未練なんてありませんが?

「彼女もまた、ポーリーンやあの護衛と同じく貴族牢に入ってもらっているよ。詳しい事情はこれから聞くことになるけど、ポーリーンや婚約者が絡んでいることは確実だろう」

 シリル殿下の言うとおり、無関係であるはずがない。でも、アシュベリー子爵令嬢がどのように絡んでくるのかはわからない。
 私が難しい顔をしていると、王太子殿下が尋ねてきた。

「オマリー伯爵令嬢、聴取に参加されたいか?」
「え……」

 私は目を丸くして、王太子殿下を見つめる。
 できれば、彼女の話を聞きたい。……いいのだろうか。
 王太子殿下は私の気持ちを汲み、首肯した。

「シリル、オマリー伯爵令嬢も同席してもらうとしよう」
「はい」
「あの!」

 すかさず、エヴァンが手を挙げて言った。

「私も同席させていただけないでしょうか」
「貴殿は……オマリー伯爵令嬢の弟御であったか」
「はい。エヴァン=オマリーと申します。姉の補佐として、私にも同席させてください」

 王太子殿下は、しばらくの間エヴァンを熟視し、やがて頷く。

「承知した」
「ありがとうございます」

 エヴァンがホッとしたような顔になる。
 お父様とお母様も同席したそうにしていたけれど、遠慮したようだ。私一人ではなく、エヴァンもいるから信じて任せたという部分もあるだろう。
 両親を窺うと、見守るかのような優しい視線を向けられた。「しっかり見届けてきなさい」、そう言われた気がした。

 そして、シリル殿下の話は最終局面に入る。

「アシュベリー子爵令嬢は、該当の部屋の鍵を手に入れていた。それを私に持たせ、その部屋に向かってほしいと訴えた。それで、私はあの部屋へ向かったんだ。そうしたら、部屋の前でポーリーンが騒いでいた。護衛の行方をあちこちで聞きまわり、辿り着いたようだ。扉が開かないと喚くので、持っていた鍵で開けた。……そして、あの最大のやらかしが繰り広げられた」

 ポーリーン殿下は私たちを見るなり盛大な誤解をして、私を突き飛ばした。それだけでなく、私に殴りかかってきた。
 あれは本当に……とんでもなかった。全てにおいて。
 エヴァンが彼女を止めてくれたから事なきを得たけれど、あのままおとなしく殴られていたら、私もさすがにブチ切れて、彼女に手を出してしまったかもしれない……。

 その後のポーリーン殿下の行動も、私にはとんとわからない。
 突然フランシスに色目を使ってしなだれかかり、キスをしたのだから。

「あそこまでやってくれるとは思わなかったよ。……結果的にオマリー伯爵令嬢を傷つけることになってしまったけれど、私は無事目的を達することができた、というわけだ」

 やはり、シリル殿下は最初から離縁する前提でポーリーン殿下を娶ったのだ。
 彼の告白が終わった後、王太子殿下は疲れたように頭を振った。

「計算高いお前があんな女……失礼、彼女を妻に迎えると言った時、何か企んでいるのだろうと思った。これは私だけじゃなく、王族全員だな。だが、お前はなんだかんだと皆を説得してしまった。これは……なんだろうな、体よく騙されたと言えばいいのか……とにかく、情けない」

 ちょっと王太子殿下が気の毒になってしまった。
 それに「あんな女」って。
 ポーリーン殿下の悪評は、グランデ王国の王族にも知られていたのね……。

 グローリア殿下、テレンス殿下にウィリアム殿下、そしてシリル殿下の計画は完遂され、事情も明かされた。
 わからないのは、あと一つ。
 王太子殿下が私に向かって言った。

「これから、アシュベリー子爵令嬢の聴取を行う。終わるのは夜遅くになるだろうが、明日からの予定が詰まっていてね」
「構いません」
「ありがとう。それでは、行こうか」

 私とエヴァンは両親と別れ、殿下方とともに貴族牢へと向かう。

 アシュベリー子爵令嬢……あなたは今、何を考えているのだろう?