待ってください長谷川くん!

エレベーターの降下する音だけが静かに響く中、誠は香織の視線を掴んで離さない。


「ね、答えてよセンパイ。バラさないでって言った僕への仕返し?」

「そそっ、そういう意味では…!なくてぇ…!!あ、あの…!」


ギュッと目を閉じる香織を見て、フッと笑う誠はゆっくりと香織から離れた。


「良かったねセンパイ。時間切れ。また明日ね」


誠の言葉でハッと目を開けて顔を上げると、エレベーターのドアが開いた。
先に降りた誠の背中を見送りながら、赤い顔の香織は何も言えずに、眉をしかめる。


(ほんとになんなの…!?)



…ー

それから数週間が経ち、香織と誠は、他の同僚と共にC社の商談の席にいた。
資料を見ながら丁寧に説明していく香織に、先方も少し表情を明るくした。


「それでは、こちらの資料に続いて、商品の説明を井本の方からさせていただきます。

「はい。こちらの品ですが…ー」


穏便に進んでいたはずの説明が、同僚の井本が口ごもったり噛んだりしたため、聞き取りにくくなってしまっていた。
先方の一人が、堪えきれずに吹き出してしまうと、井本の顔が赤くなり話が止まってしまった。

その様子をニタニタと笑うふき出した先方が口を開く。


「…進めてくれますかね~?くくっ、あぁ、とんだピエロを連れてきてくれましたね。いやぁ~もう少し聞きたいですよ、お話しを」

「これより先は、私が説明させていただきます。ですが、その前に…先ほどの言葉を撤回していただけますか?」

「はい…?」

「………」


資料を閉じた香織が真剣な眼差しで先方を見る一方、誠や井本は様子を伺った。


「不慣れな人を大事な席に連れてくる方が失礼でしょう」

「…懸命に話している相手に対して、そのように思われているご担当者さまがいることが、残念でなりません」

「なんだと…!?」

「失礼、長谷川誠と申しますが、確か渡辺さんでしたよね?先日お会いした…また同じ轍を踏むおつもりですか?」

「誰が……あ……あ…っ」


誠が挙手しながら、香織と言い合っていた担当者をジロッと見る。
すると、渡辺という担当者の顔色が変わり、みるみる委縮していった。


「…当社の井本に、謝罪をお願いしても?」

「も…申し訳…ありません…け、契約の方を…」


ニコッと笑った誠は、お茶を飲んだ。


「結構です。当社からお断りさせていただきます。井本先輩、本木先輩、帰りましょう」