『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』

 母さんが目を丸くする。

「軍釟が?」

「他に誰がやるんだよ!」

 俺は親父へ視線を向ける。

「お前らがやれ」

 親父は即答した。

「無理」

「は?」

 母さんまで平然と頷いた。

「私たち疲れてるもの」

「はぁ!? お前らが疲れた原因、自分たちだろ!」

「だから無理なんだよ」

「クソ……何で俺がするんだよ!」

 神楽から穏やかな声が届く。

『助かるよ』

「お前にそう言われると断れねぇんだよ!」

 仕方なく右手を上げる。

 この程度なら、制御を解除する必要などない。

「範囲指定――天界統括宮及び周辺区域。疲労回復、眩暈軽減、吐き気抑制、睡眠不足による身体負荷の緩和」

 足元から淡い白銀の光が広がった。

 魔力は床を伝い、廊下へ、階段へ、塔へと滑らかに伸びていく。さっきまでぐったりしていた職員たちの表情が少しずつ戻り、壁に手をついていた天界兵もゆっくり背筋を伸ばした。

 神楽からも、少し楽になったような気配が伝わってくる。

『ありがとう、軍釟』

「どういたしまして」

 俺はそのまま親父と母さんを睨んだ。

「で、天界に残ってる魔力の残滓、早く消してくれよ」

 親父が眉を寄せる。

「俺たち疲れてるんだけど」

「知らん!」

 母さんまで笑う。

「今日はゆっくりしたいわ」

「その前に自分たちの後始末しろ!」

 ようやく二人が重い腰を上げ、天界に残っていた魔力振動を解除すると、それまで空間の底に残っていた微かな揺れまで完全に消えていった。

 俺は回復術を終え、大きく息を吐く。

「クソがー……覚えてろよ〜」

『お疲れさま』

「本当にな」

 昨日は冥府。

 今日は天界。

 俺、本当に門番だったはずなんだけどな。