12月。
冬の冷たい風が、校庭の木々を揺らしていた。
朝の教室で、明凛はスケッチブックを開いていた。
描いているのは、冬の花壇に咲くビオラ。
紫や黄色、白の小さな花たちを思い出しながら、鉛筆を動かしていく。
「明凛、また花を描いてるの?」
隣の席から、麗の声がした。
「うん。ビオラって、色がいろいろあって可愛いよね」
「そうだね。寒い中でも、きれいに咲いてるよ」
麗は窓の外を見ながら、優しく笑った。
その横顔を見て、明凛の胸が少しだけ高鳴る。
麗と話すことが、いつの間にか当たり前になっていた。
朝の挨拶も。
休み時間の何気ない会話も。
放課後、一緒に花を見る時間も。
どれも明凛にとって、大切な思い出になっていた。
そして、最近。
麗が笑うたびに、明凛は思う。
もっと一緒にいたい。
もっと、麗のことを知りたい。
けれど、その気持ちを伝える勇気は、まだ出せずにいた。
放課後。
美術部の活動を終えた明凛は、スケッチブックを抱えて校庭へ向かった。
花壇のそばには、麗がいた。
「神志那くん」
「あ、明凛。お疲れさま」
「お疲れさま。今日も花壇のお世話?」
「うん。ビオラの様子を見てたところ」
麗は花壇に目を向けた。
明凛も隣に立ち、色とりどりのビオラを眺める。
「寒くても、ちゃんと咲いてるね」
「うん。花って、季節ごとに違う姿を見せてくれるから」
麗は少し考えてから、明凛の方を向いた。
「明凛は、花を描くとき、どんなことを考えてる?」
「え?」
「いつも、すごく大切そうに描いてるから」
明凛はスケッチブックを抱え直した。
「忘れたくないなって思うの。神志那くんと一緒に見た花も、そのときの気持ちも」
「そっか」
麗は、嬉しそうに微笑んだ。
「俺も、写真を撮るときは同じかもしれない」
二人の間に、穏やかな時間が流れた。
やがて麗が、ふと思い出したように言った。
「明凛、ちょっと待ってて」
「うん?」
麗は、鞄のそばに置いていた小さな包みを取り出した。
明凛は不思議そうに、その様子を見つめる。
「これ、明凛に渡したいものがあるんだ」
そう言って、麗が差し出したのは、一輪の薔薇だった。
赤い花びらが、冬の夕日に照らされている。
「……薔薇?」
「うん。1輪だけど」
麗は少し照れたように笑った。
明凛は驚いて、薔薇と麗の顔を交互に見た。
「どうして、私に?」
麗は一度、薔薇に視線を落とした。
「1輪の薔薇には、『一目惚れ』っていう花言葉があるんだ」
「一目惚れ……」
「花言葉って、いろいろな意味があるけど……俺は、この言葉を明凛に伝えたいと思った」
明凛の胸が、どきんと鳴った。
麗は、いつもより少し緊張した表情で続けた。
「最初に明凛と話したときから、気になってたんだ」
「……私のこと?」
「うん」
麗は、まっすぐ明凛を見つめた。
「ネモフィラを一緒に見た日、明凛が花を描いてる姿を見て、いいなって思った」
明凛は、あの日のことを思い出した。
春の花壇。
青いネモフィラ。
隣で優しく笑っていた麗。
「それから、ひまわりを見たり、ビオラを見たりして……明凛と一緒にいる時間が、どんどん楽しみになった」
麗の声は、少しだけ震えていた。
「明凛が絵を描いてるところも、花を見て笑ってるところも、好きなんだ」
明凛は何も言えず、ただ麗を見つめていた。
麗は、もう一度、薔薇を差し出した。
「明凛」
「……うん」
「俺は、明凛が好きです」
その言葉が、冬の花壇に静かに響いた。
「俺と、付き合ってください」
明凛の目に、涙が浮かんだ。
ずっと一緒に花を見てきた麗。
自分の絵を好きだと言ってくれた麗。
その麗が、今、自分に好きだと伝えてくれている。
「……神志那くん」
明凛は、そっと薔薇を受け取った。
