肉の味を十分に堪能した二人である。ローガンは小さな体でぺろりと肉を食べきったコレットのお腹をちらりと見て、よくその細い体におさまったなと内心感心している。
「おいしかったですね」
「そうだな。コレット、こっちを向いて。まだ口についている」
そう言いながらローガンはコレットの口元を拭う。当たり前のように口元を綺麗に拭われながら、あれ? と、コレットの中で小さな疑問の芽が育つ。
ローガンはその後、コレットの手をぎゅっと握ると言った。
「はぐれないように手を繋いでおこうね?」
「は……はい」
頬を赤らめたコレットであったが、またあれ? とわずかな疑問が頭の中をよぎる。
しかし、頭を振るといやいやまさかと、自分の疑問の正体を振り払った。
二人は手を繋いで商店街を歩いていくと、噴水の前に人だかりができているのを見つけ、それに引き寄せられるように向かって行った。
どうやら大道芸人が見世物をしているらしく、人だかりができているようだ。
「何をしているんでしょうね?」
コレットがわくわくといった表情でローガンを見上げて尋ねると、ローガンはちらりと人ごみの中へ視線を向ける。
「どうやら、大道芸人がいるようだよ」
それを聞いたコレットは瞳を輝かせてその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
それに合わせてスカートがふわりふわりと浮くのが可愛らしくて、ローガンは笑いを堪えた。
「コレット。少し失礼するよ?」
「え?っ!? きゃっ!!」
ローガンは大道芸人が見えるようにコレットを軽々と抱き上げる。
突然の行動にコレットは驚きながらも大道芸人を見て、歓声を上げた。
「すごい! 本当に壁があるみたいに動いています!」
瞳を輝かせてひとしきり芸を楽しんだコレットだが、ここでハッとする。
そして先ほどからの疑問が確信へと変わっていく。
大道芸が終わり、ローガンはコレットを地面へと下すと、にっこりとほほ笑みを浮かべるが、それに、コレットは不満げに頬を膨らませる。
ローガンは突然機嫌の悪くなったコレットに首を傾げる。
「コレット? どうしたんだい?」
ローガンの言葉に、コレットはリスのように頬を膨らまして怒った。
「ローガン様……私の事を子ども扱いしてませんか?」
「え?」
突然の苦情に、ローガンは視線を泳がせると頭をぽりぽりと掻いて苦笑を浮かべる。
その様子にコレットはさらに頬を膨らませると、手を腰に当ててローガンにはっきりとした口調で言った。
「私は、ローガン様の婚約者です! 子ども扱いは止めて下さいまし!」
ぷりぷりとして起こる姿もまた可愛らしい。
ついそうローガンは思ってしまうが、これを言ったらさらに怒られる気がした。
なので反省しているように手を胸に当てて、真剣な表情で言葉を返した。
「子ども扱いのように感じたならばすまない。つい、君が可愛らしくて」
「か、かわ。う! ごまかされませんよ」
本当に分かっているんだろうかと、コレットは唇を尖らせる。
その仕草はハッキリと言えば子どもっぽい。だが本人は至って真面目に悩んでいる。
子ども扱いでは、恋愛にならない。
どうにかしてコレットはローガンに自分は成人している女性なのだと認めさせなければと闘志を燃やすのだが、どうしたらいいのかは分からない。
「ローガン様はどうやったら私のことをちゃんと女として見てくれますか?」
潤んだ瞳で突然そう言われたローガンは驚き、目を瞬かせる。
そして思わず吹き出すように笑った。
「はははっ。何を言うのかと思えば、コレットはおませさんだなぁ」
「なっ!?」
同じ年なのにもかかわらず、コレットは明らかに子ども扱いされていることに顔を歪めた。
前世を足せばはるかにコレットの方が年上だというのにだ。
王子と言う立場のローガンは、中々に不機嫌な人という人に出会わない。
出会うとすれば王妃くらいなもので、王妃の不機嫌は大抵は国王である父が治すので自分には無関係なことが多かった。
だが、今まさに、ローガンは父の苦労を知ることとなる。
コレットは一瞬にして不機嫌になり、先ほどまでの可愛らしい笑みは消えてしまった。
ローガンにとって女性に不機嫌な態度を取られることは初めての経験であり、どうしたらいいのかが分からない。
陰から見ている護衛らもはらはらとしているが、口を出すわけにもいかない。
どうしたものかとローガンは頭を掻いていた時であった。
ちょうど近くの教会の鐘の音が鳴り響いた。
「あぁ、今日はヴィシアンドル殿の礼拝の日だったか」
「ヴィシ……アンドル殿?」
コレットはローガンの視線の先へと目を向け、目を見開いた。
そこには、教会からちょうど出てきた神官がおり、その人をコレットは知っていた。
ローガンは片手を上げると、ヴィシアンドルの方へと声をかける。
「ヴィシアンドル最高神官長殿」
声を掛けられたヴィシアンドルは、ローガンとコレットの方へと視線を向け、こちらへと歩いてくると頭を下げた。
