待ってください長谷川くん!

「すごく見やすい見積書と資料ですね!前回だけじゃなくて、過去の分も遡って見てくれたのがわかります!すごいです!こことか……あ…」

「……」


食い気味に話していた自分が恥ずかしくなり、じっと見てくる誠から、視線を逸らした。


「す、すみません…でも、本当に綺麗な資料です…」

「…ありがとうございます」


誠はニコッと笑うと、返却してもらうために、手を伸ばした。
香織もその手に書類を渡したはずが、誠の手からスルリと落ちる。


「あっ、すみません」

「私の方こそ…!」


同時に立ち上がり、屈んで落ちた書類を拾い集めた。
半分を集めた香織は、ページを確認して揃える。

最後の一枚に手を伸ばすと、誠に手を掴まれた。


「!?」

「褒め方、思ってたより可愛いね、センパイ」


小声で囁かれると、手を離されて、最後の一枚を誠が取った。


「ありがとうございます。本木先輩。これは係長に提出でよかったですか?」

「…っ…は、はい…お願いします」

「じゃあ、提出してきますね」


クスッと笑う口元の黒子の艶やかさに目が離せないでいたが、誠が去って行くとハッと我に返る。


『可愛いね』


この言葉が、頭の中すべてを占めると、香織の母は真っ赤になった。
人目を気にしながら、すぐに机に着き、他の書類を見るフリをして熱い顔を隠す。


(ぜっったい、からかってる…!!)


誠の意図を考える香織だが、気持ちに反して、なかなか頬の熱が引いてくれなかった。
ペチペチと頬を叩いていると、誠が戻ってきて席に座った。


「……ぷっ」

「なっ…!わっ………笑わないでください…っ」


目が合った誠がふき出すのを見て、思わず大きな声になりそうなのを抑えて、小声で注意する。
すると、そこへ早川がやってきた。


「本木先輩〜、C社の資料、確認しましたぁ〜」

「あ…そ、そう!了解です!資料はできそうですか?」

「…今してま〜す。あ、長谷川さん!さっきのランチ、デザート美味しかったですよ〜!また行きましょうね〜」

「………機会があれば、ぜひ」


ニコニコと笑う早川に、ニコッと笑顔を見せるとすぐにデスクトップ画面へ顔を向けて、仕事に集中し始める誠。


「そうだ長谷川さん!よかったら連絡先交換しません?本木先輩に聞きづらいことあったら、いつでも」

「…ありがとうございます。でも、すみません…業務のことはメールでお願いします」


誠は早川をチラリと見たあと、すぐにキーボードをカタカタと叩き、一言も話さなくなった。