稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~

 チャンスをつかむためにはどうするか。一番重要な事は何かご存じだろうか。

 それは、ずばり、下準備である。

 ここではっきりと言っておこう。

 戦場に向かう時、一番重要な事は下準備である。

 それを疎かにしてしまえば勝てる戦も勝てない。

 私は前世にてそれをよく学んでいた。

 いくら聖女としての力があろうが、しっかりと鍛練を行い修行を重ねておかなければいざという時にその力を十分に発揮することは出来ない。

 そうなればどうなるか、屈辱を味わう事になるのだ。

 だからこそ、朝一番から湯あみをし、誕生日プレゼントにもらったここ一番と言う時にだけしか使わない香油を大切に大切に使って自分を磨き上げていく。

 髪の毛も優しくタオルドライをして、丁寧に乾かして、櫛でとかして美しく結ってもらう。

 ここまではいい。

 ただし、ドレスに関しては難しすぎる。

 侍女と相談して、どうにかこうにかドレスのリメイクを試みてはみたものの、やはり全体的に可愛らしい仕上がありとなっており、それだけは覆せない。

 鏡の前には十分に美少女と呼べるレベルに仕上がっているコレットがいる。ただし、やはり、誰がどう見てもそこに映るのは美少女。

 つまり、美女ではない。

「うん。可愛らしいぞコレット……頑張るんだぞ」

「まぁ、コレット。本当にとっても可愛らしいわ! これならきっと。えぇ。きっとどこかの誰かを射止められる……いいえ。必ず射止めていらっしゃい」

 両親からの圧力を感じながら、私は馬車へと乗り込み、王城へと向かう。

 貧乏男爵家の馬車は外装はまだ美しさを保っているが、内装はすでにボロボロであり、人に見せられるようなものではない。

 私はドレスをひっかけないように座り、尻に直接的に響く振動を感じながら王城を目指す。

 こんなにもすぐに王宮の舞踏会にまた参加することになるとは思ってもみなかった。

 婚約破棄された挙句、結局一曲すらも踊れずに終わった舞踏会。

 前回の事を想いだし、苦虫を噛んだような表情になってしまうがすぐに頬を自分でこねくりまわして可愛らしい笑顔に戻すと、闘志を燃やす。

 王子は、無理だろう。

 さすがに一国の王子があの会場で私に運命を感じるとは思えない。

 もし一瞬で私を運命と感じ、恋に落ちたというならば、王子の性癖を疑う。

 恋愛がしたい。色恋について“あはは”“うふふ”と友人と話してみたい。

 だからと言って、小さな女の子が好きとかいう性癖の持ち主でいいかと言われたら、違うのだ。

 狙いどころは婚約者のいない、独身の側近、もしくは騎士である。

「よし。頑張るわ」

 王宮に着くと、馬車から降りると会場までの道のりを歩いていく。

 他の令嬢達も今回はエスコート役はおらず、一人で歩いていっている。

 一歩進んだところで、私は令嬢達の装いに、絶望を感じていた。

 下準備ですでに……負けている。

 どの令嬢も気合を入れているのが一目瞭然である。

 前回の舞踏会よりも恐らく金がかかっているだろう。

 それに比べてコレットはどうか。

 金が掛けられない分、時間をかけたがやはり大きな差が出てしまうものだ。

 始まる前から負けた。

 そう、絶望した様子でとぼとぼと舞踏会場へと向かい、そして建物の中へと入ると、会場の扉の前でまたため息をついてしまう。

 それでも両親の姿を頭の中に思いだし、気合を入れて闘志にもう一度火をつける。

 やるしかないのよコレット!

 私は出来る子! 気合で負けてたら、誰にも勝てないわ!

 最終的に根性論である。

 両親からお前は心臓に毛が生えていると言われた事もある私だ。どうにかなる。

「あら、まぁ。可愛らしい子がいるわ。ねぇ貴方。今日はどうしたの?」

 後ろから声を掛けられ、振り返ると、そこには美しく艶めかしい装いの美女がいた。

 少し濃いめの化粧も美女だからこそ、より一層に美しく似合っている。

 胸元が大きく開いたドレスも、甘く香る香水も、見た目子どもな私には絶対に似合わない代物である。

 私は、あまりに美しいその人を見て硬直してしまう。

 その人が誰かなど一目瞭然であり、男爵令嬢であるコレットが容易く話のできる相手ではない。

 そこに立っておられたのは、王妃殿下であらせられるセレステ様であった。

「ちょっと、大丈夫? うふふ。でも本当に可愛らしいわね。一緒においでなさいな。ここは貴方には場違いな場所でしてよ」

「え? あ……でも」

「ほらほら。おいでなさい」

「え? あ……はい」

 誘われるままに手を引かれ、私は美女に連れられて、舞踏会場から遠ざかっていく。

 美女の色香に充てられて本来の目的から逸脱していることに気づいていないのであった。