「ありがとう……すごく、嬉しい」
声が震えてしまう。
それでも、ちゃんと伝えたかった。
「私も、神志那くんが好き」
麗の表情が、ぱっと明るくなった。
「ほんと?」
「うん。ずっと一緒に花を見ていたいって思ってた」
明凛は、薔薇を胸の前で大切に持った。
「これからも、隣にいていい?」
麗は、優しく笑った。
「もちろん」
その一言に、明凛の頬が熱くなった。
冷たい風が吹いているのに、二人の心は温かかった。
しばらく、二人は花壇のそばに立っていた。
いつもと同じ校庭。
いつもと同じ花たち。
でも、今日からは少し違う。
隣にいる麗は、明凛の好きな人で。
明凛もまた、麗の好きな人になった。
「ねえ、神志那くん」
「ん?」
「この薔薇、絵に描いてもいい?」
「もちろん。明凛の絵で、今日のことを残してくれたら嬉しい」
「うん。大切に描くね」
帰り道。
二人は、いつものように並んで歩いた。
けれど、明凛の心は、今までとは違っていた。
隣にいる麗のことを考えるだけで、胸がいっぱいになる。
「来年も、一緒に花を見ようね」
明凛が言うと、麗は頷いた。
「うん。春の花も、夏のひまわりも、秋の花も、冬のビオラも」
「全部?」
「全部」
二人は顔を見合わせて笑った。
家に帰ると、明凛はスケッチブックを開いた。
今日もらった1輪の薔薇を、ゆっくり描き始める。
赤い花びら。
細い茎。
そして、薔薇を差し出してくれた麗の優しい表情。
描き終えた絵の下に、明凛は小さく文字を書き添えた。
『神志那くんが、1輪の薔薇と一緒に想いを伝えてくれた日』
その文字を見つめて、明凛は微笑んだ。
春に出会って、夏に一緒に花を見て、秋に想いを深めて、冬に気持ちを伝え合った。
1輪の薔薇に込められた、麗の想い。
そして、明凛の胸に咲いた恋。
冬の夕空の下で、二人の新しい物語が始まった。
冬の冷たい風が、校庭の木々を揺らしていた。
朝の教室で、明凛はスケッチブックを開いていた。
描いているのは、冬の花壇に咲くビオラ。
紫や黄色、白の小さな花たちを思い出しながら、鉛筆を動かしていく。
「明凛、また花を描いてるの?」
隣の席から、麗の声がした。
「うん。ビオラって、色がいろいろあって可愛いよね」
「そうだね。寒い中でも、きれいに咲いてるよ」
麗は窓の外を見ながら、優しく笑った。
その横顔を見て、明凛の胸が少しだけ高鳴る。
麗と話すことが、いつの間にか当たり前になっていた。
朝の挨拶も。
休み時間の何気ない会話も。
放課後、一緒に花を見る時間も。
どれも明凛にとって、大切な思い出になっていた。
そして、最近。
麗が笑うたびに、明凛は思う。
もっと一緒にいたい。
もっと、麗のことを知りたい。
けれど、その気持ちを伝える勇気は、まだ出せずにいた。
放課後。
美術部の活動を終えた明凛は、スケッチブックを抱えて校庭へ向かった。
花壇のそばには、麗がいた。
「神志那くん」
「あ、明凛。お疲れさま」
「お疲れさま。今日も花壇のお世話?」
「うん。ビオラの様子を見てたところ」
麗は花壇に目を向けた。
明凛も隣に立ち、色とりどりのビオラを眺める。
「寒くても、ちゃんと咲いてるね」
「うん。花って、季節ごとに違う姿を見せてくれるから」
麗は少し考えてから、明凛の方を向いた。
「明凛は、花を描くとき、どんなことを考えてる?」
「え?」
「いつも、すごく大切そうに描いてるから」
明凛はスケッチブックを抱え直した。
「忘れたくないなって思うの。神志那くんと一緒に見た花も、そのときの気持ちも」
「そっか」
麗は、嬉しそうに微笑んだ。
「俺も、写真を撮るときは同じかもしれない」
二人の間に、穏やかな時間が流れた。
やがて麗が、ふと思い出したように言った。
