稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~

 前世の記憶を元に話をしてしまうのは容易いが、どうして知っているのかと聞かれれば困る。

 手に答えればそこから突かれて言わなくてもいい事まで言ってしまいそうである。

 コレットは頭がパンクしそうになりながら必死で考えると、顔を引きつらせ、そして答えた。

「レオナルド様の目にゴミでも入ったのではないかと……それで、慌てて……その、目を見て。申し訳ありません。あまりにも失礼でした!」

 その言葉に、ルートは予想とは違う回答に眉間にしわを寄せる。

 ローガンは小さくため息をつくと、コレットの頭をぽんと撫でた。

「コレット。反省しているならば今回は許すけれど、もうしないと約束をしてね」

「はっはい!」

 コレットのことをまだ幼いと勘違いしているローガンは仕方がないかとそれですませようとした。

 しかしルートは納得できるものでは無い。

 微かな刺激臭の原因は、おそらくは花瓶に活けてあった隣国ドラゴニアに生息する植物による毒素。

 第一王子は毒による中毒症状の一つである眼光の濁りと揺れが確認された。

 まさか、毒に気付いて確認したのか?

 そうルートは一瞬考えるが、ただの令嬢が、しかも小さな令嬢がそんなことに気付くわけはないと頭を振った。

 自分の考え過ぎだと結論を出す。

「そうでしたか。ではもう一つ確認したいのですが、あの匂い袋はどうしたのですか? どこかで買ったのですか?」

 その言葉に、コレットは話題がそれたことホッとして笑顔で答えた。

 これであれば普通に何の偽りもなく答えられる。

「あぁ、あれは私の育てた薬草や花を使って作ったんです。とっても簡単に作れるんですよ。検品に出しましたが、どうして魔法使長様がご存じなのですか?」

「ん?」

 ルートはコレットの言葉に目を点にすると、自分の聞き間違えだろうと思い、もう一度問いかけた。

「作ったとは、一体誰が、作ったんですか? あと……どこの植物を使って?」

 コレットは今まで自分の趣味を他人に話す機会などなかったことから、瞳を輝かせると嬉しそうに話し始めた。

「私が一から庭で植物は育てたんです。それを乾燥させて、煎じて、それから匂いを調節しながら作ったんです。結構いい出来かなと思うのですが……あれ? もしかして何か問題がありましたか?」

「一から……庭で……育てて? 乾燥……させて……」

 言葉を頭の中で繰り替えしながら、ルートは額に手を当てる。

 その姿を見て、コレットは何か使ってはいけない薬草を入れてしまっただろうかと焦り始める。

「えっと、何か……問題がありましたか? その、昔知り合いからは、珍しくもなんともない薬草だと聞いていたのですが……えっと」

「珍しくもなんともない……薬草……」

 ルートはその言葉に頭を抱えると、大きく息を吐き、そして頭をガシガシと掻くと顔を上げた。

「色々と気になる事はありますが……取りあえずは置いておきます」

 そう言うと、ルートは視線をレオナルドとローガンへと向けた。

「第一王子殿下。殿下の部屋に毒の花らしきものがありましたので、こちらへ移っていただきました。今部下が調べているはずです。私も一度先ほどの部屋に戻ろうと思います」

 そう言ったところで、ルートの部下の魔法使いが部屋へと現れた。

 ルートは部下と小声で何か話をした後に口を開く。

「第二王子殿下とご令嬢は、私の部下の診察を受けて下さい。部屋の滞在が短い時間であれば問題はないかと思いますが、念のため。第一王子殿下の診察は専属の者が行いますのでしばらくお待ちください。では一度失礼いたします」

 ルートは姿は一礼をすると魔法で消した。

 その後ローガンとコレットも別室でそれぞれが診察を受けたが問題はないとのことであった。

 結局レオナルドとはその後も会えることはなく、コレットはローガンに見送られることとなった。

「コレット嬢。今日は申し訳なかった。今日の埋め合わせは後日必ずするので」

 本来は見送る時間すら惜しいであろうに、ローガンは申し訳なさそうにしながらコレットを馬車までエスコートし見送ってくれるのである。

「いえ、殿下。私の事は気にせず第一王子殿下の所へどうぞ向かわれて下さい」

 コレットがそう言うと、ローガンは苦笑を浮かべて言った。

「コレット嬢。心配しないでいいよ。兄上の事は他の者達が対処している。それとコレット嬢、私の事はこれからローガンと名前で呼んでくれ」

「え? その……よろしいのですか?」

「あぁ。婚約者だからね。では今日は気を付けて帰ってくれ。来てくれて嬉しかったよ。今日はありがとう」

 手の甲にキスされ、コレットは顔を真っ赤に染め上げた。

 手の甲へのキスなど、婚約者であれば当たり前によくあることなのだが、免疫のないコレットにしてみれば大事である。

「ここここ、こちらこそ、ありがとうございまひた!」

 コレットは顔を真っ赤にしたまま馬車んい急いで乗り込んだ。

 そして小窓からローガンに手をどうにか振ると、ローガンはくすりと笑って手を振りかえしたのだった。

 ローガンは、コレットを馬車まで見送った後、すぐにレオナルドの所へと向かう。

 室内にはアーサーやルート、そしてレオナルドの主治医のガジルの姿があった。

 ローガンは現状を自身の側近であるシンから聞く。

「現在、レオナルド殿下の部屋は魔法使い達によって調査中です。部屋の中にあったのは一輪の隣国ドラゴニアに生息する毒花ということです。レオナルド殿下は今ガジル様が診察中ですが……体内にかなりの毒素が貯まってしまっているようです」

