11月の終わり。
朝、教室に入ると、窓の外から冷たい風が吹き込んできた。
「寒くなってきたね」
明凛がそう言いながら席に着くと、隣の麗が顔を上げた。
「うん。朝、園芸部で花壇を見てきたけど、土も冷たかったよ」
「ビオラは大丈夫?」
「大丈夫。寒さにも強い花だから」
麗は、いつものように穏やかな笑顔を見せた。
その笑顔を見ると、明凛の胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。
最近、麗と話すことが当たり前になってきた。
朝の挨拶。
授業中の小さな会話。
休み時間に、花の話をすること。
どれも特別なことではないはずなのに、明凛にとっては、ひとつひとつが大切な時間だった。
放課後。
美術部の活動を終えた明凛は、スケッチブックを抱えて校庭へ向かった。
花壇には、紫や黄色、白のビオラが咲いていた。
冷たい風に揺れる小さな花たち。
そのそばに、麗がしゃがんでいた。
「神志那くん」
「あ、明凛。美術部、終わった?」
「うん。ビオラ、描きに来たの」
「そっか」
麗は花壇の端に少し移動して、明凛が描きやすい場所を空けてくれた。
「ここからだと、いろんな色が見えるよ」
「ありがとう」
明凛は隣に座り、スケッチブックを開いた。
まずは、紫色のビオラから。
花びらの形を確かめながら、ゆっくり鉛筆を動かしていく。
「ビオラって、近くで見ると顔みたいだね」
明凛が言うと、麗は花をのぞき込んだ。
「そう見えることもあるね。色や模様が、それぞれ違うから」
「同じ花なのに、ひとつずつ違うんだね」
「うん。だから、見ていて飽きないんだと思う」
麗の言葉を聞きながら、明凛は花壇を見渡した。
小さな花たちが、寒い季節の中で、それぞれの色を見せている。
その景色を、明凛は丁寧に描き写した。
ふと顔を上げると、麗が花を見つめていた。
穏やかな横顔。
花に向ける優しい眼差し。
明凛は、スケッチブックの端に、そっと麗の横顔を描き足した。
「……また俺を描いてる?」
気づいた麗が、少し照れたように笑った。
「うん。だめ?」
「だめじゃないよ」
麗は、明凛のスケッチブックをのぞき込んだ。
「明凛の絵、好きだから」
その言葉に、明凛の手が止まった。
「……ほんと?」
「うん。花もきれいだけど、明凛が描くと、そのときのことまで思い出せる気がする」
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
自分の絵を、そんなふうに思ってくれている。
それが、たまらなく嬉しかった。
「私も……神志那くんと花を見る時間、好きだよ」
言ってから、明凛は少しだけ恥ずかしくなった。
麗は驚いたように目を瞬かせて、それから優しく笑った。
「俺も、好きだよ」
その一言に、明凛の頬が熱くなる。
冷たい風が吹いているのに、隣にいる麗の声が、心を温めてくれた。
しばらく二人で、ビオラを眺めた。
空は少しずつ夕焼けに染まり、花壇の色も柔らかく変わっていく。
「そろそろ帰ろうか」
麗が立ち上がる。
「うん」
明凛はスケッチブックを閉じた。
帰り道、二人は並んで歩いた。
いつもと同じ道。
いつもと同じ隣の席の人。
でも、明凛の心の中では、少しずつ何かが変わっていた。
麗と一緒に花を見るたびに、もっと一緒にいたいと思う。
また話したい。
また笑い合いたい。
来年も、その先も、隣で花を見ていたい。
それがどんな気持ちなのか、明凛にはもう、わかっていた。
家に帰ると、明凛はスケッチブックを開いた。
今日描いたビオラと、麗の横顔。
その下に、小さく文字を書き添える。
『神志那くんと、冬のビオラを見た日』
書き終えた明凛は、絵を見つめながら、そっと微笑んだ。
冬の花は、まだ咲き始めたばかり。
そして、麗への想いも。
明凛の心の中で、静かに、でも確かに育っていた。
