令嬢に必要な物は何か。
優雅さ?
美しさ?
教養?
それらは確かに必要なことだろう。
けれど、私が求めるものはそれではない。
それがなければ、見向きもされず、それがなければ、壁の花にすらなれない。
それとはなにか。
それは、ずばり、身長。
私が切実に欲しいものは身長なのだ。
王宮で開かれる舞踏会は、それはそれは煌びやかで美しい。
天井に飾られた硝子玉のシャンデリアはろうそくの明かりを反射しキラキラと輝き、会場に飾られている旬の花々は、みずみずしく会場を飾る。
けれど、一番舞踏会を華やかに彩るのは、見目麗しい令嬢達だろう。
ダンスホールで踊れば、まるで花が開くようにさらにドレスを翻す。
その姿は舞踏会の花と呼ばれるにふさわしい。
彼女らはすらりとした肢体を持ち、長身で、ドレスを見事に着こなすのだ。
そんな麗しのご令嬢達を恨みがましい瞳で見つめ、ため息を漏らす。
「……あぁ……どうして」
私、コレット・ステフ男爵令嬢には身長がないのか。
自分で思うのもなんだが、前世では徳を積んだはずだ。
というのも、幸か不幸か私は前世自分がどんな姿で何をしたのか、鮮明に覚えているのだ。
しかも、ただの平民ではない。
高貴なる聖女である。
模範的で道徳的で献身的。
恋愛にうつつを抜かすこともなく、昼夜問わずに働いて働いて、その役職に一生を捧げた。
時に自分と同じ年頃の少女が、恋愛に“うふふ”“あはは”と色恋に花を咲かせ、泣いたり笑ったり楽しそうな姿を見つめながらも、それはそれは働いた。
人々が寝ている時間に起きて朝の冷たい水で身を清め、聖女としての力を高める為に過酷な修行し、人々の幸せを願って祈りを捧げ続けた。
働きずめの社畜であったからこそ、私は他の誰よりも“恋”というものに強いあこがれを抱いていたのだ。
それだというのに、神とはなんと残酷か!
歴代の中で最も聖女らしくあり続け、人々から称賛される立派な聖女にまでなった。
それなのに!
生まれ変わった当初はもちろん歓喜した。
今度こそ普通の少女と同じように、“あはは”“うふふ”と恋をするのだと、赤子の頃から夢見ていた。
それだというのに……。
私の身長は、十三歳の時から現在の十六歳に至るまでに、一ミリたりとも伸びていない。
一ミリもだ……。
百二十センチ……そこから、一ミリも動かなくなってしまった。
我が国のご令嬢の平均身長は百六十五センチ。
つまり……全然足りない。
はちみつ色のふわりとした髪を持ち、美しいアメジストの瞳。
産まれた時からいくら野原を駆けまわろうが、馬に乗ろうがその白い肌は焼けることなく美しさを保ち、出会った人からは必ず『可愛 らしい』と言われた。
そう。ずっと。
十三歳の時に作った可愛らしいレースたっぷりのふりふりドレスが未だに着れてしまうのだ。
貧乏男爵家としては、それはそれは節約になる。
だがしかし、彼女が十六歳の成人した令嬢だと気づくものはいるかと聞かれれば、黙るしかない。
しかもやっとのことで漕ぎ着けた、子爵家との婚約。
両親がへこへこと頭を下げに下げたことで手に入れた婚約話であったのだが、それが今、終わりを告げようとしていた。
「我が子爵家を、キミは……キミは侮辱したのだ」
これからこの人と色恋をしていくのだとウキウキしていた。
その気持ちが今ではシオシオと萎んでいる。
私の目の前には婚約者である子爵家の令息レックス様がいるのだが、私の恰好がお気に召さなかったらしい。
フリフリは……やはりだめだったか。
人気のない場所へと移動すると、ねちねちとずっと小言を告げられる。
「何なのだその恰好は! まるで子どもそのものではないか! 子どもと僕が婚約など……くそ! 我が子爵家を侮辱するキミとの婚約などあり得ない! 申し訳ないが、婚約は破棄させていただく。キミもそのつもりでいてくれ。くれぐれも、僕とキミが婚約していたなど、他の者にはいいふらさないでくれ。」
「え!? 婚約破棄でございますか!? せ、せめて解消にしていただけませんか?」
「破棄とする! そのような子どもの恰好で王家の舞踏会に参列しようなどと! 我が家を侮辱しているも同義! 私が幼女趣味の男だと思われた可能性があるのだぞ!」
「も……申し訳ございません。我が家はそこまで……裕福ではなく、ドレスを新調するのが難しく……」
「フンっ! そちらの都合など知るか。ではなっ」
「お、お待ちください!」
「待たぬ」
引き留めるが空しく、レックス様は私に背を向けて舞踏会の中へと姿を消してしまった。
え……今ので、おしまい? 私の婚約終了……?
