待ってください長谷川くん!

ニコニコと笑顔のまま伝える誠の言葉に、課長は書類を改めて見直す。


「な、なん…過去資料を見ていなかったとなるのか…!?資料の作成は誰が…!」

「あぁ……名前に“早川”とありましたが…数年前の資料でしたので、前任の方がいらしたのですか?」


香織を含めてオフィスの全員が、早川亜紀へと視線が注がれると、誠の口元にある黒子が艶やかな笑みをこぼした。
書類を持って早川の席に向かった課長は、怒った表情で早川へ問い詰める。


「早川くん、これはどういうことですか?資料作成時は君が引き受けると、私に直接言っただろう」

「わ、私…ちが…本木先輩が…っ」

「この資料作成のときは、本木くんは別チームで動いていたから、関係ありません」

「指導係だったのに、確認してくれませんでした…!」


震える声で課長に返す早川の顔は、青ざめていた。
少し表情を曇らせながら、香織が口を開く。


「…私はチームで別部署にいたので、そもそも早川さんの資料作りは見ていませんよ」

「な…!!」

「は~…そもそも、指導は関係なく、私に直接持ってきてほしいと指示を出さなかったのも悪いな…早川くん、今から会議室までいいかな。それと、皆も昼休憩に入ってください」

「…~~っ…はい…」


ため息をつく課長に続いて、涙目になる早川がオフィスをあとにした。
課長の指示によって、パラパラと昼休憩に入っていく同僚たち。

オフィスのドアが閉まるのを見届けた香織は、前を向いたままの誠に視線を向ける。


「あの…長谷川くん…ありがとう…」

「本木先輩のご指導で資料をしっかりと読ませていただいたので、助かりました!本当にありがとうございます。よかったら、僕とランチしませんか?」

「あ、それはごめんなさい。先約があるので、また今度にしましょう」

「……はい?」


頭を下げる香織の言葉に、笑顔が貼りついたままとなった誠。


「本木さーん!」

「色々と聞きたいこともあるので、あとでまた話しましょう。井本くん、今行きまーす!」

「…は…?」


自分のデスクに戻って鞄を持つと、香織はそのまま井本とオフィスのドアを開けて出ていった。
香織の代わりに、数人の同僚からランチに誘われる誠だったが、にっこりと笑っていただけだった。