結構飲んだよね、なんて言うわりに、優依の顔色はいつもどおりだった。そもそも、酒が強い。
「何飲んだんだよ?」
「一杯目はギネスをハーフパイントで。そのあとは、白ワイン、最後にウォッカのオレンジジュース割り」
「つまりは、スクリュードライバーか」
「あ、そっか。ソルティードッグってどんなのだっけ?」
「ウォッカとグレープフルーツジュース。で、グラスの淵に塩」
「そうだった、そうだった。憧くんは? 今日は何飲んだの?」
「オレ? ずっとギネスだよ。チャンポンすると、悪酔いするし、明日に残るのイヤだから」
「確かに。せっかくの土曜だもんね」
あっという間にSpringfield Avenueまで来てしまった。この通りの真ん中あたりに、優依のステイ先がある。
意外とすぐだったな、となんとなくがっかりしてしまう。シン、と静まり返った夜道を並んで歩きながら、傍らからずっといつもの青りんごみたいな匂いがふわふわと漂ってくる。優依がつけているこの香水が、実は結構好きだったりする。中身のヤバさとはまったく似合わないが、外側のかわいらしさには実にぴったりな、清純そのものの香り。
「……憧くん、明日、何か予定ある?」
家の前で、唐突に訊かれた。どういう意味だ? いや、言葉どおりの世間話か?
っていうか、深読みする必要ないだろ、と自分にツッコミを入れる。そもそも、この女のこと、好きでもなんでもないはずだろ、と。
黙っていると、すうっと優依の目が細くなる。
「あるんだー。デート?」
「……そんなわけないだろ」
「そっか……じゃあ」
一瞬、何かを期待して身構えたオレに、優依はにっこり手を振った。
「送ってくれてありがと。じゃ……」
ぶわっとわけのわからない感情がオレの中で膨らんだ。
腹立たしさか、落胆か、困惑か。そのどれもが当てはまるようであり、3つを足してもまだ拾いきれないもやもやが竜巻のように囂々と音を立てて捻じれ、胸を突き破らんばかりに吹き荒れている。息をするのも苦しいくらいだった。こんな風になったことは、生まれて初めてだ。
知らぬ間に、優依の細い手首を掴み、オレは通りの突き当りへと歩き出していた。
「……憧くん?」
意外なことにさして抗いもせずあっさりついてくる優依の手を引き、柵の前へと進み出る。行き止まりにも見えるそこが、すぐ近くにある大きな公園へつながっていることをオレは知っていた。簡単な留め金を外して柵を開け、有無を言わさず優依を向こう側へと促した。
返事もせず強引に奥へと進み続けているのに、優依はもう何も言わなかった。ただ、オレに手を掴まれるままついてくる。
アレクサンドラパークという大きな公園で、野外劇場も併設しているそこは、昼間は散歩するのに実にいい場所だ。学校の行事で何度かピクニックに来たこともあるし、ひとりで散歩したこともある。でも、夜に訪れるのは初めてだ。
日付の変わる時分で、ひと気はなかった。そもそも、照明もすでに消されて辺りは真っ暗だ。少しだけ欠けた大きな月が冴え冴えと白い光を放っていたのを覚えている。
しばらく公園内を歩いて、ゆるい坂になっている芝生に腰かけた。突っ立ったまま困惑している様子の優依のために、羽織っていたシャツを脱いで芝生の上に敷いてやった。
ありがと、と小さくつぶやいてこわごわと腰を下ろした優依を、オレはすぐに引き寄せた。気の利いた口説き文句も何もなく、ただせっかちに身体が動いていた。力の加減もできずにきつく抱きしめ、そのまま強引に唇を重ねる。一瞬こわばって小さく痙攣した優依の身体は、ほどなく柔らかく弛緩した。
もし拒絶されても、やめられる自信はなかったし、やめるつもりもなかった。そのくらい、欲しくて欲しくてたまらなかった。
いや、欲しい、というより、めちゃくちゃにして自分だけのものにしてしまいたかった。
今すぐに、今だけでもいい。
明日のことなんて、どうでもいい。
とにかく、今。
