稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~

「ハぁ……ハぁ……ついて……こい」

 ハァハァ言っている。

 自分よりも少し背の高い少年に、コレットは変態だったらどうしようと顔を青ざめさせながらこくりとうなずいた。

 荒い息遣いの少年は、私の腕を引っ張りながら、歩いて行く。

 服装もかなり汚れており、髪や肌は泥にまみれていた。

 ナイフを持って脅された以上ついていかざるを得ないのだが、変態だったら何をされるか分かったものではない。

 病気には連戦連勝の私だが、対人戦となれば一瞬でぷちりと潰されてしまえるほどに弱い。

 こんなことになるならば、シシリーが毎朝行っている護身術なるものを一緒に習うべきであった。

 シシリーが俊敏に動く姿を思いだし、ふと、あれ? あの動きが出来るならば、掃除や料理も腰を曲げずに俊敏に出来るのではないのかという疑問が浮かぶ。

 シシリーに謀られていたのではないかという疑問。

 私は首を横に振ると今はそんなことはどうでもいいと頭を切り替える。

 少年は森の中をずんずんと進んで行くが、結局のところ自分達が行ける範囲は魔法で限られているはず。

 それならばどうにか逃げ出すチャンスがあるはずだと私は気合を入れた。

 森の斜面にある小さな岩穴に少年は私の腕を引いて入ると、そこで足を止めた。

 岩穴の中には小さな松明が焚かれており、そこに人が横たわっているのが見えた。

 少年はナイフをしまうと、私の目の前で土下座し、頭を地面にこすり付けながら言った。

「お願いします聖女様。どうか……どうか、兄ちゃんを助けて下さい」

「え?」

 どうして聖女だとばれたのだろうか。

 少年は土下座したままの姿勢で粋を荒くし、そして胸を押さえると苦しそうに呼吸を繰り返す。

 その様子に、私は眉間にしわを寄せた。

「ねぇ、顔を上げて。あの……貴方も病気なの?」

 少年は顔をバッとあげると、黒色の瞳でじっとコレットを見つめると、涙を流した。

「俺は、俺はなんともありません。どうか、兄ちゃんを」

 何があったのかは分からないが、地面につく手が白くなるほどに握りしめ、苦しそうに唇を噛む姿に私は取りあえず変態じゃなくて良かったと思った。

 そして、横になっている青年の方へと歩み寄った。

 その姿をよくよく見て、私は眉間にしわを寄せた。

 肌が赤黒く爛れはじめ、膿をもち、それが発熱を引き起こす。

 肌にゆっくりと触れると、熱く、ねっとりとした感触にコレットは少年の方を見て尋ねた。

「この病は村人の物と一緒ね。でも、村人でもここまで酷い症状はいなかった。どういうことなの?」

 少年はぐちょぐちょになった顔を両手で覆うと、嗚咽をこぼしながら言った。

「この病を……ばらまいたのは、俺なんだ。俺のせいで……俺のせいで!」

 泣き続け、言葉が聞き取れないことに私は息をつくと、笑顔で言った。

「大丈夫だよ。ちゃんと治るから。だから、泣かない泣かない」

「ほ……本当に?」

「うん。でもなんで私が聖女だって思ったの?」

 その言葉に少年は小首を傾げた。

「だって、体から光が溢れている。今まで見てきた誰よりも」

 その言葉に、私は目を大きく見開くとなるほどと思った。

 この子は、神官になる才能を持っているのだ。

 神官は聖女の力を見える目を持っている。だからこそ気づかれても仕方がない。

 その時、私はあれ? と、首を傾げる。 

 最高神官長であるヴィシアンドルは、自分に会っている。最高神官長ともあろう人が、見えないということがあるのだろうか。

 いや、ない。

 さぁっと血の気が引いていく。

 ただ、まぁ、知っていようがいまいが、ここで病気を治してしまった以上皆に知られるのは時間の問題である。

 私は苦笑を浮かべながら、横たわり、辛そうな青年の体を優しく撫でていく。

「今、楽にしてあげるから。ねぇ、その代り、治ったらちゃんと詳しく話を聞かせてね」

 コレットの言葉に少年は何度もうなずいた。

「約束よ」

「竜神に誓って約束する」

 ドラゴニアでは竜神に誓うのだなと思いながらも、空気の中にある光を集め、自分の中にある聖力と混ぜ合わせて目の前に横たわる青年の体の中に、ゆっくりと流していく。

 黄金の風が、波を作り、私の体の周りを流れていく。

「す……すごい」

 少年は目を丸くしその光景を呆然と見つめた。

「こんなすごい光、見たことがない」

 そう思いながら、少年が私を見る。

 そして少しばかり、眉間にしわが寄った。

「ふんふんふふふーん。」

 鼻歌が恐ろしいほどに音が外れているのに気付かれてしまったようだ。

「音、外れている」

「いいの。この方が力流し込みやすいの」

「は、はい」

 青年の体の皮膚が、ゆっくりと色を変え、そして元の美しい肌へと戻っていく。

「兄ちゃん!」

 光がゆっくりと消え、そして青年の体は怪我一つない肌に戻っていた。

 少年は青年へと手を伸ばし、その体を揺すぶる。

「兄ちゃん! 兄ちゃん!」

 穏やかな寝息が聞こえ、少年はその場にしりもちをつくと力が抜けた様子で大きく息をつく。

「良かった。兄ちゃん……よかったぁぁぁっ」

 泣いているのか笑っているのか、少年のその様子を見た私は今度は少年の体を治さなければと手を伸ばして触れ、そして目を丸くした。

「え……」

「あっ!?」

 少年は私を振り払いそうになるが、それをぐっと堪えた。

 恩人を傷つけるわけにはいかないとでも思ったのだろう。

 私は治そうと思って触れた少年の体を見て、目を丸くしたまま少年の瞳を見て驚いた。

「貴方、普通の人ではないわね。まさか……竜人?」

 少年は自分の体をぎゅっと抱きしめ、苦しそうな表情を浮かべた。

 少年は大きく深呼吸をすると、ゆっくりとした口調で言った。

「俺の名前は、ダシャ・ドラゴニア……一応、ドラゴニアの王子の一人なんだ」

 ドラゴニアは竜の血を引くと言うが、私はこれほどまでに竜の血を色濃く引く人には初めて出会った。

 ”聖女様”であった頃、国の威厳を示すために聖女として力の強かった私は、国同士の偉い方々が集まる場で挨拶をすることが何度かあった。

 その時にも何人かドラゴニアの王族に会っているが、ダシャほど力を強くは感じられなかった。

 ダシャは横たわる青年の髪を優しく撫でると、小さな声で呟く。

「彼の名前はディ。俺の世話をずっとしてきてくれたんだ……」

「それがどうして、こんな場所に? それに先ほど、俺のせいだと言っていましたね?」

 私の言葉に、ダシャは頷くと両手で顔を覆って言った。

「俺は呪われた王子なんだ……竜人なのにもかかわらず、忌み嫌われる黒を纏って産まれた。そして二か月前、聖女がドラゴニアに現れないのは、俺のせいだって……それで、ディは俺を殺すように命じられたらしい」

「は?」

 突然の告白に、私は意味が分からず目を丸くしたのだった。