朝、教室に入ると、窓の外から冷たい風が吹き込んできた。
「寒くなってきたね」
明凛がそう言いながら席に着くと、隣の麗が顔を上げた。
「うん。朝、園芸部で花壇を見てきたけど、土も冷たかったよ」
「ビオラは大丈夫?」
「大丈夫。寒さにも強い花だから」
麗は、いつものように穏やかな笑顔を見せた。
その笑顔を見ると、明凛の胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。
最近、麗と話すことが当たり前になってきた。
朝の挨拶。
授業中の小さな会話。
休み時間に、花の話をすること。
どれも特別なことではないはずなのに、明凛にとっては、ひとつひとつが大切な時間だった。
放課後。
美術部の活動を終えた明凛は、スケッチブックを抱えて校庭へ向かった。
花壇には、紫や黄色、白のビオラが咲いていた。
冷たい風に揺れる小さな花たち。
そのそばに、麗がしゃがんでいた。
「神志那くん」
「あ、明凛。美術部、終わった?」
「うん。ビオラ、描きに来たの」
「そっか」
麗は花壇の端に少し移動して、明凛が描きやすい場所を空けてくれた。
「ここからだと、いろんな色が見えるよ」
「ありがとう」
明凛は隣に座り、スケッチブックを開いた。
まずは、紫色のビオラから。
花びらの形を確かめながら、ゆっくり鉛筆を動かしていく。
「ビオラって、近くで見ると顔みたいだね」
明凛が言うと、麗は花をのぞき込んだ。
「そう見えることもあるね。色や模様が、それぞれ違うから」
「同じ花なのに、ひとつずつ違うんだね」
「うん。だから、見ていて飽きないんだと思う」
麗の言葉を聞きながら、明凛は花壇を見渡した。
小さな花たちが、寒い季節の中で、それぞれの色を見せている。
その景色を、明凛は丁寧に描き写した。
ふと顔を上げると、麗が花を見つめていた。
穏やかな横顔。
花に向ける優しい眼差し。
明凛は、スケッチブックの端に、そっと麗の横顔を描き足した。
「……また俺を描いてる?」
気づいた麗が、少し照れたように笑った。
「うん。だめ?」
「だめじゃないよ」
麗は、明凛のスケッチブックをのぞき込んだ。
「明凛の絵、好きだから」
その言葉に、明凛の手が止まった。
「……ほんと?」
「うん。花もきれいだけど、明凛が描くと、そのときのことまで思い出せる気がする」
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
自分の絵を、そんなふうに思ってくれている。
それが、たまらなく嬉しかった。
「私も……神志那くんと花を見る時間、好きだよ」
言ってから、明凛は少しだけ恥ずかしくなった。
麗は驚いたように目を瞬かせて、それから優しく笑った。
「俺も、好きだよ」
その一言に、明凛の頬が熱くなる。
冷たい風が吹いているのに、隣にいる麗の声が、心を温めてくれた。
しばらく二人で、ビオラを眺めた。
空は少しずつ夕焼けに染まり、花壇の色も柔らかく変わっていく。
「そろそろ帰ろうか」
麗が立ち上がる。
「うん」
明凛はスケッチブックを閉じた。
帰り道、二人は並んで歩いた。
いつもと同じ道。
いつもと同じ隣の席の人。
でも、明凛の心の中では、少しずつ何かが変わっていた。
麗と一緒に花を見るたびに、もっと一緒にいたいと思う。
また話したい。
また笑い合いたい。
来年も、その先も、隣で花を見ていたい。
それがどんな気持ちなのか、明凛にはもう、わかっていた。
家に帰ると、明凛はスケッチブックを開いた。
今日描いたビオラと、麗の横顔。
その下に、小さく文字を書き添える。
『神志那くんと、冬のビオラを見た日』
書き終えた明凛は、絵を見つめながら、そっと微笑んだ。
冬の花は、まだ咲き始めたばかり。
そして、麗への想いも。
明凛の心の中で、静かに、でも確かに育っていた。

