文化祭当日。
朝から校内は、いつもとは違う空気に包まれていた。
廊下には色とりどりの飾りが並び、教室からは笑い声が聞こえてくる。
普段とは違う制服姿の生徒や、校内を歩く他校の生徒。
どこを見ても、文化祭一色だった。
陸上部の模擬店も、朝から忙しい。
「翔、これお願い」
「はい」
俺は渡された食材を運ぶ。
まだ以前のように動けるわけじゃない。
でも、こうして部活の仲間と一緒に文化祭を迎えられたことが嬉しかった。
「やっぱ文化祭って忙しいな」
隣で作業をしていた拓実先輩が笑う。
「そうですね」
「翔、無理してない?」
「大丈夫です」
「ならいいけど」
拓実先輩はそう言って、また作業に戻った。
今日は実行委員の仕事もあるらしい。
それなのに、こうして模擬店も手伝っている。
「先輩、大変ですね」
「まあね。でも楽しいよ」
拓実先輩が笑う。
しばらく二人で作業を続けた。
焼きそばを作る。
パックに詰める。
注文を受ける。
それを繰り返す。
昼前になり、少しだけ客足が落ち着いた。
「……翔」
「はい?」
拓実先輩が、少しだけ声を落とした。
「一年の瑠夏ちゃんって知ってる?」
「はい…。」
「俺さ」
「後夜祭で、瑠夏ちゃんに告白する」
「……」
手が止まった。
聞き間違いかと思った。
「……瑠夏?」
「うん」
拓実先輩は、普通に笑っていた。
「瑠夏ちゃん」
胸の奥が、大きく跳ねた。
なんで。
どうして。
その名前を、拓実先輩が。
「……いつから?」
思わず口から出た。
「ん?」
「……いや」
俺は視線を落とした。
「何でもないです」
拓実先輩は少し笑った。
「文化祭の実行委員で一緒になってさ」
「……実行委員?」
「うん」
知らなかった。
瑠夏が文化祭実行委員になったことも。
拓実先輩と一緒に準備していたことも。
二人が話すようになったことも。
何も知らなかった。
「準備してるうちに、結構話すようになって」
「……そうなんですか」
「うん。瑠夏ちゃん、頑張り屋だし」
拓実先輩が少し照れたように笑う。
「一緒にいると楽しいんだよね」
胸が、痛かった。
学校に戻って。
やっと瑠夏に会えた。
それなのに。
瑠夏は俺から距離を取るようになった。
俺には、その理由が分からない。
そして俺が知らない間に。
瑠夏の時間は、俺の知らないところで進んでいた。
その中に、拓実先輩がいた。
「だから、今日ちゃんと伝える」
「……はい」
「翔、応援してくれる?」
拓実先輩は、何も知らない。
俺が瑠夏を好きだなんて。
そんなこと、知るはずもない。
俺だって。
言えるわけがない。
「……頑張ってください」
声は、ちゃんと出た。
自分でも驚くほど普通に。
「ありがとう」
拓実先輩が笑う。
俺も笑った。
でも。
胸の奥は、全然笑っていなかった。
瑠夏。
好きだった。
ずっと。
それなのに。
俺が学校に戻ってこられなかった間に。
知らない時間が、二人の間にできていた。
「翔、注文入った」
「あ、はい」
俺は慌てて作業に戻った。
焼きそばをパックに詰める。
ソースの匂いがする。
周りでは、部員たちが笑っている。
文化祭は、楽しいはずなのに。
俺の胸の奥だけが、ずっと重かった。
後夜祭。
拓実先輩が瑠夏に告白する。
その光景を想像する。
胸が苦しくなる。
でも。
俺には、何もできない。
瑠夏が俺から離れていく理由さえ。
俺には分からないのだから。
朝から校内は、いつもとは違う空気に包まれていた。
廊下には色とりどりの飾りが並び、教室からは笑い声が聞こえてくる。
普段とは違う制服姿の生徒や、校内を歩く他校の生徒。
どこを見ても、文化祭一色だった。
陸上部の模擬店も、朝から忙しい。
「翔、これお願い」
「はい」
俺は渡された食材を運ぶ。
まだ以前のように動けるわけじゃない。
でも、こうして部活の仲間と一緒に文化祭を迎えられたことが嬉しかった。
「やっぱ文化祭って忙しいな」
隣で作業をしていた拓実先輩が笑う。
「そうですね」
「翔、無理してない?」
「大丈夫です」
「ならいいけど」
拓実先輩はそう言って、また作業に戻った。
今日は実行委員の仕事もあるらしい。
それなのに、こうして模擬店も手伝っている。
「先輩、大変ですね」
「まあね。でも楽しいよ」
拓実先輩が笑う。
しばらく二人で作業を続けた。
焼きそばを作る。
パックに詰める。
注文を受ける。
それを繰り返す。
昼前になり、少しだけ客足が落ち着いた。
「……翔」
「はい?」
拓実先輩が、少しだけ声を落とした。
「一年の瑠夏ちゃんって知ってる?」
「はい…。」
「俺さ」
「後夜祭で、瑠夏ちゃんに告白する」
「……」
手が止まった。
聞き間違いかと思った。
「……瑠夏?」
「うん」
拓実先輩は、普通に笑っていた。
「瑠夏ちゃん」
胸の奥が、大きく跳ねた。
なんで。
どうして。
その名前を、拓実先輩が。
「……いつから?」
思わず口から出た。
「ん?」
「……いや」
俺は視線を落とした。
「何でもないです」
拓実先輩は少し笑った。
「文化祭の実行委員で一緒になってさ」
「……実行委員?」
「うん」
知らなかった。
瑠夏が文化祭実行委員になったことも。
拓実先輩と一緒に準備していたことも。
二人が話すようになったことも。
何も知らなかった。
「準備してるうちに、結構話すようになって」
「……そうなんですか」
「うん。瑠夏ちゃん、頑張り屋だし」
拓実先輩が少し照れたように笑う。
「一緒にいると楽しいんだよね」
胸が、痛かった。
学校に戻って。
やっと瑠夏に会えた。
それなのに。
瑠夏は俺から距離を取るようになった。
俺には、その理由が分からない。
そして俺が知らない間に。
瑠夏の時間は、俺の知らないところで進んでいた。
その中に、拓実先輩がいた。
「だから、今日ちゃんと伝える」
「……はい」
「翔、応援してくれる?」
拓実先輩は、何も知らない。
俺が瑠夏を好きだなんて。
そんなこと、知るはずもない。
俺だって。
言えるわけがない。
「……頑張ってください」
声は、ちゃんと出た。
自分でも驚くほど普通に。
「ありがとう」
拓実先輩が笑う。
俺も笑った。
でも。
胸の奥は、全然笑っていなかった。
瑠夏。
好きだった。
ずっと。
それなのに。
俺が学校に戻ってこられなかった間に。
知らない時間が、二人の間にできていた。
「翔、注文入った」
「あ、はい」
俺は慌てて作業に戻った。
焼きそばをパックに詰める。
ソースの匂いがする。
周りでは、部員たちが笑っている。
文化祭は、楽しいはずなのに。
俺の胸の奥だけが、ずっと重かった。
後夜祭。
拓実先輩が瑠夏に告白する。
その光景を想像する。
胸が苦しくなる。
でも。
俺には、何もできない。
瑠夏が俺から離れていく理由さえ。
俺には分からないのだから。



