『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』

 周囲のざわめきが止まった。

 親指と中指を合わせる。

 パチン。

 乾いた音が、冥府庁のてっぺんへ響く。

 その瞬間、庁内へ雪崩れ込んでいた魂の動きが一斉に止まり、それぞれの身体が淡い光へ包まれた。

 通常死亡、輪廻転生、蘇生対象、異世界転生、地獄刑執行、その他特殊案件――行き先を失って入り乱れていた魂が瞬時に選別され、本来送られるべき部門へ次々と振り分けられていく。

 同時に、崩壊していた第一冥府門が音を立てながら組み上がり、砕けた柱も壁も、まるで時間そのものが巻き戻ったかのように元の姿へ戻った。

 ひび割れていた第二結界も瞬く間に修復され、その外側には新たな光の膜が幾重にも重なっていく。

 鳴り響いていた警報音が一つずつ消え、地響きも収まり、あれほど騒がしかった冥府庁が嘘のような静寂に包まれた。

 すべてが元へ戻ったことを確認し、俺はゆっくりと腕を下ろした。

 周囲を見れば、各部門長は揃って言葉を失い、咲良ですら珍しく目を見開いている。

 そんな中で、親父だけがものすごく満足そうだった。

「ほらな。お前を解放した方が楽だっただろ?」

 その一言で、俺のこめかみに青筋が浮かぶ。

「だからって勝手に外すなぁぁぁぁ!!」

 怒鳴り声が、静まり返った冥府庁のてっぺんへ響き渡った。