『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』

門をくぐった途端、今度は聞き慣れた声が飛んでくる。

「軍釟〜! 灯里ちゃーん! 朔ちゃーん!」

 母さんが両手を広げながら全速力でこちらへ向かってきた。

 天界統括女王。

 最高位。

 威厳。

 その辺りは全部、今だけ何処かへ置いてきたらしい。

「沙羅麻ちゃーん!」

 朔が嬉しそうに駆け出す。

「だからお前、それ定着させんなって!」

 止める間もなく朔は母さんへ飛び込み、母さんも嬉しそうに抱き上げた。

「きゃー! 朔ちゃん!」

 灯里も楽しそうに近づく。

「私も沙羅麻ちゃんでいい?」

「もちろんよ!」

「許可すんな!」

 母さんは朔を抱いたまま振り返った。

「いいじゃない。ばあばより沙羅麻ちゃんの方が可愛いでしょう?」

「年齢考えろ」

「三百歳なんてまだ若いわよ」

「その基準を現世へ持ち込むな」

 千景はもう完全に笑っている。

 すると少し離れた柱の陰から、見覚えのある男がそっと顔を出した。

 親父だった。

「……おい」

 俺が呼ぶと、肩がぴくりと動く。

「何だよ」

「何で隠れてんだ」

「別に隠れてねぇ」

「柱の陰から半分だけ顔出してる奴が何言ってんだ」

 親父は渋々姿を現したが、昨日より明らかに疲れて見えた。

「……母さんに何された?」

「何も」

「嘘つけ」

「ちょっと話し合っただけだ」

 母さんが満面の笑みを浮かべる。

「じっくりね」

「……そうか」

 それ以上聞くのはやめておいた。

 どうせろくな目には遭っていない。