未練なんてありませんが?

 職人はそうそう引き抜けないし、後の処理も面倒だ。だから、見習いでいい。金を積めば、簡単に引き抜けるだろう。糸が用意できれば、それを染めて、織るだけだ。染色の職人はすでに用意している。その者からは、秘匿されている技術も聞き出している。だからお前は、織物職人の見習いを引き抜き、隣国に連れてこい。

 そう命じられ、言われるがまま遂行した。
 引き抜いた見習いたちを隣国に送り届け、後は知らぬ振り──。

 胸は、僅かに痛んだ。大切に育まれている技術を流出させるのだから。
 その技術は尊敬に値するもので、憧憬とも言える感情も持っていたから、躊躇いもあった。
 しかし、これは必要なことだった。自身の望みを叶えるために、この命令にあえて(●●●)従ったのだ。

 このことが露見すれば、ただでは済まない。
 それでも、手を染めた。
 もう、後には引けない。前に突き進むだけである。

「我が世の春を謳歌できるのも……あと少し」

 さぁ、荷造りを始めなければ。
 命じられたことではあるけれど、仕掛けたことでもある。
 仕掛けたのならば、それがどう作用するのかを確かめずにはいられない。

 外は真っ暗闇だ。月は厚い雲に覆い隠されている。
 それがまるで自身の闇を示しているかのように思え、震えながらそっと目を伏せた。