稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~

 そんな大事になっているとは梅雨知らず。

 馬車に揺られ、どうにか落ち着きを取り戻した私は小さく息をついた。

 ローガン様との時間をゆっくり過ごせなかったのは残念ではあったが、気になるのはそればかりではない。

 レオナルドの部屋に飾られていた花に、私は良い思い出がない。

 そこにあるだけで毒を少量ずつ空気に放つ花は、少しずつ体の中に毒素を蓄積させていく。

 毒と言うものは厄介である。

 しっかりとその成分を理解し、その上で治療していく必要がある。
 
 外傷であれば聖水でどうにかなるが、毒はそうはいかない。

 聖水を飲んでも体力は回復するが、毒素そのものを分解できるわけではないのだ。

 そして、そもそも何故そんな毒を放つものが部屋に当たり前のように飾られていたのか。

 考えれば考えるほどに不可解である。

 それに、結局プレゼントも渡せなかった。

 せっかく作ったのに。王城の管理部から許可が下りなかったのだ。

 異性に渡すプレゼントは初めてであったが、何がいけなかったのだろう。

 そしてあの匂い袋は結局どうなるのだろうかと、私はため息をついた。

「まぁ、また作ればいいわね」

 そんなことを思っていた私の元に、翌日、ローガン様と共にルートが大勢の魔法使いを引きつれて来るなど想像もしていなかった。

 王族など招いたことのない貧乏男爵家である。

 全く猶予がないということに、大騒ぎとなり、いつもはおっとりと動いているシシリーが高速で掃除をしていく。

 私は俊敏に動くシシリーを見て、そんなに動けたのかと驚いた。

「シシリー。すごい動き……」

「お嬢様ぁぁ! 動かなければ! シシリーは、心臓が、心臓が!」

「大丈夫!?」

「止まりかけておりますぅぅぅ!」

「止まらないで何よりよ! ちょっと休んで!」

 父と母はそれぞれ王子に出すお茶やお菓子の準備を整え、警備体制については城へと連絡を取ってどのようにするのか手筈を整える。

 私はローガンが庭を見たいと手紙に書いてあったことで、庭の手入れに力を入れる。

 ステフ家は一丸となって家を出来るだけ見栄えがいいように整え、庭を整え、お持て成しをする準備を整えた。

 そして出迎えの時にはどうにか笑顔を浮かべていたのだが、到着した仰々しい一行を見て、皆がその笑顔を一瞬で消した。

 ローガン様を先頭に、後ろから魔法使いが大勢着いて来る。

 護衛の騎士ならばまだ分かる。

 だが、着いて来ているのは魔法使いであり、ステフ家一同内心パニックである。

 何か魔法使いが出てくるようなことがあっただろうかと考えるが、貧乏男爵家にはそんなことあるわけもない。

 そんな動揺するステフ家一同に、ローガン様は一礼をする。

「本日はお忙しい所、時間を作っていただきありがとうございます。本日はコレット嬢の庭を見せていただきたく来た所存です。コレット嬢。今日は突然すまなかったね。手紙にも書いたが庭を見せてもらえるだろうか。事情を詳しく話せなくて申し訳ないが、全て解決すれば、きちんと話すので」

 私はその言葉に慌ててうなずいた。

「も、もちろんです。あの、こちらです」

 何のための魔法使いたちなのだろう。

 皆内心戦々恐々としている。

 私を先頭にしてローガン、魔法使い達は移動していく。

 私の両親はその様子を見守りながら、顔を引きつらせた。

「大丈夫かしら。コレットのお庭……変なものばかり生えているから……怒られるのかしら?」

「う……うむ。趣味だからいいかと思っていたが、変わった植物ばかりだったしな」

 娘が何かしらの罪に問われるのではないかと、青ざめざるを得ない。

 そして今一番顔を青くしているのは、私である。

 どうしましょう。

 私、やらかしたのかしら。

 育てちゃいけない植物でもあったのかしら?

 あぁ分からない。

 とにかく、とにかくローガン様に嫌われないようにしなくちゃいけないわ。

 婚約破棄だけは、婚約破棄だけは阻止しなくちゃ!

 私は心の中でそう誓った。

 庭へと着くと、おずおずと案内を開始する。だが、何を案内すればいいのだろう。

「えっと、ここが私の庭です。その……珍しいものなどない庭ですけれど」

 そこまで広い庭ではない。

 人一人で手入れが行き届くことが出来る、小さな庭だ。

 しかし、そこに生えている植物を見た瞬間、魔法使いらは目を丸くて言葉を失った。

 ローガン様はルート様に尋ねる。

「どうだ? 私はあまり薬草に詳しくないが、ルート魔法使い長はわかるのだろう?」

 ルートは今までに見た事が無いほどに瞳を輝かせると、コレットの両手をがばりと取り、両手をぎゅっと力いっぱいに握ると見たことのないきらきらとした瞳で言った。

「素晴らしい庭です! これほの宝の山が、男爵家の庭にあるとは! どういう仕組みなのかは知りませんが、なんということだ!」

 ローガン様は眉間にしわを寄せるとルート様の手を叩き落とし、私と引き離した。

「ルート殿、やめていただきたい」

「ハッ!? 申し訳ありません。ですが! ですがこれは! 宝の山でございます!」

 私はルート様の変わりように驚いた。

 それと共に、ローガン様が私とルート様を引き離す行動に出たことに、少しだけ胸が高鳴った。

 嫉妬とか独占欲とかの行動に似ていないだろうか。

 もしやローガン様は私の事を?

 きゃー! ふふふ! 婚約者だものね! などと私の心は盛り上がる。

 まさかローガン様がこの時に、ルート様のことをロリコンと疑っているなどとは知りもしない。

「それで、ルート魔法使い長。目的の植物は?」

「あ、少しお待ちください。確認してまいります!」

 ルート様や他の魔法使いらは庭を隅から隅まで調べ始めており、私はそれを心配げな様子で見つめたのであった。