未練なんてありませんが?

 気を引き締めて、テレンス殿下の言葉を待つ。
 私の心臓は激しく脈を打っていた。

「これは、拒否してもらっても構わない」
「……はい」
「その上で聞いてもらいたいのだが……。ポーリーンがあなたと話したいと言っている」
「ポーリーン殿下が、ですか?」

 意味がわからない。
 今更何を話すというのだろう?

「助けろなどとは言わせない。姉上がともに立ち会うし、もしそんなことを言われても、姉上が止めるから心配しなくてもいい。おそらく……理不尽な言になるだろう。だから、断ってくれても構わない。だが、あなたにも言いたいことがあるだろう? この際、ぶちまけてやってはどうかと思ってね。……どうだろうか」

 ポーリーン殿下に再び相まみえるのは、私にとって苦痛を伴うものだ。
 けれど、グローリア殿下が一緒にいてくださるなら。
 そして──言いたいことを言っていいのなら。

 その時、グローリア殿下が苦笑しながら言った。

「オマリー伯爵令息、言いたいことがあるようだな。想像はつくが、言ってみろ」

 エヴァンはグローリア殿下に一礼し、こう願い出る。

「恐悦至極に存じます。……私も、その場に立ち会わせてはいただけないでしょうか」
「そう言うと思っていたよ。構わない。其方がいた方が、ニコラも安心できるだろう」
「ありがとうございます」

 グローリア殿下は、エヴァンの行動を予測していたようだ。
 でも、エヴァンも一緒なら私も心強い。
 エヴァンが側にいてくれるなら、ポーリーン殿下に何を言われようと平気……なはず。

「テレンス殿下、承知いたしました。ポーリーン殿下とお話させていただきます」
「感謝する、オマリー伯爵令嬢」

 最初から最後まで驚きどおしの会合だったけれど、とりあえず終わった。
 私たちは心身ともにへとへとになりつつ、邸に戻ったのだった。

 *

 日を改めて、再び呼び出される。
 今度は、私とエヴァンのみが王宮へ向かう。
 お父様もお母様も心配そうな顔をしていたけれど、言いたいことは我慢しなくていいと背中を押してくれたので、遠慮はしない。
 テレンス王太子殿下、いや、もうすぐ陛下となる彼のお墨付きなのだ。思う存分言ってやる!

 王宮に着いて、私たちはグローリア殿下とともに、用意された一室へと案内される。
 中に入ると、相変わらず派手な格好をしたポーリーン殿下がいた。なんと、フランシスまでいる。

「遅いわよ! いつまで待たせるつもりなの?」

 開口一番これだ。
 話がしたいと言ったのはそっちなのに。

「ポーリーン、お前はもう王族ではない。平民ではないが、貴族でもない。そのような口をきくな」

 グローリア殿下に一刀両断にされ、ポーリーン殿下……いや、もう王族ではないならこの敬称は必要ない、ポーリーンは表情を歪める。

「お前の方からニコラと話をしたいと言ったのだろう? 彼女はそれに応えてくれたんだ。礼よりも先に悪態をつくとは何事か。そんな失礼な態度を取るなら、この機会はなしにするが?」
「……っ。申し訳……ございません、お姉様」
「謝るのは、私にではないだろう?」

 ポーリーンは私の方を見るが、睨みつけるばかり。
 けれど、グローリア殿下が私を連れて部屋を出ようとすると、ようやく観念したのか、渋々ながら私に謝罪をした。

「申し訳……なかったわ」

 誠意はあまり感じられないが、別に構わない。
 というか、早く終わらせたい。
 グローリア殿下がどうする? というように私を見るので、コクリと頷いた。

「ニコラの寛大さに感謝するのだな。……で、お前の話とはなんだ」

 グローリア殿下が、フランシスを一瞥する。
 こちらにも物申したいようだが、そうするとまた面倒臭そうなので放置、という感じである。

 ポーリーン殿下は私を見据え、不機嫌を露わに言った。

「ニコラ、あなたって本当に意地悪だわ。私とフランシスの仲に嫉妬して、新しいオマリー絹(シルク)を私の手に入らないようにして。グランデ国王夫妻に献上するなら、私にも当然あるべきじゃない! むしろ、私が優先されるべきよ! 私は、エイベラル王国の王女なのよ? 私が新しいオマリー絹(シルク)のドレスを纏えば、とてもいい宣伝になるじゃない。そんなこともわからないなんて、あなた、商人として失格ね。とてもオマリー商会を率いてなんていけないわよ」
「なっ……」

 すぐさまエヴァンが反論しようとするが、私はそれを視線で制止する。
 グローリア殿下は静観していた。
 でも、本当は言い返したいのだ。それを抑えているのは、この機会を設けたのは私のため、私がこれまでの鬱憤を晴らす場だとわかっているから。

 私は、淡々とした口調でポーリーンに言い返す。

「だからといって、偽物を作りますか? エイベラルの王女としても、グランデの第三王子妃としても、ありえない所業だと思いますが」
「うるさいわね! あれは……あれはっ……全部クララのせいよ! あの子が偽物を作って、こちらに寄越したから……っ!」

 アシュベリー子爵令嬢がムーア卿に言われ、そうしたことはわかっている。 
 そして、ムーア卿にそれを強請ったのは、あなただというのに。

「仮に」

 私は一呼吸置いて、ポーリーンに冷めた視線を向ける。
 彼女は私の迫力に圧されたのか、一歩後退った。

 これまでずっと我慢していた。
 どうしようもない最低な女でも、彼女は「王女」だったから。
 だから、言いたいことは胸の内に収めるしかなく、どんなに理不尽なことを言われても、どんなに貶められても、何も言い返さなかったのだ。
 それを、ポーリーンはわかっていない。