しかも婚約破棄となると、私に問題があるとみなされて次の婚約が難しくなる。
エスコートしてくれるはずの人がいなくなり、私は壁の花になるしかない。
いや、何と言うか壁の花にすらなれていない気がする。
花というよりは、せいぜい蕾だ……。
人々の視線が痛い。
私……これからどうしたらいいのだろう。
「小さな子どもがどうしてこんな場所に?」
「明らかにデビュタント前だろう……?」
私はぐっと、拳を握る。
声を大にして言いたい。
“私は成人している!”と。
ただ実際にはそんなことを言える勇気はなく、人々の視線から逃れるように私は会場から足早に出た。
出るしか、なかった。
春の夜風はまだ少し冷たく、私の火照った頬を冷やすにはちょうど良かった。
王宮の庭には、魔法使い達によって光の水晶が浮かび、庭に咲く花々を美しく見せる。
ただ、にぎやかな会場と違い、その場は静かで音もせず、私はため息をつくと噴水の淵へとぴょんと飛び乗り、腰掛た。
水面に映る自分は相変わらず幼い容姿で、それを見るのも嫌で、指先で水を揺らす。
そうしていると、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。
「私だって、私だって好きでこの身長な訳じゃないわ」
水に波紋が広がっていく。
それを指で掻き混ぜるように私はぶつぶつと呟きながら腹立たしい思いをぶつける。
「何よ。ちょっと普通より頭一つ分、いやそれ以上かな、それくらいちっちゃいだけじゃない」
水が輝く淡く色を持つことになど気づかず、私は苛立ちをぶつけ続ける。
「もう! もう! 私は恋愛したいだけなのに! もう! そもそも婚約破棄って酷いわ。はぁ……まぁ、貧乏男爵家からそれを覆すことなんて、できるわけがないけれど。でも、あんな人を見た目で判断する人とはそもそも恋愛できないわよ」
噴水の色がすでに普通ではなくなっていることに、私は気づくことなく立ち上がると月に向かって拳を掲げた。
「そうよ! そもそも、私の魅力が分からない人となんて恋出来ないわ。婚約破棄出来て良かったのよ!」
気持ちを切り替えた私は、笑顔を顔に張り付ける。
運命の人を見つける為に舞踏会場へともう一度戻らなければならない。
「婚約破棄がなによ! きっと私にぴったりの相手が見つかるわ。よし、頑張りましょう」
私は噴水の縁からぴょんと飛び降り、背伸びをすると気合を入れて会場へと戻った。
視線は痛いが、頑張るほかない。
「よし、ファイトよ。コレット。運命の相手を見つけましょう!」
せめて一曲くらいは誰かと踊りたい。
そう瞳をぎらぎらとさせて粘りに粘っていたのだが、結局、誰一人として私を誘う気配すらない。
「おい、誰か、踊ってやれよ。」
「いや、だって……どう見ても子どもだろう?」
「けど、踊りたそうにしているし……」
「俺は婚約者がいるしお前だってそうだろう? 子どもとはいえ、婚約者に失礼だろう」
そんな会話が聞こえる。
私は頬をパンパンにふくらましながら内心で声を大にして叫んだ。
-私だって成人しているんだからね!
絶対に私は恋愛をしてみせる!
運命の人を見つけるんだからぁぁぁぁ!
