『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』

しばらくしてリビングへ行くと、灯里と朔はすでに朝食を食べていた。

「パパ、おはよー!」

「おはよう」

 椅子へ向かおうとした俺へ、灯里が何気ない顔で言う。

「今日も部門長?」

 その一言に思わず足が止まった。

「昨日だけ部門長だったみたいに言うな」

「でもパパ、昨日まで知らなかったじゃん」

「……そうだけど」

 八歳児に朝から正論をぶつけられるのは、思っていた以上に堪える。

 席へ着いたところで、今度は朔が嬉しそうにこちらを見る。

「パパ、今日も門直す?」

「毎日壊れてたまるか」

「じゃあ何するの?」

「仕事放棄した死神を探す」

「鬼ごっこ?」

「そんな可愛いもんじゃない」

 千景が朝食を置きながら口を挟んだ。

「昨日の人から連絡が来たんでしょう?」

「ああ」

「何て?」

 俺は端末を手に取り、もう一度窓路から届いた文章を表示する。

 何度読んでも、そこにあるのは同じ一文だけだった。

『お前なら、もう気づいていると思ったんだがな』

「俺なら気づくって言われてもな……」

「軍釟だから分かる何かがあるってことじゃない?」

「それが分からねぇから困ってんだよ」

「お仕事のこと?」

 灯里が興味津々で聞いてくるので、俺は頷いた。

「まあ、そうだな」

「パパの昔のこととか?」

 何気なく放たれたその言葉に、箸を取ろうとしていた手が止まった。

 灯里本人には深い意味などなかったのだろう。けれど何故か、妙に引っ掛かる。

「……昔?」

「だって、パパじゃないと分からないんでしょ? だったら、パパが昔から知ってることなんじゃないの?」

 俺はしばらく娘を見つめた。

 千景は何も言わず、朔だけが横で牛乳を飲んでいる。

 窓路。

 俺なら気づくこと。

 死神部門。

 魂の流れ。

 それから――俺の過去。

「……まさかな」