『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』

頭が痛い。

 最高責任者が本人に知らせないまま部門長へ任命し、その任命書まで自分で受け取っている。

 これが普通の役所なら大問題だろう。

 いや、冥府庁でも十分大問題だ。

「ちょっと待て」

 もう一つ思い当たる。

「じゃあ、毎月ついてる妙な手当って……」

「部門長手当」

「…………」

 俺はずっと、門番としての危険手当か何かだと思っていた。

「じゃあ危険手当は?」

「ないわよ」

 咲良があっさり答える。

「……は?」

「異世界転生門勤務に危険手当はないもの」

「いや、おかしいだろ!」

 今日だって門が突破され、結界は崩れかけている。それ以前にも、転生を拒否して暴れる魂や、何故か武器まで再現して暴れようとする奴が来ることだってある。

 それで危険手当なし?

 納得できるわけがない。

 そこで、さらに大事なことを思い出した。

「俺、家族いるんだけど」

「知ってる」

「妻も子どももいる」

「知ってるって」

「家族手当もついてねぇぞ」

 今度は咲良が黙った。

「……申請した?」

「何を?」

「家族手当の申請」

「そんなの聞いてねぇ!」

 咲良まで言葉を失う。

 俺は親父を見た。

「お前、俺を勝手に部門長にしたついでに、その辺の説明全部飛ばしただろ」

「いや、そこまで俺のせいにする?」

「全部お前のせいにしたい気分なんだよ!」

 親父が咲良を見る。

「咲良、何とかしてくれ」

「私に振らないで。手当の件はちゃんと調べるから」

 都合が悪くなった親父は、さっさと中央会議室へ向かって歩き出した。

 絶対あとで捕まえる。

 危険手当、家族手当、そして本人が知らないまま三年間部門長だった件。

 全部だ。

 中央会議室へ入ると、各部門長はすでに長い円卓を囲んでいた。

 俺はいつものように壁際へ向かおうとしたが、咲良に止められる。

「軍釟、そこじゃない」

「何で」

「あんたの席、あるでしょ」

 指差された先には、一つの名札が置かれていた。

『異世界転生部門長 甚爾軍釟』

 三年前から、ここにあったらしい。

 俺だけが知らなかった。