「第二王子殿下とご令嬢にご挨拶を申し上げます。本日は、お出かけですか?」
柔らかな微笑を浮かべるヴィシアンドルに、コレットはぎょっとしながら固まっている。
それにローガンは気づかずにうなずいた。
「ええ。婚約者のコレット・ステフ男爵令嬢だ。コレット。こちらは最高神官長であるヴィシアンドル殿だ」
「ヴィシアンドルと申します」
頭を下げ、にこやかな笑みを向けてくるヴィシアンドルから一歩後ろに下がりながら、コレットもどうにか笑みを浮かべると返事を返した。
「コレット・ステフです。お会いできて光栄です」
ヴィシアンドルは優しげな笑みを携えたまま、ローガンとコレットをそれぞれ見ると、ローガンの方を見て静かに言った。
「第二王子殿下、ご婚約者を怒らせてはいけませんよ。ちゃんと大切にしなければ」
「え?」
何故分かったのだろうか。ローガンとコレットが目を丸くすると、ヴィシアンドルはコレットの前へと進み出ると、懐から小さな箱を取り出して、それをコレットへと手渡した。
「あの……これは?」
ヴィシアンドルは微笑むと、コレットに開けてみるように促す。
コレットがおそるおそるその小さな箱を開けると、中には綺麗な薔薇の花が入っていた。枝も葉もない状態なのに、綺麗に花の形を保っている。
それを見て、コレットはパアァッと瞳を輝かせた。
「綺麗」
「美しいコレット嬢にぴったりかと。最近町で流行の、魔法で風化を止め作られたプレゼント用の花です。よかったらどうぞ。その代りと言ってはなんですが、機嫌を直して、外の世界を楽しんで下さい」
そう言われたコレットは、内心ぎくりとしながらも、もらった花の美しさに笑みを返した。
「そうですね。せっかくだから楽しまなきゃ損ですよね。ローガン様。申し訳ありませんでした」
謝るコレットに、ローガンは慌てて首を横に振った。
「いや、私こそ配慮に欠けていた。すまない」
「いえ、いいんです」
機嫌が元に戻ったことは喜ばしい。
ただ、ローガンとしてはそれが違う男の手によって戻ったということが、なんとなく癪に障る。
小さいことではあるが、それでもコレットの笑顔を自分が取り戻したかったのだ。
少し不満げなローガンに、ヴィシアンドルは声を潜めて言った。
「女性を大切にしないと、天罰が下りますよ?」
ぞわりとしたものが背筋を駆け抜けていく。ローガンは目を丸くしてヴィシアンドルを見るが、ヴィシアンドルはいつもの優しい笑みを浮かべているだけである。
気のせいかとも思ったが、背筋の寒さはなかなか取れなかった。
「おいしかったですね」
「そうだな。コレット、こっちを向いて。まだ口についている」
そう言いながらローガンはコレットの口元を拭う。当たり前のように口元を綺麗に拭われながら、あれ? と、コレットの中で小さな疑問の芽が育つ。
ローガンはその後、コレットの手をぎゅっと握ると言った。
「はぐれないように手を繋いでおこうね?」
「は……はい」
頬を赤らめたコレットであったが、またあれ? とわずかな疑問が頭の中をよぎる。
しかし、頭を振るといやいやまさかと、自分の疑問の正体を振り払った。
二人は手を繋いで商店街を歩いていくと、噴水の前に人だかりができているのを見つけ、それに引き寄せられるように向かって行った。
どうやら大道芸人が見世物をしているらしく、人だかりができているようだ。
「何をしているんでしょうね?」
コレットがわくわくといった表情でローガンを見上げて尋ねると、ローガンはちらりと人ごみの中へ視線を向ける。
「どうやら、大道芸人がいるようだよ」
それを聞いたコレットは瞳を輝かせてその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
それに合わせてスカートがふわりふわりと浮くのが可愛らしくて、ローガンは笑いを堪えた。
「コレット。少し失礼するよ?」
「え?っ!? きゃっ!!」
ローガンは大道芸人が見えるようにコレットを軽々と抱き上げる。
突然の行動にコレットは驚きながらも大道芸人を見て、歓声を上げた。
「すごい! 本当に壁があるみたいに動いています!」
瞳を輝かせてひとしきり芸を楽しんだコレットだが、ここでハッとする。
そして先ほどからの疑問が確信へと変わっていく。
大道芸が終わり、ローガンはコレットを地面へと下すと、にっこりとほほ笑みを浮かべるが、それに、コレットは不満げに頬を膨らませる。
ローガンは突然機嫌の悪くなったコレットに首を傾げる。
「コレット? どうしたんだい?」
ローガンの言葉に、コレットはリスのように頬を膨らまして怒った。
「ローガン様……私の事を子ども扱いしてませんか?」
「え?」
突然の苦情に、ローガンは視線を泳がせると頭をぽりぽりと掻いて苦笑を浮かべる。
その様子にコレットはさらに頬を膨らませると、手を腰に当ててローガンにはっきりとした口調で言った。
