​『氷の王子様は、私の秘密を知っている』 〜学校一のイケメンの正体は、私の重度なトップオタク(R_K)でした〜


「…………」

ネットでは何度も言われてきた。

好きです。

応援しています。

ずっと描いてください。

でも。

今。

初めて。

生身の声で言われた。

「……ありがとう、ございます」

声が震えた。

泣きそうになるのが恥ずかしくて、俯く。

「ただし」

「……え?」

「俺がR_Kだってことも誰にも言うな」

「も、もちろんです!」

即答した。

如月くんが右手を差し出した。

「じゃあ、契約成立」

「…………」

大きな手。

私は迷った。

握手。

ただそれだけ。

なのに。

男の子の手なんて、ほとんど触ったことがない。

恐る恐る手を伸ばす。

指先が。

触れた。

「……っ」

温かい。

驚いた。

如月くんは、もっと冷たい人だと思っていた。

氷の王子。

そんな呼び名のせいだろうか。

でも。

私の手を包んだ掌は。

思っていたよりずっと温かかった。

「上白木?」

「な、なんでもないです!」

慌てて手を引く。

触れていた場所だけが熱い。

心臓が変。

如月くんも自分の手を見る。

「…………」

一瞬だけ。

本当に一瞬だけ。

彼の表情から、いつもの冷たさが消えた。

けれど、すぐに戻る。

「じゃ、明日」

「……はい」

如月くんは図書室を出ていった。

扉が閉まる。

私はその場にへたり込んだ。

「…………むり」

顔が熱い。

手も熱い。

心臓もうるさい。

でも。

怖かったはずなのに。

正体を知られたら、全部終わると思っていたのに。

胸のどこかが。

ほんの少しだけ。

軽くなっていた。

*

図書室を出た如月怜は。

誰もいない廊下を数メートル歩いたところで、ぴたりと止まった。

そして。

壁に片手をついた。

「…………マジかよ」

もう片方の手で顔を覆う。

耳まで赤い。

脳裏に浮かぶのは。

丸メガネ。

黒髪。

震える声。

そして。

さっき触れた、小さな手の温度。

「ナナイロが……」

呟く。

「ずっと、隣にいた……?」

理解した途端。

膝から力が抜けそうになった。

一年以上。

毎日投稿を待った。

通知をオンにした。

限定グッズの販売開始時刻には五分前から待機した。

落ち込んだ夜は、過去絵を何時間も眺めた。

誰にも言えないくらい。

ずっと。

ずっと好きだった。

その絵を描いていた人間が。

毎朝。

自分の隣で。

丸メガネを押し上げながら、小さくなって座っていた。

「……俺」

怜は壁に額をつけた。

「一年間、何してたんだ……」

静まり返った廊下に。

氷の王子の、どうしようもなく情けない声だけが響いた。