待ってください長谷川くん!

「それって…長谷川くんがしんどくないですか?」


パチンという音を最後に、誠の挙動も止まった。
一瞬、真顔になるものの、すぐに口元を緩ませて手を差し出した。


「…余計なお世話。おかんセンパイ」

「な…!」

「ほら、早く資料くださいよー。まじで帰るのが遅くなりますよー」

「〜〜っ」


言い返せない香織は、最後の資料を誠に渡す。

ようやく完成した資料を見て、少しの達成感と誠への申し訳なさが込み上げてきた香織。
帰宅の準備を終えると、誠に頭を下げた。


「長谷川くん、今日はすみません!指導係なのに、初日から残業に付き合わせてしまって…」

「真面目すぎ。勝手に付き合ったのは僕だし。センパイが謝ることないんじゃない?」

「いや、でも…実際に手伝ってもらって助かったし…ありがとうございます…が、合ってるのかな」

「……さぁ?そもそも、センパイのそのお人好し過ぎるところがなければ、残業しなくて済んだのにね?」


鞄を持って、オフィスのドアに向かう誠の言葉が、香織にグサっと刺さる。
誠のあとに続いて行くと、ドアを開けて先に出るよう促される香織は、ふいに誠を見上げた。


「…当てようか?わぁ、女の子扱いされてる~でしょ?」

「ち…!違います…!!ありがとうとは思いましたっ!」


顔を赤くして先に出ると、クスクスと笑う誠が電気を消して、最後に出た。


(なんでわかるの…!?)


エレベーターに向かって歩くのも並んで歩いてくれる誠に、香織の視線がチラッと移る。
二人はエレベーターを待つため、立ち止まった。


「あの…長谷川くんは…どうして営業部に…?」

「最初は社長…父から行くよう言われてただけで…今はいいかなとは思ってる。面白いおかんがいるから」

「ちょ!!私も黙ってるんだから、長谷川くんも黙っててください!」


ちょうどエレベーターがやってきてドアが開くと、またもや先を香織に譲り、後から乗った誠は、ボタンを押していた香織の顔の近くに手を伸ばしてトンッと壁に手をついた。


「それ、僕への仕返し?」

「へ、ぁ…!?」


真っ赤になる香織と、無表情のままジトッと見つめる誠の二人を乗せて、エレベーターのドアが閉まる。