「……あいつ、どこまでやってんだよ」
『それは僕から言わない方がいいと思う』
「知ってんの?」
『全部じゃないよ。でも、窓路が軍釟に気づいてほしいと思ってることがあるのは分かる』
「だから何にだよ……」
『それは本人に聞いて』
「お前まで窓路みたいなこと言い出すな」
神楽から小さな笑いが伝わった。
その時、ふと親父の顔が妙に疲れていることに気づいた。
「……そういや親父」
「何だよ」
「昨日、母さんに何であんなに怒られてたんだよ。手当の件、お前のせいじゃなかったんだろ」
親父の顔がわずかに引きつり、母さんは何故かにこやかに視線を逸らした。
神楽から、少し楽しそうな気配が伝わってくる。
『それはね、昨日の夜は大変だったよ』
「何が」
『最初は手当の件で母さんが父さんを問い詰めてたんだけど、途中から昔の話まで全部出てきてね』
親父が頭を抱えた。
「神楽、もうその話いいだろ」
『よくないよ。天界中が被害受けたから』
「……被害?」
そう言われて初めて、俺は周囲へ意識を向けた。
さっきから天界人たちの様子が妙だとは思っていた。
目の下には隈があり、額を押さえながら歩く者や、壁へ手をついて身体を支えている職員までいる。単なる寝不足というには、明らかに顔色が悪い。
「こいつら、寝不足だけじゃないだろ」
『うん。最初の喧嘩でも天界は揺れたけど、本当に酷かったのは仲直りしたあと』
「……仲直り?」
嫌な予感しかしない。
『そこから朝まで十時間以上』
俺は親父を見る。
親父は視線を逸らし、母さんは何故か妙に機嫌がいい。
「……何が十時間だよ」
『揺れ』
「それだけで分かるか!」
『火山噴火みたいな魔力波が来たと思ったら、そのあと大地震みたいに揺れてたよ』
「天界で何やってんだよ!」
母さんが首を傾げる。
「少し盛ってない?」
『盛ってないよ。僕も揺れで気分悪くなったから』
「お前も?」
『見えないし聞こえないけど、揺れは感じるからね』
そこまで聞いたところで、俺はふと眉を寄せた。
何かがおかしい。
昨日の夜、俺は普通に家へ帰り、家族と飯を食い、窓路から届いたメッセージに頭を抱えたあと、普通に寝た。
千景も、灯里も、朔も。
誰一人として、揺れたなどと言っていない。
「……待て」
母さんがこちらを見る。
「何?」
「うち、何も揺れてねぇぞ」
今度は母さんがきょとんとした。
「そりゃそうでしょう」
「何で」
「あなた、自分の家に防御魔法を何重にも掛けてるじゃない」
「……あれ?」
今度は親父まで呆れたようにこちらを見る。
「お前、自分で掛けといて知らなかったのか」
「いや、知ってるよ! 俺が張ったんだから!」
「じゃあ何を驚いてるんだよ」
「外から余計な魔力とか気配が入ってくるのが嫌だから張ってただけだ。家族まで変なものに巻き込まれたくねぇし、自分の家くらい静かにしてたいだろ」
母さんが笑った。
「その結界、あなたが思ってるより強いのよ。外からの魔力干渉や気配だけじゃなくて、衝撃や空間の振動までかなり遮断してるわ」
「……そこまで?」
『だから軍釟の家は、昨日ほとんど影響を受けてないんだと思うよ』
神楽の声に、俺はゆっくり親父と母さんを見る。
「俺、普通に寝てたんだけど」
「よかったじゃない」
母さんは悪びれもせず笑う。
「家族をちゃんと守れてたんだから」
「そうだけど……」
そこでようやく、天界中の職員が疲弊している中、俺の家族だけ何事もなく朝を迎えられた理由が分かった。
家族を守るために張っておいた結界が、まさか親父と母さんの災害まで防ぐことになるとは思わなかった。
「……何で俺ん家だけ災害対策完璧なんだよ」
