『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』

その場にいる全員が静かになる。

 神楽の口は動いていない。

 それなのに、言葉だけは不思議なくらい明瞭だった。

『軍釟みたいに暴言も吐かないし、大きな声も出さないよ。まあ、僕は声そのものを出せないんだけどね』

「おい」

 会って早々、弟を落とすな。

『こうやって心へ響くように話しかけてるんだけど……聞こえるかな、灯里、朔』

「聞こえる!」

 真っ先に答えたのは朔だった。

「頭の中でお話してる!」

 灯里も目を丸くしながら頷く。

「私も聞こえる。優しい声」

『よかった』

 神楽の表情が、ほんの少し緩んだ。

「神楽おじさん?」

 灯里が首を傾げる。

 母さんが笑った。

「そう。パパのお兄さんだから、あなたたちの伯父さんね」

「神楽おじさん、私たちのこと分かる?」

『分かるよ』

「見えないのに?」

『目では見えていないけど、ここにいることも、どんな気持ちなのかも感じることができるんだ』

 朔がさらに身を乗り出す。

「神楽おじさん、パパのお兄ちゃんなの?」

『そうだよ』

「じゃあパパより強い?」

「最初にそこ聞くな」

『それは軍釟の方がずっと強いよ。僕には魔力がないからね』

「じゃあ何ができるの?」

『星を読むこと』

 灯里が尋ねる。

「未来が見えるの?」

『全部じゃないよ。未来は変わるから。ただ、時間がどちらへ流れているのか、その兆しを見ることができる』

「じゃあパパが今日怒るのも分かる?」

『それは星を読まなくても分かる』

「おい!」

 子どもたちが笑い、千景まで口元を押さえている。

 俺だけ損してないか。

『軍釟』

 今度は、神楽の意識が俺へ向いたのが分かった。

『やっと会えたね』

 何を言えばいいのか分からなかった。

 俺の中へ魂を取り込まれた兄。

 ずっと存在すら知らなかった家族。

「……悪い」

 結局、出てきたのはそれだけだった。

『何が?』

「俺が、お前の魂を……」

『それは違うよ』

 神楽が静かに遮る。

『君が選んだことじゃない。それに僕は今もここにいるんだから、初めましてでいいんだよ』

 何も返せずにいると、朔が空気を読むことなく元気よく言った。

「じゃあ今日から神楽おじさんも家族ね!」

 灯里がすぐに訂正する。

「最初から家族でしょ」

『……そうだね』

 神楽の顔に、初めてはっきりとした笑みが浮かんだ。