マヌエルと少し話したり、マルティーノとギューベンのかみ合わない会話に爆笑するクラスメイトたちを見るともなしに眺めているうちに、あっという間に時間は過ぎていく。
向こうのテーブルからたまにヨンミンがやってきてブリジッタにちょっかいをかけたり、彼のガールフレンドのエレナがすっ飛んできてものすごい形相でヨンミンを向こうのテーブルへ連れ戻したり、そんな茶番も繰り広げられる。
一度だけ、優依もこっちにやってきて浩美と綾乃に何か話しかけていた。オレと目が合うと、ニコッと綺麗に微笑みかけてくるから、なんだか拍子抜けした。つくづくわけわかんない女だ。
いったん席を立ってトイレに行くと、ノビーと出くわした。阿川信人。ノビーはニックネームだ。確か、優依のホームステイ先に、以前いたらしい。
優依が来ることになり、別の場所に移らされた、とぼやいていた。その縁で優依とはわりと仲が良さげに見えたけれど、近頃はそうでもないらしい。
入り口のすぐ横にいたノビーは、入って来たオレを見てわかりやすく挙動不審になった。見れば、目の前にあるのは自販機――まあ、イギリスではよくある「大人向け自販機」だ。コンドームを売っている。
「……ってか、なに買ってんだよ?」
「このあとデートなの」
開き直ったように言われて、笑ってしまった。確か、ノビーはフィンランドから来ているイラと付き合っている。上から二番目のクラスPre-Advancedに在籍する、同じバンドのメンバーだとも言っていた。
「Boots(イギリスのドラッグストア)かどっかで、昼間にちゃんと買っとけばよかっただろ? こんなとこの、信用できんの?」
「平気だったよ。薄くてなかなかいい感じ」
「買ったことあんのかよ」
心底呆れてため息をついていると、ノビ−はさっそく出てきたコンドームの箱を開けて、一つ取り出した。
「……見られたから、しゃーねーな。一個やるよ」
「いらねーよ。そんな相手もいないし」
「またまたー」
ノビーは無理やりそれをオレのポケットにねじ込みながら、薄く笑った。
「優依ちゃん、お前のこと好きだと思うけどなー」
不覚にも、ドキッとした。返事が一瞬遅れると「お互い、グッドラーック」なんて酒臭い息で言い放って、ノビーはトイレから出て行った。
トイレから戻ってほどなく閉店時間になり、解散になった。
誠二はさっさと一人で帰ってしまったし、浩美と綾乃も連れだって坂を下りてバス停へと向かう後姿が見える。
マルティーノとギューベンは、相変わらずまるでケンカしているようにも聞こえる大きな声で話している。そのまま、へたくそな英語でドッジボールみたいな会話を繰り広げながら、ステイ先へと――ふたりは同じ家にホームステイしている――帰っていった。
見れば、クリスティアン――Advancedクラスにいる紳士な物腰のドイツ人と優依が何か話していた。
「Do you wanna me to take you home?」
「Thanks, but no thanks. He lives close to me」
(家まで送ろうか?)
(ありがとう、でも平気。《《彼》》、うちの近くに住んでるから)
は? と思うまでもなく、"He"はオレのことだ。
わかった、じゃ、また来週、と笑顔で去っていくクリスティアンに手を振ってから、優依はオレに向き直った。
「じゃ、帰ろ、憧くん」
向こうのテーブルからたまにヨンミンがやってきてブリジッタにちょっかいをかけたり、彼のガールフレンドのエレナがすっ飛んできてものすごい形相でヨンミンを向こうのテーブルへ連れ戻したり、そんな茶番も繰り広げられる。
一度だけ、優依もこっちにやってきて浩美と綾乃に何か話しかけていた。オレと目が合うと、ニコッと綺麗に微笑みかけてくるから、なんだか拍子抜けした。つくづくわけわかんない女だ。
いったん席を立ってトイレに行くと、ノビーと出くわした。阿川信人。ノビーはニックネームだ。確か、優依のホームステイ先に、以前いたらしい。
優依が来ることになり、別の場所に移らされた、とぼやいていた。その縁で優依とはわりと仲が良さげに見えたけれど、近頃はそうでもないらしい。
入り口のすぐ横にいたノビーは、入って来たオレを見てわかりやすく挙動不審になった。見れば、目の前にあるのは自販機――まあ、イギリスではよくある「大人向け自販機」だ。コンドームを売っている。
「……ってか、なに買ってんだよ?」
「このあとデートなの」
開き直ったように言われて、笑ってしまった。確か、ノビーはフィンランドから来ているイラと付き合っている。上から二番目のクラスPre-Advancedに在籍する、同じバンドのメンバーだとも言っていた。
「Boots(イギリスのドラッグストア)かどっかで、昼間にちゃんと買っとけばよかっただろ? こんなとこの、信用できんの?」
「平気だったよ。薄くてなかなかいい感じ」
「買ったことあんのかよ」
心底呆れてため息をついていると、ノビ−はさっそく出てきたコンドームの箱を開けて、一つ取り出した。
「……見られたから、しゃーねーな。一個やるよ」
「いらねーよ。そんな相手もいないし」
「またまたー」
ノビーは無理やりそれをオレのポケットにねじ込みながら、薄く笑った。
「優依ちゃん、お前のこと好きだと思うけどなー」
不覚にも、ドキッとした。返事が一瞬遅れると「お互い、グッドラーック」なんて酒臭い息で言い放って、ノビーはトイレから出て行った。
トイレから戻ってほどなく閉店時間になり、解散になった。
誠二はさっさと一人で帰ってしまったし、浩美と綾乃も連れだって坂を下りてバス停へと向かう後姿が見える。
マルティーノとギューベンは、相変わらずまるでケンカしているようにも聞こえる大きな声で話している。そのまま、へたくそな英語でドッジボールみたいな会話を繰り広げながら、ステイ先へと――ふたりは同じ家にホームステイしている――帰っていった。
見れば、クリスティアン――Advancedクラスにいる紳士な物腰のドイツ人と優依が何か話していた。
「Do you wanna me to take you home?」
「Thanks, but no thanks. He lives close to me」
(家まで送ろうか?)
(ありがとう、でも平気。《《彼》》、うちの近くに住んでるから)
は? と思うまでもなく、"He"はオレのことだ。
わかった、じゃ、また来週、と笑顔で去っていくクリスティアンに手を振ってから、優依はオレに向き直った。
「じゃ、帰ろ、憧くん」