一度人生を終えてそれなりに経験を積んでいるはずの元聖女の、そんな落ち着きの欠片すらない叫び声は誰にも届かない。
ただし、運命のいたずらか、はたまたコレットの自業自得か、歯車は回り始める。
一人の青年が、先ほどコレットが叫んでいた噴水近くからばつが悪そうに姿を現した。
実の所、コレットが来る前から休憩の為に身を潜めていたのだ。
彼女が一人ぶつぶつと何かを言っている姿に、途中から出て行くことも出来ずにずっと隠れていた。
コレットの声が小さかったので、何を言っていたかまでは聞き取れていなかったことが救いだろう。
ただし、最後拳を振り上げて“婚約破棄出来て良かったのよ!”と言う、最後の大きな声だけは聞こえていた。
「……気づかれず良かった」
盗み聞きは良くない。
最後聞こえた言葉も忘れよう。
そうこの国の第二王子であるローガン・フェン・ヴェールガは思っていたのだが、それを見た瞬間に、言葉を失う。
「これは……何だ? まさか、これは聖水か!?」
十六年前に他界した歴代最強と呼ばれた聖女。
彼女にしか作れないと言われていた聖水で噴水は満ち満ちていた。
それは淡く、温かく光り輝いていた。
ローガンは慌てて先ほど声の主の去った方角を見たが、そこにはすでに人影はない。
「まさか、聖女の再来か……これは大変なことだ」
もし聖女であるならば、早々に王国で保護しなければならない。
ローガンは信用できる騎士を数名呼ぶと、声を潜めて言った。
「婚約破棄された令嬢を探すんだ。聖女かもしれないということは伏せて、内密に見つけ出すぞ」
「それならば、殿下の運命の相手とするのはいかがですか? 殿下が令嬢を探していると噂になれば、自ら手を上げる可能性もあります」
「そう、だな。それでいこう」
この日、第二王子が運命の相手を見つけ、その相手を探していると言うお触れが国中に知らされた。
舞踏会場に出席していた婚約者のいない令嬢達はもう一度集められることが決められ、令嬢達は自分こそが王子の運命の相手だとうきうきと話に花を咲かせる。
婚約破棄されたと聞いた時のコレットの両親は絶望し悲しみにくれたが、このお触れが出た途端にこれはチャンスだとコレットの背中を押した。
「いいかいコレット。頑張るんだぞ。」
「これはチャンスよ!チャンスをつかむのよ!」
両親のその切羽詰まった表情に、コレットは、王子は無理でも、王子の側近とか、騎士様とか、その辺でもどうにか捕まえられないだろうかと、色恋というよりも、闘志を燃やすことになるのであった。
「絶対に見つけるぞ」
王子は聖女を見つけるのが自分の使命とばかりに意気込む。
「絶対にチャンスをつかむわ」
ちびっ子元聖女は、恋愛のチャンスをつかむぞと、斜め上に闘志を燃やすのであった。
そんな二人が恋に落ちるのには、まだ、かなり、道のりは長そうである。
優雅さ?
美しさ?
教養?
それらは確かに必要なことだろう。
けれど、私が求めるものはそれではない。
それがなければ、見向きもされず、それがなければ、壁の花にすらなれない。
それとはなにか。
それは、ずばり、身長。
私が切実に欲しいものは身長なのだ。
王宮で開かれる舞踏会は、それはそれは煌びやかで美しい。
天井に飾られた硝子玉のシャンデリアはろうそくの明かりを反射しキラキラと輝き、会場に飾られている旬の花々は、みずみずしく会場を飾る。
けれど、一番舞踏会を華やかに彩るのは、見目麗しい令嬢達だろう。
ダンスホールで踊れば、まるで花が開くようにさらにドレスを翻す。
その姿は舞踏会の花と呼ばれるにふさわしい。
彼女らはすらりとした肢体を持ち、長身で、ドレスを見事に着こなすのだ。
そんな麗しのご令嬢達を恨みがましい瞳で見つめ、ため息を漏らす。
「……あぁ……どうして」
私、コレット・ステフ男爵令嬢には身長がないのか。
自分で思うのもなんだが、前世では徳を積んだはずだ。
というのも、幸か不幸か私は前世自分がどんな姿で何をしたのか、鮮明に覚えているのだ。
しかも、ただの平民ではない。
高貴なる聖女である。
模範的で道徳的で献身的。
恋愛にうつつを抜かすこともなく、昼夜問わずに働いて働いて、その役職に一生を捧げた。
時に自分と同じ年頃の少女が、恋愛に“うふふ”“あはは”と色恋に花を咲かせ、泣いたり笑ったり楽しそうな姿を見つめながらも、それはそれは働いた。
人々が寝ている時間に起きて朝の冷たい水で身を清め、聖女としての力を高める為に過酷な修行し、人々の幸せを願って祈りを捧げ続けた。
働きずめの社畜であったからこそ、私は他の誰よりも“恋”というものに強いあこがれを抱いていたのだ。
それだというのに、神とはなんと残酷か!
歴代の中で最も聖女らしくあり続け、人々から称賛される立派な聖女にまでなった。
それなのに!