「明凛、ちょっと待ってて」
「うん?」
麗は、鞄のそばに置いていた小さな包みを取り出した。
明凛は不思議そうに、その様子を見つめる。
「これ、明凛に渡したいものがあるんだ」
そう言って、麗が差し出したのは、一輪の薔薇だった。
赤い花びらが、冬の夕日に照らされている。
「……薔薇?」
「うん。1輪だけど」
麗は少し照れたように笑った。
明凛は驚いて、薔薇と麗の顔を交互に見た。
「どうして、私に?」
麗は一度、薔薇に視線を落とした。
「1輪の薔薇には、『一目惚れ』っていう花言葉があるんだ」
「一目惚れ……」
「花言葉って、いろいろな意味があるけど……俺は、この言葉を明凛に伝えたいと思った」
明凛の胸が、どきんと鳴った。
麗は、いつもより少し緊張した表情で続けた。
「最初に明凛と話したときから、気になってたんだ」
「……私のこと?」
「うん」
麗は、まっすぐ明凛を見つめた。
「ネモフィラを一緒に見た日、明凛が花を描いてる姿を見て、いいなって思った」
明凛は、あの日のことを思い出した。
春の花壇。
青いネモフィラ。
隣で優しく笑っていた麗。
「それから、ひまわりを見たり、ビオラを見たりして……明凛と一緒にいる時間が、どんどん楽しみになった」
麗の声は、少しだけ震えていた。
「明凛が絵を描いてるところも、花を見て笑ってるところも、好きなんだ」
明凛は何も言えず、ただ麗を見つめていた。
麗は、もう一度、薔薇を差し出した。
「明凛」
「……うん」
「俺は、明凛が好きです」
その言葉が、冬の花壇に静かに響いた。
「俺と、付き合ってください」
明凛の目に、涙が浮かんだ。
ずっと一緒に花を見てきた麗。
自分の絵を好きだと言ってくれた麗。
その麗が、今、自分に好きだと伝えてくれている。
「……神志那くん」
明凛は、そっと薔薇を受け取った。
「ありがとう……すごく、嬉しい」
声が震えてしまう。
それでも、ちゃんと伝えたかった。
「私も、神志那くんが好き」
麗の表情が、ぱっと明るくなった。
「ほんと?」
「うん。ずっと一緒に花を見ていたいって思ってた」
明凛は、薔薇を胸の前で大切に持った。
「これからも、隣にいていい?」
麗は、優しく笑った。
「もちろん」
その一言に、明凛の頬が熱くなった。
冷たい風が吹いているのに、二人の心は温かかった。
しばらく、二人は花壇のそばに立っていた。
いつもと同じ校庭。
いつもと同じ花たち。
でも、今日からは少し違う。
隣にいる麗は、明凛の好きな人で。
明凛もまた、麗の好きな人になった。
「ねえ、神志那くん」
「ん?」
「この薔薇、絵に描いてもいい?」
「もちろん。明凛の絵で、今日のことを残してくれたら嬉しい」
「うん。大切に描くね」
帰り道。
二人は、いつものように並んで歩いた。
けれど、明凛の心は、今までとは違っていた。
隣にいる麗のことを考えるだけで、胸がいっぱいになる。
「来年も、一緒に花を見ようね」
明凛が言うと、麗は頷いた。
「うん。春の花も、夏のひまわりも、秋の花も、冬のビオラも」
「全部?」
「全部」
二人は顔を見合わせて笑った。
家に帰ると、明凛はスケッチブックを開いた。
今日もらった1輪の薔薇を、ゆっくり描き始める。
赤い花びら。
細い茎。
そして、薔薇を差し出してくれた麗の優しい表情。
描き終えた絵の下に、明凛は小さく文字を書き添えた。
『神志那くんが、1輪の薔薇と一緒に想いを伝えてくれた日』
その文字を見つめて、明凛は微笑んだ。
春に出会って、夏に一緒に花を見て、秋に想いを深めて、冬に気持ちを伝え合った。
1輪の薔薇に込められた、麗の想い。
そして、明凛の胸に咲いた恋。
冬の夕空の下で、二人の新しい物語が始まった。

