと続くゲートがあった。

 コレットは瞳を輝かせるとローガンに言った。

「ゲートを通って逃げましょう!?」

 しかし、背後にゲートがあることにローガンは違和感を覚える。

 この場所にゲートがあることは分かりきっていることであり、通常の戦いならばそんな場所に追い込むことはない。

 何かがあると感じたローガンはコレットを止めようとするのだが、次の瞬間一斉にローガンは影に剣を向けられ、必死にそれを防いでいくが、コレットを抱きかかえたままでは危ない。

「私の後ろにコレット隠れて!」

 そう言ってコレットを降ろしたローガンは、コレットを背に庇いながら戦い続ける。

 コレットは手を震わせ、決意したように言った。

「わ、私が、助けを呼んできます! すぐに戻りますから!」

「コレット!?」

 ゲートを通ろうとするコレットを止めようとするが、影達はここぞとばかりにとめどなく攻撃を仕掛けてくる。

「ダメだ! コレット!? 待って!」

「すぐに戻りますから! ローガン様! 待っていて!」

 ゲートをコレットは走って潜る。

 ローガンはその姿にぞくりとした物を感じた。

 次の瞬間、ゲートが黒い霧に包まれたかと思うと、地面を電流が走るように光が駆け抜け、今までいた影が一瞬にして消える。

「コレット!?」

 ローガンはゲートへと駆け寄るが、ゲートは黒い霧を吐き続け、そしてローガンがゲートに触れるとジュッと熱がローガンの手を焼く。

「いっ」

 痛みが走るが、それどころではない。

 ローガンはどうにかゲートを通ろうとするが、道が消えている。

「コレット!?」

 その場にロンが現れ、ゲートを無理やりに通ろうとするローガンを止めた。

「ローガン様!? ゲートは壊れているようです! 手が! あぁ……手が焼けただれている。何をしているのですか!?」

「離せ! コレットが連れて行かれた! ゲートに仕掛けがしてあったんだ!」

 声を荒げるローガンに、ロンは目を丸くし、そして、先ほど入手した情報をローガンへと告げた。

「ドラゴニアで王位争いが勃発。ダシャ王子が優勢となり王位を手に入れると思われた時、国王がドラゴニアに伝わる禁書を手に、行方をくらませたそうです」

「なん……だと?」

「情報屋によるれば、ドラゴニアの国王ダザールは、禁書を使い黒い霧と影を使役しているとか。これは……もしや同じものではありませんか?」

 黒々とした霧を吐き続けるその様子に、ローガンは苛立たしげに拳を強く握ると言った。

「ヴィシアンドルの所へと向かう。ロン、お前も一緒に来い」

「はっ。仲間にも知らせても?」

「あぁ。コレットを助けに行くぞ」

 ローガンはロンと共に神殿へと急ぎ向かうのであった。