『それは僕から言わない方がいいと思う』
「知ってんの?」
『全部じゃないよ。でも、窓路が軍釟に気づいてほしいと思ってることがあるのは分かる』
「だから何にだよ……」
『それは本人に聞いて』
「お前まで窓路みたいなこと言い出すな」
神楽から小さな笑いが伝わった。
その時、ふと親父の顔が妙に疲れていることに気づいた。
「……そういや親父」
「何だよ」
「昨日、母さんに何であんなに怒られてたんだよ。手当の件、お前のせいじゃなかったんだろ」
親父の顔がわずかに引きつり、母さんは何故かにこやかに視線を逸らした。
神楽から、少し楽しそうな気配が伝わってくる。
『それはね、昨日の夜は大変だったよ』
「何が」
『最初は手当の件で母さんが父さんを問い詰めてたんだけど、途中から昔の話まで全部出てきてね』
親父が頭を抱えた。
「神楽、もうその話いいだろ」
『よくないよ。天界中が被害受けたから』
「……被害?」
そう言われて初めて、俺は周囲へ意識を向けた。
さっきから天界人たちの様子が妙だとは思っていた。
目の下には隈があり、額を押さえながら歩く者や、壁へ手をついて身体を支えている職員までいる。単なる寝不足というには、明らかに顔色が悪い。
「こいつら、寝不足だけじゃないだろ」
『うん。最初の喧嘩でも天界は揺れたけど、本当に酷かったのは仲直りしたあと』
「……仲直り?」
嫌な予感しかしない。
『そこから朝まで十時間以上』
俺は親父を見る。
親父は視線を逸らし、母さんは何故か妙に機嫌がいい。
「……何が十時間だよ」
『揺れ』
「それだけで分かるか!」
『火山噴火みたいな魔力波が来たと思ったら、そのあと大地震みたいに揺れてたよ』
「天界で何やってんだよ!」
母さんが首を傾げる。
「少し盛ってない?」
『盛ってないよ。僕も揺れで気分悪くなったから』
「お前も?」
『見えないし聞こえないけど、揺れは感じるからね』
そこまで聞いたところで、俺はふと眉を寄せた。
何かがおかしい。
昨日の夜、俺は普通に家へ帰り、家族と飯を食い、窓路から届いたメッセージに頭を抱えたあと、普通に寝た。
千景も、灯里も、朔も。
誰一人として、揺れたなどと言っていない。
「……待て」
母さんがこちらを見る。
「何?」
「うち、何も揺れてねぇぞ」
今度は母さんがきょとんとした。
「そりゃそうでしょう」
「何で」
「あなた、自分の家に防御魔法を何重にも掛けてるじゃない」
「……あれ?」
今度は親父まで呆れたようにこちらを見る。
「お前、自分で掛けといて知らなかったのか」
「いや、知ってるよ! 俺が張ったんだから!」
「じゃあ何を驚いてるんだよ」
「外から余計な魔力とか気配が入ってくるのが嫌だから張ってただけだ。家族まで変なものに巻き込まれたくねぇし、自分の家くらい静かにしてたいだろ」
母さんが笑った。
「その結界、あなたが思ってるより強いのよ。外からの魔力干渉や気配だけじゃなくて、衝撃や空間の振動までかなり遮断してるわ」
「……そこまで?」
『だから軍釟の家は、昨日ほとんど影響を受けてないんだと思うよ』
神楽の声に、俺はゆっくり親父と母さんを見る。
「俺、普通に寝てたんだけど」
「よかったじゃない」
母さんは悪びれもせず笑う。
「家族をちゃんと守れてたんだから」
「そうだけど……」
そこでようやく、天界中の職員が疲弊している中、俺の家族だけ何事もなく朝を迎えられた理由が分かった。
家族を守るために張っておいた結界が、まさか親父と母さんの災害まで防ぐことになるとは思わなかった。
「……何で俺ん家だけ災害対策完璧なんだよ」


