未練なんてありませんが?

「そうそう、ニコラの元にもグランデ王国から招待状が届いただろう?」
「はい、届きました」
「エイベラルからは、私が行くことになったんだ」
「そうなのですね! 心強いですわ」

 こちらの王家からも誰かが参加するとは思っていたけれど、グローリア殿下なら安心だ。万が一何か起こった時も、迅速に対応してくれる。それに、何かと相談しやすい。
 出席するかわからないけれど、なにせあちらには天敵がいる。顔を合わせることになれば、何か仕掛けてくるに違いない。
 そんなことを考えていると、グローリア殿下は含み笑いをした。

「ニコラの懸念はよくわかるぞ。……嫁に行った愚妹も、夜会に出席するそうだ」
「……」

 心の中で「うげ」と淑女らしからぬ声をあげる。
 予想はしていたけれど、やはりか。

「くくくっ……」
「殿下?」
「いや、悪い。ちょっと思い出してな」
「何をでしょう?」

 一瞬、歪めた表情のことを笑われたのかと思ったけれど、そうではないようだ。
 よかった……。

「一番最初に贈ってくれたオマリー絹(シルク)のドレスを着て、私が夜会に出た時のことを思い出したんだ」
「あぁ……。あの時のグローリア殿下は、もう輝くばかりの美しさで、しばらくの間うっとりと見惚れてしまいましたわ。とても目が離せませんでした」
「ありがとう。……実はな、ポーリーンがあのドレスを見て、自分も手に入れたいと駄々を捏ねたんだよ」
「……そうでしたか」

 自分にふさわしくない、とか言っていたのに。

「だが、あの時はまだ数が少なすぎて無理だっただろう? そうしたら、へそを曲げてしまってな。それで、ポーリーンはあの布に手を出さなくなったんだ」

 初耳である。
 なるほど。欲しかった時に手に入らなかったものだから、拗ねていたと。
 さすがはポーリーン殿下だ。らしすぎる。
 申し訳ないけれど、心底納得してしまった。
 だったら、今回もスルーしてくれる……だろうか。

 そんな私の考えを読んだかのように、グローリア殿下は後を続けた。

「だが、他の高級布ばりに染色できるようになったとなると、話は違ってくる。また、我儘を言うだろうな。今回、あちらの王家に献上は?」
「国王ご夫妻に」
「他は?」
「ご用意できる余裕がなくて……」
「だろうな。いや、それは私もそうだろうなと思っていたから問題ない。しかし……またまた面倒臭いことになりそうだな。あいつが喚き散らす姿が目に浮かぶよ」
「……」

 私の口からは何とも言えないが、そうだろうなと思う。
 オマリー絹(シルク)がエイベラル王国優先なのはわかっているから、その国の王女だった自分は優先されて当然だ、とか言いかねない。
 普通に考えれば、第三王子妃が王太子ご夫妻を差し置いてなどありえない。でも、彼女にそんな理屈は通らないのだ。

「新生オマリー絹(シルク)のお披露目は必須だし、ニコラもそれで仕立てたドレスを用意するんだろう?」
「はい。ですが……」

 グローリア殿下だってそうするだろう。いや、そうしてもらわなくては困る。
 だったら、私は遠慮した方がいいのかも。
 グローリア殿下だけなら、なんだかんだとポーリーン殿下を説得することはできるだろう。でも、私もとなると……。

 しかし、グローリア殿下は首を横に振った。

「いや、ニコラもそうすべきだ。オマリー絹(シルク)は、オマリー商会の誇る商品、それを次期商会長が宣伝しなくてどうする」

 確かにそのとおりだ。
 今や、国をあげての特産となっているオマリー絹(シルク)だが、何より我が家、我が商会の商品なのだから。
 私は、覚悟を決める。

「そうですね。殿下のおっしゃるとおりです。……私も、オマリー絹(シルク)のドレスで出席いたします」
「そうか、よかった。ニコラのドレス姿を楽しみにしているよ」
「私も、グローリア殿下のドレス姿を心から楽しみにしております」

 そう言って笑いあい、私たちは一級品のお茶とお菓子に舌鼓を打つのだった。