君のとなり〜拓実と〜

 冬休みのある日。

私は街へ買い物に出ていた。

クリスマスが終わったばかりの街には、まだイルミネーションが残っている。

拓実と過ごしたクリスマスを思い出すと、自然と頬が緩んだ。

手を握ってくれたこと。

冷たい手を温めてくれたこと。

そして――。

名前を呼んだとき、嬉しそうに抱きしめてくれたこと。

「……拓実」

小さく呟いて、私は自分で恥ずかしくなった。

付き合い始めてから、拓実と過ごす時間が本当に楽しい。

そんなことを考えながら歩いていたときだった。

「……瑠夏?」

聞き覚えのある声がして、私は足を止めた。

振り返る。

「……彩花?」

そこにいたのは、久しぶりに会う彩花だった。

「やっぱり瑠夏だ!」

「久しぶり」

「久しぶり! 元気だった?」

「うん」

懐かしくて、自然と笑顔になる。

彩花と話しながら歩いていると、ふと気づいた。

彩花の隣に、男の子がいる。

私たちと同じくらいの年齢に見える。

さっきから、彩花の隣を当たり前のように歩いている。

誰だろう。

気になって、その男の子をちらっと見る。

すると彩花が私の視線に気づいた。

「ああ、彼?」

「……うん」

彩花は、少し照れたように笑った。

「私の彼氏」

「……彼氏?」

思わず聞き返してしまった。

彩花が頷く。

「そう」

その言葉に、私は少し驚いた。

彩花に彼氏がいることが意外だったわけじゃない。

ただ――。

頭の中に、ひとつの名前が浮かんだ。

翔。

「じゃあ……」

私は彩花を見る。

「じゃあ翔くんじゃないの?」

彩花が、きょとんとした顔をした。

「え?」

「翔くん……」

「ああ……」

彩花が少し考えるように瞬きをする。

「翔とは付き合ってないよ?」

「……え?」

今度は私が言葉を失った。

付き合って……ない?

「うん。翔とは昔から仲いいけど、付き合ったことはないよ」

彩花は、何でもないことのように言った。

「そう……なんだ」

私は、うまく返事ができなかった。

ずっと、そうだと思っていた。

中学生の頃から。

翔と彩花は仲が良くて。

一緒にいることも多くて。

だから私は、二人は付き合っているんだと思っていた。

それが当たり前だと思っていた。

だから――。

翔には彩花がいる。

そう思っていた。

でも。

違った。

「……私、勘違いしてた」

思わず口からこぼれる。

「何を?」

「ううん……なんでもない」

彩花は不思議そうに私を見る。

でも、それ以上は聞かなかった。

私はもう一度、彩花の隣にいる男の子を見る。

そして、もう一度考える。

じゃあ。

翔と彩花は――。

付き合っていなかった。

その事実だけが、頭の中に残った。

どうして今まで、気づかなかったんだろう。

そんな疑問が、胸の片隅に小さく残る。

けれど。

それが何を意味するのか。

翔がどういう気持ちだったのか。

そのときの私は、まだ何も知らなかった。

ただ一つ。

ずっと自分の中にあった「翔には彩花がいる」という思い込みが、初めて崩れた。

それだけだった。