『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』

しばらく千景は何も言わなかった。

 その静けさが妙に怖い。

「……明日、私も冥府庁へ行きましょうか?」

「やめてくれ」

「どうして?」

「その顔で行くのはやめてくれ。たぶん人事が泣く」

「じゃあ、ちゃんと確認してきてね」

「する。絶対する」

 そこで、今日一番腹の立った顔が頭に浮かんだ。

「……親父に言うか」

「お義父様に?」

「どうせまた適当なこと言って逃げるだろうけどな」

 千景は少し考え、あっさり言った。

「だったら沙羅麻様に言った方が早いんじゃない?」

 俺は千景を見る。

「……それだ」

 朔が隣から顔を覗き込んできた。

「じいじ、何したの?」

「色々だよ」

「じいじ、怒られる?」

「たぶんな」

 灯里が楽しそうに聞く。

「沙羅麻ちゃんに言うの?」

「……いつの間にその呼び方になったんだよ」

「沙羅麻ちゃんが、そう呼んでって言った」

「やっぱり本人か!」

 千景が笑う。

「気に入ってるみたいよ」

「母さんらしいけどさ……」

 すると朔まで楽しそうに声を上げた。

「沙羅麻ちゃーん!」

「今ここで呼ぶな!」

 そう言った、その時だった。

 何処からともなく、やけに明るい声が響いた。

『は〜い。聞こえたよ〜』

 俺は固まった。

 千景も一瞬動きを止めたが、灯里と朔だけは楽しそうに顔を見合わせている。

「……母さん?」

『何〜、軍釟?』

「いつから聞いてた?」

『だいたい最初から』

「最初から!?」

 家の中だぞ。

『部門長だったところから、危険手当も家族手当もついてないところまで、ちゃ〜んと聞いたわよ』

「盗み聞きじゃねぇか!」

『人聞きの悪いこと言わないの。母親が息子を見守ってるだけでしょう?』

「俺、もう子ども二人いるんだけど!」

『それとこれとは別よ』

 相変わらず無茶苦茶だ。

 そのうえ、次に聞こえた母さんの声は、さっきまでよりほんの少しだけ低かった。

『手当の件は、私から螺良に確認しておくから』

「……頼む」

『家族手当も危険手当も、それから本人に知らせないまま三年間部門長にしてた件もね』

 遠くの何処かで、親父の声が聞こえた気がする。

『え、ちょっと待て、沙羅麻――』

『あなたは後』