未練なんてありませんが?

 あの夜会の後、私はすぐさまお父様に時間を取ってもらい、フランシスとの話を打ち明けた。
 お父様の側にはお母様もいて、もちろんエヴァンも同席している。

「……彼には失望した」
「まったくだわ! よくもニコラを……!」

 怒りと悲しみに身体を震わせる二人に、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 私はどうすればよかったんだろう?
 フランシスの気持ちを繋ぎとめるため、もっと努力すべきだった? 彼の好みに寄り添うべきだった?
 でも、例えそうしたとしても、あの王女はフランシスを独占しただろうし、フランシスも王女を優先し続けたと思う。
 だって、彼は第二王女専属の護衛騎士なのだから。

「姉上、あなたに非はありません。悪いのはあいつです」

 私の考えていることを読み取ったのか、エヴァンが小さな声で囁く。それを聞き取った両親も、一斉にそれを肯定してくれた。

「そうよ! あなたは精一杯彼に尽くしていたわ。本当なら、彼は騎士になるべきではなかった。本気でこの家のためを思うなら、婿入りしたいと願うなら、商会について学びを深め、あなたを支えるべきだった。けれど、彼の夢を諦めさせたくなかったあなたは、これ以上ないくらい譲歩したわ。それを……フランシスは裏切ったのよ!」

 そう言って涙を流すお母様の肩を抱き、お父様も大きく頷く。

「そうだ。お前は何一つ悪くないよ、ニコラ」

 家族の気持ちが嬉しくて、私は彼らに深く一礼する。その時、ふと涙が零れそうになって、慌てて上を向いた。
 すると、お父様が覚悟を決めたような、でも穏やかな表情で私に尋ねてくる。

「ニコラ、彼との婚約をどうしたい?」

 フランシスは、待ってほしいと言った。
 でも、これ以上彼の都合に振り回されたくない。それに、私たちの気持ちはとうの昔にすれ違ってしまっており、再び交わることはないと思われた。

 私は、正直な気持ちを告げる。

「解消したいです」
「そうか。わかった」
「……本当は、あちら有責で破棄したいところだわ。でも、それじゃニコラにも影響が出てしまうものね」

 お母様は、忌々しそうに眉を顰める。
 お母様の気持ちもわかる。私だって、破棄したいところだ。
 でもそれじゃ、話はよけいに拗れる気がする。だって──

「実は……フランシスは、婚姻を待ってほしいと言ってきたのです」
「はあ!?」

 両親があんぐりと口を開ける。
 エヴァンはというと、二人にはわからないよう、こっそり舌打ちをしていた。ついでに毒も吐いていた……。

「あのクズが」

 基本、紳士なエヴァンだけれど、彼は時々毒を吐く。そして、そんな彼を両親は知らない。知っているのは、たぶん私だけだろう。

「エヴァン」
「……失礼しました。つい」
「二人は気づいてないみたいだからいいけど」

 呆れる私に、エヴァンはニッと悪戯っぽく微笑んだ。
 もうすっかり大人びてしまったエヴァンだけれど、時折見せるこういう顔は、彼の幼い頃を思い出させ、胸がきゅんとする。

 エヴァンがうちに来た頃は、まだ八歳だった。
 ちょっと生意気なところもあったけれど、素直で優しくて、姉上姉上っていつも私の後ろをついてきて……とても、とても可愛かった……。