 ローガンはうなずくと、アーサーの横へと腰掛けた。

 アーサーは心配そうに息子の手を取る。

「原因さえわかれば、どうとでもなる。レオナルド、しっかりな」

 青白い顔で、レオナルドはうなずく。

「父上……すみません。ありがとうございます」

 アーサーはルートとローガンに視線を送ると、二人を伴って別室へと移動する。

 ソファへと腰掛けるアーサーの前にローガンは腰掛け、ルートは机の上へと魔法で花の映像を浮かべる。

「このドラゴニア国の毒花名前をルナ草といいます、ただこれは、ドラゴニアでも簡単に手に入る代物ではありません。しかも……この王宮内の第一王子殿下の部屋にどうやってあの花がもちこまれたのかは不明です。第一王子殿下の体内に蓄積された毒の量からいって、三ヶ月ほど前からではないかとガジル殿は言っていました」

 三か月前といえば、建国祭が開かれた時期である。

 つまり、その時期から何者かがレオナルドの部屋にドラゴニアの毒花ルナ草を仕掛けた事になる。

 しかし問題は、部屋は何度も魔法使いや騎士らがチェックしていると言うことである。

 つまり、何者かが国に悟られないようにルナ草を定期的に入れ替え、レオナルドの部屋に置いたということだ。

「ですが、とにかく第一王子殿下の体調不良の原因が判明したことは良かったと言えるでしょう。ドラゴニアのルナ草が原因だとは中々に考え付かないですから」

 ルートの言葉にアーサーとローガンもうなずく。

 これまで原因が分からなかったからこそ手の打ちようがなかったが、ルナ草が原因と分かれば、治療も出来るはずだ。

「ただ、問題が」

「なんだ?」

 ルートは眉間にしわを寄せて言った。

「十数年前までは、我が国ヴェールガ国にも何故か珍しい薬草がよく出回っていたのですが、現在は少なく、ルナ草の治療薬を作るには、薬草が足りないのです。取り寄せるか、魔法使いを何名か派遣して集めに行くとしても一か月はかかるかと。毒素の量からいって、聖水を飲み続けても……間に合うかぎりぎりかと」

 その言葉にローガンは頭を抱え、アーサーは難しい顔を浮かべる。

「聖女を……聖女を見つけても難しいか?」

 ローガンの言葉に、ルートは首を横に振った。

「普通の病気であれば、聖女の力も効いたでしょう。ですが、毒は別です。聖女の作った聖水によって体力は取り戻せても、毒は消え
ません。優秀な聖女が居たとしても、治療薬を作らねば意味がないのです」

「何か、何か方法はないのか!?」

 ローガンの言葉に、ルートは動きを止めると、視線をさまよわせてから腕を組んで唸り声を上げる。

 その様子にアーサーは口を開いた。

「何か、可能性があるなら申してみよ」

 ルートはちらりとローガンを見ると、おずおずといった様子で懐から匂い袋を取り出し、それをローガンとアーサーへと見せた。

「これは?」

「第二王子殿下の婚約者のご令嬢が、殿下らへのプレゼントにと作った匂い袋だそうです」

 突然何を言い出すのだとアーサーとローガンがルートへと視線を向けると、頭をぽりぽりと掻く。

「真に、真に信じがたいことなのですが……この匂い袋の中に詰められている薬草は、この国では中々手に入りにくい珍しいものばかりなのです。それをご令嬢は自宅の庭で育てていると……嘘か真かは見て見なければわかりませんが、もし本当にこの薬草が自宅に生えていると言うのであれば……可能性としては治療薬となる薬草もあるかもしれません」

「本当か!?」

 ローガンは勢いよく立ち上がり、ルートはうなずいた。

「はい。ただ、あまり期待はしないほうがいいかと。ご令嬢は気づいていませんでしたが、この匂い袋に入っている薬草は、珍しいものばかり。庭にほいほい生えるわけがありません」

 貴重な薬草が、自生しているわけがない。

 それは確かにそうかもしれない。

 けれど、藁にも縋る思いであった。

「では、可能性を信じ、コレット嬢の元へ調べに行ってくれ。ローガンも一緒に同行するように」

「「かしこまりました」」

 その後すぐに、ステフ男爵家には翌日ローガンとルートが向かう旨の手紙が届けられることになったのであった。