「私は、ローガン様の婚約者です! 子ども扱いは止めて下さいまし!」
ぷりぷりとして起こる姿もまた可愛らしい。
ついそうローガンは思ってしまうが、これを言ったらさらに怒られる気がした。
なので反省しているように手を胸に当てて、真剣な表情で言葉を返した。
「子ども扱いのように感じたならばすまない。つい、君が可愛らしくて」
「か、かわ。う! ごまかされませんよ」
本当に分かっているんだろうかと、コレットは唇を尖らせる。
その仕草はハッキリと言えば子どもっぽい。だが本人は至って真面目に悩んでいる。
子ども扱いでは、恋愛にならない。
どうにかしてコレットはローガンに自分は成人している女性なのだと認めさせなければと闘志を燃やすのだが、どうしたらいいのかは分からない。
「ローガン様はどうやったら私のことをちゃんと女として見てくれますか?」
潤んだ瞳で突然そう言われたローガンは驚き、目を瞬かせる。
そして思わず吹き出すように笑った。
「はははっ。何を言うのかと思えば、コレットはおませさんだなぁ」
「なっ!?」
同じ年なのにもかかわらず、コレットは明らかに子ども扱いされていることに顔を歪めた。
前世を足せばはるかにコレットの方が年上だというのにだ。
王子と言う立場のローガンは、中々に不機嫌な人という人に出会わない。
出会うとすれば王妃くらいなもので、王妃の不機嫌は大抵は国王である父が治すので自分には無関係なことが多かった。
だが、今まさに、ローガンは父の苦労を知ることとなる。
コレットは一瞬にして不機嫌になり、先ほどまでの可愛らしい笑みは消えてしまった。
ローガンにとって女性に不機嫌な態度を取られることは初めての経験であり、どうしたらいいのかが分からない。
陰から見ている護衛らもはらはらとしているが、口を出すわけにもいかない。
どうしたものかとローガンは頭を掻いていた時であった。
ちょうど近くの教会の鐘の音が鳴り響いた。
「あぁ、今日はヴィシアンドル殿の礼拝の日だったか」
「ヴィシ……アンドル殿?」
コレットはローガンの視線の先へと目を向け、目を見開いた。
そこには、教会からちょうど出てきた神官がおり、その人をコレットは知っていた。
ローガンは片手を上げると、ヴィシアンドルの方へと声をかける。
「ヴィシアンドル最高神官長殿」
声を掛けられたヴィシアンドルは、ローガンとコレットの方へと視線を向け、こちらへと歩いてくると頭を下げた。
「第二王子殿下とご令嬢にご挨拶を申し上げます。本日は、お出かけですか?」
柔らかな微笑を浮かべるヴィシアンドルに、コレットはぎょっとしながら固まっている。
それにローガンは気づかずにうなずいた。
「ええ。婚約者のコレット・ステフ男爵令嬢だ。コレット。こちらは最高神官長であるヴィシアンドル殿だ」
「ヴィシアンドルと申します」
頭を下げ、にこやかな笑みを向けてくるヴィシアンドルから一歩後ろに下がりながら、コレットもどうにか笑みを浮かべると返事を返した。
「コレット・ステフです。お会いできて光栄です」
ヴィシアンドルは優しげな笑みを携えたまま、ローガンとコレットをそれぞれ見ると、ローガンの方を見て静かに言った。
「第二王子殿下、ご婚約者を怒らせてはいけませんよ。ちゃんと大切にしなければ」
「え?」
何故分かったのだろうか。ローガンとコレットが目を丸くすると、ヴィシアンドルはコレットの前へと進み出ると、懐から小さな箱を取り出して、それをコレットへと手渡した。
「あの……これは?」
ヴィシアンドルは微笑むと、コレットに開けてみるように促す。
コレットがおそるおそるその小さな箱を開けると、中には綺麗な薔薇の花が入っていた。枝も葉もない状態なのに、綺麗に花の形を保っている。
それを見て、コレットはパアァッと瞳を輝かせた。
「綺麗」
「美しいコレット嬢にぴったりかと。最近町で流行の、魔法で風化を止め作られたプレゼント用の花です。よかったらどうぞ。その代りと言ってはなんですが、機嫌を直して、外の世界を楽しんで下さい」
そう言われたコレットは、内心ぎくりとしながらも、もらった花の美しさに笑みを返した。
「そうですね。せっかくだから楽しまなきゃ損ですよね。ローガン様。申し訳ありませんでした」
謝るコレットに、ローガンは慌てて首を横に振った。
「いや、私こそ配慮に欠けていた。すまない」
「いえ、いいんです」
機嫌が元に戻ったことは喜ばしい。
ただ、ローガンとしてはそれが違う男の手によって戻ったということが、なんとなく癪に障る。
小さいことではあるが、それでもコレットの笑顔を自分が取り戻したかったのだ。
少し不満げなローガンに、ヴィシアンドルは声を潜めて言った。
「女性を大切にしないと、天罰が下りますよ?」
ぞわりとしたものが背筋を駆け抜けていく。ローガンは目を丸くしてヴィシアンドルを見るが、ヴィシアンドルはいつもの優しい笑みを浮かべているだけである。
気のせいかとも思ったが、背筋の寒さはなかなか取れなかった。
