待ってください長谷川くん!

…ー

カフェテラスに案内される香織は、少し緊張気味に座っていた。


(お…思ってたランチと違う…)


洒落っ気のある料理が運ばれてくると、井本が嬉しそうに笑った。


「実は、本木さんとランチに行きたかったんですよ」

「え…!?」

「いつもお弁当でしょ?だから、たまにはいい物食べてもらいたいなぁって」

(…うん?あれ…?)

「あ、ここ元カノと来たんですけど、パスタが美味しいでしょ?」

「はは…は…おい、しい…です…」


頼んでもいなかった料理なだけに、苦笑いでモグモグと食べる。
パスタがこんなにも固くて塩辛い物と感じる香織は、ひたすらに食べ続けたが、井本のトークショーは終わらない。

ようやく食べ終えて、食後のコーヒーが運ばれてきても続いた。


「あの時の本木さん、すごくかっこよかったです!」

「…そ、そうですか…?」


苦笑いする香織は、簡単な相槌で返していると、井本が手を添えてきた。


「…!?」

「本木さん…自分、心配なんですよ…いつも本木さんひとりじゃないですか…寂しいんじゃないかって…」

「い、いぃ…いやあ~…そ、そんなことはないですよ…?」


引きつる笑顔で答えると、ゆっくりと井本の掌が香織の手全体を包んできた。
一気に背筋にゾワッとした悪寒が走る香織。


「自分、優しくしますよ…」

(今、昼のランチタイムなんですけど!?ナイトタイムじゃないんですけど!?)


タラタラと冷や汗が流れ始める香織は、井本の顔を見れないでいた。
すると、二人の間にトンッと音を立てながら、手が置かれる。


「僕の方が優しいですよ」


声がする方へ顔を上げると、息を切らせる誠がジトッと井本を見ていた。
井本の手から香織の手を奪うと、引っぱるように立ち上がらせた。


「長谷川く、ん!?」

「それじゃあ、本木先輩に教えてもらうことがあるので、失礼しますね」

「ちょ…長谷川く」

「いまどき白昼堂々とセクハラするなんて、社会人として…終わってますよ」


応戦しようと立ち上がる井本に、鋭い視線を向ける誠は、香織を連れてそのまま去った。


誠に手を引かれて歩く香織は、戸惑いつつもその背中を見つめる。


(……あ…れ…)


高身長の誠の一歩は大きく、小走りになる香織は、歩を進めるごとに鼓動が高鳴るのを感じた。
オフィスに入ると、誠が非常階段の方へ向かっているのに気づいた。

階段を上がった香織と誠は、ようやく営業部のある階について立ち止まる。
少しだけ肩で息をする香織に、誠は振り返った。


「…男運なさすぎでしょ」