生まれ変わった当初はもちろん歓喜した。
今度こそ普通の少女と同じように、“あはは”“うふふ”と恋をするのだと、赤子の頃から夢見ていた。
それだというのに……。
私の身長は、十三歳の時から現在の十六歳に至るまでに、一ミリたりとも伸びていない。
一ミリもだ……。
百二十センチ……そこから、一ミリも動かなくなってしまった。
我が国のご令嬢の平均身長は百六十五センチ。
つまり……全然足りない。
はちみつ色のふわりとした髪を持ち、美しいアメジストの瞳。
産まれた時からいくら野原を駆けまわろうが、馬に乗ろうがその白い肌は焼けることなく美しさを保ち、出会った人からは必ず『可愛 らしい』と言われた。
そう。ずっと。
十三歳の時に作った可愛らしいレースたっぷりのふりふりドレスが未だに着れてしまうのだ。
貧乏男爵家としては、それはそれは節約になる。
だがしかし、彼女が十六歳の成人した令嬢だと気づくものはいるかと聞かれれば、黙るしかない。
しかもやっとのことで漕ぎ着けた、子爵家との婚約。
両親がへこへこと頭を下げに下げたことで手に入れた婚約話であったのだが、それが今、終わりを告げようとしていた。
「我が子爵家を、キミは……キミは侮辱したのだ」
これからこの人と色恋をしていくのだとウキウキしていた。
その気持ちが今ではシオシオと萎んでいる。
私の目の前には婚約者である子爵家の令息レックス様がいるのだが、私の恰好がお気に召さなかったらしい。
フリフリは……やはりだめだったか。
人気のない場所へと移動すると、ねちねちとずっと小言を告げられる。
「何なのだその恰好は! まるで子どもそのものではないか! 子どもと僕が婚約など……くそ! 我が子爵家を侮辱するキミとの婚約などあり得ない! 申し訳ないが、婚約は破棄させていただく。キミもそのつもりでいてくれ。くれぐれも、僕とキミが婚約していたなど、他の者にはいいふらさないでくれ。」
「え!? 婚約破棄でございますか!? せ、せめて解消にしていただけませんか?」
「破棄とする! そのような子どもの恰好で王家の舞踏会に参列しようなどと! 我が家を侮辱しているも同義! 私が幼女趣味の男だと思われた可能性があるのだぞ!」
「も……申し訳ございません。我が家はそこまで……裕福ではなく、ドレスを新調するのが難しく……」
「フンっ! そちらの都合など知るか。ではなっ」
「お、お待ちください!」
「待たぬ」
引き留めるが空しく、レックス様は私に背を向けて舞踏会の中へと姿を消してしまった。
え……今ので、おしまい? 私の婚約終了……?
しかも婚約破棄となると、私に問題があるとみなされて次の婚約が難しくなる。
エスコートしてくれるはずの人がいなくなり、私は壁の花になるしかない。
いや、何と言うか壁の花にすらなれていない気がする。
花というよりは、せいぜい蕾だ……。
人々の視線が痛い。
私……これからどうしたらいいのだろう。
「小さな子どもがどうしてこんな場所に?」
「明らかにデビュタント前だろう……?」
私はぐっと、拳を握る。
声を大にして言いたい。
“私は成人している!”と。
ただ実際にはそんなことを言える勇気はなく、人々の視線から逃れるように私は会場から足早に出た。
出るしか、なかった。
春の夜風はまだ少し冷たく、私の火照った頬を冷やすにはちょうど良かった。
王宮の庭には、魔法使い達によって光の水晶が浮かび、庭に咲く花々を美しく見せる。
ただ、にぎやかな会場と違い、その場は静かで音もせず、私はため息をつくと噴水の淵へとぴょんと飛び乗り、腰掛た。
水面に映る自分は相変わらず幼い容姿で、それを見るのも嫌で、指先で水を揺らす。
そうしていると、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。
「私だって、私だって好きでこの身長な訳じゃないわ」
水に波紋が広がっていく。
それを指で掻き混ぜるように私はぶつぶつと呟きながら腹立たしい思いをぶつける。
「何よ。ちょっと普通より頭一つ分、いやそれ以上かな、それくらいちっちゃいだけじゃない」
水が輝く淡く色を持つことになど気づかず、私は苛立ちをぶつけ続ける。
