未練なんてありませんが?

「仮に、アシュベリー子爵令嬢が本物のオマリー絹(シルク)を作り上げ、あなたに渡したとしても、あのドレスがオマリー絹(シルク)とはほど遠い代物であったことに変わりはありません」
「はあ!?」

 ポーリーンの顔が、これ以上なく醜く歪む。それはもう、醜悪と言えるほどに。
 それでも、怖いなんて思わない。
 身分のない彼女など、牙をもがれた獣のようなもの。

 これほどまでに冷静で、彼女に対して冷酷になれる自分に驚く。
 彼女に言いたかったことを、私はこんなにも心に溜め込んでいたのだ。

「あのドレスの色は、契約している染色工房の職人たちが染めたものとは到底思えませんでした。鮮やかさも深みも足りないし、ところどころにムラもありましたもの。大方、見習いを引き抜いて染めさせたのでは? 本物のオマリー絹(シルク)は、本物の職人の手によって作られているのです。それを、まだ技術の拙い見習いに作らせ、あんな大切な場で本物だと豪語するなんて、侮辱以外のなにものでもありませんわ。オマリー絹(シルク)の製作、流通を担う責任者として、断固抗議させていただきます」
「なっ……なっ……!」

 ポーリーンは、まさかこれほど言い返されるとは思っていなかったらしく、唇をわなわなと震わせている。

 ……というか、どうして言い返されないと思うのよ? こっちは、言いたいことを全て、存分に言っていいと言われているのよ。現に、グローリア殿下は何も言わないでしょう? それをよしとしているからよ。

 グローリア殿下をチラリと見遣ると、口元がむにょむにょしていた。
 たぶん、必死に笑いを堪えている。
 そして、エヴァンは晴れ晴れとした表情だ。
 むしろ、もっと言え、みたいな?

「……やっぱりあなたは意地悪だわ! 意地が悪くて気も強くて傲慢で……性格がもう最低最悪! そんなだから、フランシスに愛想を尽かされるのよ!」

 それ全部、ご自分のことでは?
 ……さすがにこれは言えないわね。

「婚約破棄された女なんて、この先惨めに生きていくしかないわ! ああ、だから商売にこだわっているのね? そうね、結婚もできない女なんて、そうでもしないと生きていけないものね。悲しいわね。淋しいわね。お気の毒様っ!」
「はぁ……」
「なに? 言葉も出ない? いい気味だわ! ニコラ、あなたはフランシスを愛していたものね。グランデでみっともなく縋っていたけれど、失敗しちゃって気分はどう? 彼は私と結婚するのよ! 未練タラタラでしょう?」

 どうやら彼女の中では、私がフランシスに縋ったことになっているらしい。
 どこをどう見ればそんなことになるのか。私には理解不能だ。
 それに、未練タラタラですって?

 私はきょとんとした表情を作り、首を傾げてみせた。

「未練なんてありませんが?」
「嘘よ! あなた、本当に嘘つきね! あ、強がってるんだ。そうよね、強がるしかないものね!」
「どうして強がる必要があるのでしょう?」
「だって、この先たった一人で生きていくしかないもの! あんたなんか誰も相手にしない。するとしたら、お金目当てね。あんた自身は誰からも愛されない! ふんっ! なんて惨めったらしいのかしら? 笑っちゃうわ!」

 私は、咄嗟にエヴァンの腕を掴む。今にも飛び出していきそうだったからだ。

「エヴァン、私は平気よ」
「……っ」

 エヴァンがポーリーンを激しく睨みつける。
 すると彼女は、今度はエヴァンをターゲットに定めた。

 ……無謀すぎる。

「なぁに、その目は。本当のことでしょう? あなただって、こんな人と一緒にいるなんてまっぴらよね? さっさと見捨てて、素敵な令嬢でも見つけたら? そうだわ! 私と仲良しの令嬢を紹介してあげる!」
「そんなご令嬢なんているんですか? 例えいたとしてもお断りです。あなたと似た令嬢なんて、それこそまっぴらごめんですから」
「っ!」

 エヴァンの言葉に、ポーリーンの顔が真っ赤になる。怒りのあまり、今にも頭から湯気が噴き出そうだ。