この瞬間に、優依のすべてがどうしても欲しかった。
「何飲んだんだよ?」
「一杯目はギネスをハーフパイントで。そのあとは、白ワイン、最後にウォッカのオレンジジュース割り」
「つまりは、スクリュードライバーか」
「あ、そっか。ソルティードッグってどんなのだっけ?」
「ウォッカとグレープフルーツジュース。で、グラスの淵に塩」
「そうだった、そうだった。憧くんは? 今日は何飲んだの?」
「オレ? ずっとギネスだよ。チャンポンすると、悪酔いするし、明日に残るのイヤだから」
「確かに。せっかくの土曜だもんね」
あっという間にSpringfield Avenueまで来てしまった。この通りの真ん中あたりに、優依のステイ先がある。
意外とすぐだったな、となんとなくがっかりしてしまう。シン、と静まり返った夜道を並んで歩きながら、傍らからずっといつもの青りんごみたいな匂いがふわふわと漂ってくる。優依がつけているこの香水が、実は結構好きだったりする。中身のヤバさとはまったく似合わないが、外側のかわいらしさには実にぴったりな、清純そのものの香り。
「……憧くん、明日、何か予定ある?」
家の前で、唐突に訊かれた。どういう意味だ? いや、言葉どおりの世間話か?
っていうか、深読みする必要ないだろ、と自分にツッコミを入れる。そもそも、この女のこと、好きでもなんでもないはずだろ、と。
黙っていると、すうっと優依の目が細くなる。
「あるんだー。デート?」
「……そんなわけないだろ」
「そっか……じゃあ」
一瞬、何かを期待して身構えたオレに、優依はにっこり手を振った。
「送ってくれてありがと。じゃ……」
ぶわっとわけのわからない感情がオレの中で膨らんだ。
腹立たしさか、落胆か、困惑か。そのどれもが当てはまるようであり、3つを足してもまだ拾いきれないもやもやが竜巻のように囂々と音を立てて捻じれ、胸を突き破らんばかりに吹き荒れている。息をするのも苦しいくらいだった。こんな風になったことは、生まれて初めてだ。
知らぬ間に、優依の細い手首を掴み、オレは通りの突き当りへと歩き出していた。
「……憧くん?」
意外なことにさして抗いもせずあっさりついてくる優依の手を引き、柵の前へと進み出る。行き止まりにも見えるそこが、すぐ近くにある大きな公園へつながっていることをオレは知っていた。簡単な留め金を外して柵を開け、有無を言わさず優依を向こう側へと促した。
返事もせず強引に奥へと進み続けているのに、優依はもう何も言わなかった。ただ、オレに手を掴まれるままついてくる。
アレクサンドラパークという大きな公園で、野外劇場も併設しているそこは、昼間は散歩するのに実にいい場所だ。学校の行事で何度かピクニックに来たこともあるし、ひとりで散歩したこともある。でも、夜に訪れるのは初めてだ。
日付の変わる時分で、ひと気はなかった。そもそも、照明もすでに消されて辺りは真っ暗だ。少しだけ欠けた大きな月が冴え冴えと白い光を放っていたのを覚えている。
しばらく公園内を歩いて、ゆるい坂になっている芝生に腰かけた。突っ立ったまま困惑している様子の優依のために、羽織っていたシャツを脱いで芝生の上に敷いてやった。
ありがと、と小さくつぶやいてこわごわと腰を下ろした優依を、オレはすぐに引き寄せた。気の利いた口説き文句も何もなく、ただせっかちに身体が動いていた。力の加減もできずにきつく抱きしめ、そのまま強引に唇を重ねる。一瞬こわばって小さく痙攣した優依の身体は、ほどなく柔らかく弛緩した。
もし拒絶されても、やめられる自信はなかったし、やめるつもりもなかった。そのくらい、欲しくて欲しくてたまらなかった。
いや、欲しい、というより、めちゃくちゃにして自分だけのものにしてしまいたかった。
今すぐに、今だけでもいい。
明日のことなんて、どうでもいい。
とにかく、今。
この瞬間に、優依のすべてがどうしても欲しかった。