「もう! もう! 私は恋愛したいだけなのに! もう! そもそも婚約破棄って酷いわ。はぁ……まぁ、貧乏男爵家からそれを覆すことなんて、できるわけがないけれど。でも、あんな人を見た目で判断する人とはそもそも恋愛できないわよ」
噴水の色がすでに普通ではなくなっていることに、私は気づくことなく立ち上がると月に向かって拳を掲げた。
「そうよ! そもそも、私の魅力が分からない人となんて恋出来ないわ。婚約破棄出来て良かったのよ!」
気持ちを切り替えた私は、笑顔を顔に張り付ける。
運命の人を見つける為に舞踏会場へともう一度戻らなければならない。
「婚約破棄がなによ! きっと私にぴったりの相手が見つかるわ。よし、頑張りましょう」
私は噴水の縁からぴょんと飛び降り、背伸びをすると気合を入れて会場へと戻った。
視線は痛いが、頑張るほかない。
「よし、ファイトよ。コレット。運命の相手を見つけましょう!」
せめて一曲くらいは誰かと踊りたい。
そう瞳をぎらぎらとさせて粘りに粘っていたのだが、結局、誰一人として私を誘う気配すらない。
「おい、誰か、踊ってやれよ。」
「いや、だって……どう見ても子どもだろう?」
「けど、踊りたそうにしているし……」
「俺は婚約者がいるしお前だってそうだろう? 子どもとはいえ、婚約者に失礼だろう」
そんな会話が聞こえる。
私は頬をパンパンにふくらましながら内心で声を大にして叫んだ。
-私だって成人しているんだからね!
絶対に私は恋愛をしてみせる!
運命の人を見つけるんだからぁぁぁぁ!
一度人生を終えてそれなりに経験を積んでいるはずの元聖女の、そんな落ち着きの欠片すらない叫び声は誰にも届かない。
ただし、運命のいたずらか、はたまたコレットの自業自得か、歯車は回り始める。
一人の青年が、先ほどコレットが叫んでいた噴水近くからばつが悪そうに姿を現した。
実の所、コレットが来る前から休憩の為に身を潜めていたのだ。
彼女が一人ぶつぶつと何かを言っている姿に、途中から出て行くことも出来ずにずっと隠れていた。
コレットの声が小さかったので、何を言っていたかまでは聞き取れていなかったことが救いだろう。
ただし、最後拳を振り上げて“婚約破棄出来て良かったのよ!”と言う、最後の大きな声だけは聞こえていた。
「……気づかれず良かった」
盗み聞きは良くない。
最後聞こえた言葉も忘れよう。
そうこの国の第二王子であるローガン・フェン・ヴェールガは思っていたのだが、それを見た瞬間に、言葉を失う。
「これは……何だ? まさか、これは聖水か!?」
十六年前に他界した歴代最強と呼ばれた聖女。
彼女にしか作れないと言われていた聖水で噴水は満ち満ちていた。
それは淡く、温かく光り輝いていた。
ローガンは慌てて先ほど声の主の去った方角を見たが、そこにはすでに人影はない。
「まさか、聖女の再来か……これは大変なことだ」
もし聖女であるならば、早々に王国で保護しなければならない。
ローガンは信用できる騎士を数名呼ぶと、声を潜めて言った。
「婚約破棄された令嬢を探すんだ。聖女かもしれないということは伏せて、内密に見つけ出すぞ」
「それならば、殿下の運命の相手とするのはいかがですか? 殿下が令嬢を探していると噂になれば、自ら手を上げる可能性もあります」
「そう、だな。それでいこう」
この日、第二王子が運命の相手を見つけ、その相手を探していると言うお触れが国中に知らされた。
舞踏会場に出席していた婚約者のいない令嬢達はもう一度集められることが決められ、令嬢達は自分こそが王子の運命の相手だとうきうきと話に花を咲かせる。
婚約破棄されたと聞いた時のコレットの両親は絶望し悲しみにくれたが、このお触れが出た途端にこれはチャンスだとコレットの背中を押した。
「いいかいコレット。頑張るんだぞ。」
「これはチャンスよ!チャンスをつかむのよ!」
両親のその切羽詰まった表情に、コレットは、王子は無理でも、王子の側近とか、騎士様とか、その辺でもどうにか捕まえられないだろうかと、色恋というよりも、闘志を燃やすことになるのであった。
「絶対に見つけるぞ」
王子は聖女を見つけるのが自分の使命とばかりに意気込む。
「絶対にチャンスをつかむわ」
ちびっ子元聖女は、恋愛のチャンスをつかむぞと、斜め上に闘志を燃やすのであった。
そんな二人が恋に落ちるのには、まだ、かなり、道のりは長そうである。
