『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』

 ようやく帰ってきた。

 冥府庁ではどれだけ騒ぎが起きようが、俺は門番で、どうやら部門長でもあり、閻魔大王の息子で、何故か規格外の力まで持っていることになっている。

 けれど家に戻れば、そんなことはどうでもいい。

「パパ、今日何したの?」

 朔が隣へよじ登ってきた。

「仕事」

「いつもの?」

「……今日は門直した」

 灯里が振り返る。

「門って、パパがいつもいるところ?」

「ああ」

「壊れたの?」

「壊れかけた」

「直した?」

「直した」

「パパすごいじゃん」

「だろ?」

 素直に褒められると、悪い気はしない。

 すると、食卓へ皿を運んでいた千景が何気なく口を挟んだ。

「それで、他には?」

「ん?」

「それだけでそんな顔にはならないでしょう?」

 ……さすが嫁。

 俺は少し黙ったあと、ソファの背へ頭を預けた。

「俺さ、今日初めて知ったんだけど」

「何を?」

「……部門長だった」

 千景の手が止まり、灯里も俺を見る。朔まで首を傾げた。

 数秒間の沈黙のあと、千景がゆっくり瞬きをする。

「誰が?」

「俺」

「いつから?」

「三年前」

 今度は、明らかに笑いを堪えていた。

「おい」

「ごめん。でも……三年間?」

「そうだよ!」

「自分で知らなかったの?」

「知らねぇよ! 俺ずっと門番だと思ってたんだから!」

 灯里が呆れたように首を傾げる。

「パパ、自分の仕事なのに?」

「お前まで言うな!」

 朔だけは目を輝かせた。

「パパ、えらい人?」

「らしい」

「すごーい!」

「お前だけだよ、素直に喜んでくれるの」

 千景がとうとう吹き出した。

 俺としては笑い事ではない。

「しかも聞いてくれよ。部門長手当はついてた」

「じゃあ、お給料はちゃんともらってたのね」

「そこじゃねぇ。俺、あれ危険手当だと思ってたんだよ」

「危険手当は?」

「ない」

 千景の笑みが止まった。

「……ないの?」

「ない」

「門番なのに?」

「そう」

「今日、門壊れかけたのよね?」

「だから言ってんだよ!」

 ようやく味方ができた。

「それだけじゃない。家族手当もない」

 今度は千景が完全に手を止める。

「……家族手当?」

「ああ」

「私がいて?」

「ああ」

「灯里と朔もいて?」

「ああ」

「ついてないの?」

「ついてない」