君のとなり〜拓実と〜

 よく晴れた、青空の日。

春の風がグラウンドを吹き抜けていた。

体育の授業は、久しぶりの走り高跳びだった。

瑠夏は少しだけ緊張しながら、助走の位置につく。

深く息を吸う。

そして――走り出した。

一定のリズムで助走をつける。

踏み切って――

身体を反らせる。

背面跳び。

視界の端を、バーが流れていく。

そして――

ふわり。

瑠夏の身体がマットへ落ちた。

「すごーい!」

「なんでそんなに跳べるの?」

クラスメイトから歓声が上がる。

瑠夏は少し照れながら、マットから身体を起こした。

「中学生の頃にね、少しやってたの。でも、久しぶりだし、スパイクじゃないし……やっぱり感覚が違うね」

そう言いながらも、胸の奥は少しだけ弾んでいた。

――跳ぶって、こんなに気持ちよかったんだ。

身体が覚えている。

助走のリズム。

踏み切る瞬間。

身体を空へ預ける感覚。

瑠夏はもう一度、バーを見る。

不思議だった。

久しぶりなのに、身体はちゃんと覚えていた。

もう一度、跳びたい。

そんな気持ちが、自然と湧いてきた。

***

校舎三階。

数学の授業中。

窓際の席に座っていた翔は、黒板に書かれた数式を眺めていた。

先生の声を聞きながら、ノートに数字を書き込む。

そのとき、ふとグラウンドに目を向けた。

そして――

息を止めた。

瑠夏だった。

背面跳び。

あのフォーム。

中学生の頃と変わらない。

いや。

あの頃より、ずっと綺麗になっている。

助走から踏み切るタイミング。

空中で身体を反らせる瞬間。

バーを越えていく姿。

眩しいくらい、綺麗だった。

翔の視線は、瑠夏から離れなかった。

久しぶりに見る。

瑠夏が跳ぶ姿。

胸の奥が、懐かしさで締めつけられる。

中学のグラウンド。

一緒に高跳びをしていた頃。

あの頃は、こんなふうになるなんて思ってもいなかった。

ただ、瑠夏と一緒に跳ぶことが楽しかった。

それだけだった。

けれど今は――。

翔は、そっと目を伏せた。

そして、ほんの少しだけ思う。

――やっぱり、俺は。

そこから先は、考えない。

考えてしまったら、また苦しくなるから。

翔は視線を黒板へ戻した。

けれど。

しばらくすると、またグラウンドを見てしまう。

そのたびに、瑠夏の姿を追ってしまう自分に気づいていた。

そして。

瑠夏が跳ぶ姿を見ているうちに、翔の中に眠っていた気持ちが、少しずつ大きくなっていった。

――俺も、もう一度跳びたい。

もう一度、高跳びに戻りたい。

瑠夏があんなふうに、楽しそうに跳んでいる。

それを見ているうちに、自分もまたあの場所に戻りたくなった。

怪我をする前の自分に戻りたいんじゃない。

もう一度、自分の足で助走をして、踏み切って、空へ跳びたい。

翔は、そう強く思った。

***

校舎五階。

英語の授業中。

拓実もまた、窓際の席にいた。

何気なくグラウンドへ目を向ける。

そして――

「……瑠夏?」

思わず、目を見開いた。

軽やかに助走して。

高く跳ぶ。

身体を反らせて、バーを越える。

そして、マットにふわりと着地する。

その姿を見ながら、拓実は微笑んだ。

「……え」

思わず、声が漏れた。

瑠夏って――こんなに跳べるのか。

想像していたより、ずっと高い。

文化祭で出会ってから知った瑠夏とは、また違う。

こんな顔をするんだ。

こんなふうに、嬉しそうに跳ぶんだ。

知らなかった。

瑠夏に、こんな一面があったなんて。

もっと知りたい。

もっと、瑠夏のことを知りたい。

そう思った瞬間、拓実の胸に、あの日から変わらない感情が蘇る。

――好きだ。

やっぱり、この子が好きだ。

拓実は、もう一度グラウンドを見る。

青空の下で笑っている瑠夏を見つめながら、自然と口元が緩んだ。