あれは確か、6月初め。
優依が入学してから、1か月ほど経った頃だった。
その日は金曜日で、授業のあとでいつものようにみんなでGreenwoodに行こうか、という話になっていた。ラッセルヒルにある行きつけのパブだ。
いったんそれぞれホームステイ先や寮へと戻り、夕食を食べたあと8時にパブに集まった。基本的に門限はなく、家の鍵をもらっているから何時に帰っても問題はない。そもそも、オレのステイ先は看護師をしているシングルマザーと、専門学校に通う大人しい息子、という家族だったから、干渉されたりなんかは一切なかった。
クレイン、という名の息子はややシャイではあるものの、なかなかオレとは気が合う。ピアノが上手で、音楽に詳しい。
そのクレインに「何時くらいに帰るの?」なんてたまたま訊かれて「……遅くなるかもしれない」と反射的に答えてしまったのを、今も覚えている。
「Goin' on a date with your girlfriend?」
「No way! I'm gonna Greenwood with classmates」
「Is that cute Japanese girl also coming? Eh……Yui?」
あのかわいい日本人のコも来る? えーと、ユイだっけ?
優依と二人で歩いているところは、何度かクレインに見つかっていた。一度うちに連れてきて、ホストマザーにも紹介してあるから、たまに冗談でこうして冷やかされてしまうのだった。
「……She may come, but I feel nothing special toward her」
来るかもしれないけど、彼女に特別な感情はまったくない。
少しだけ、嘘かもな、とこっそり思う。nothingというのはさすがに。とはいえ、たまたまステイ先が近いから一緒に帰ることが多いだけ、というのはあながち嘘ではない。デートでもなんでもない。
なのにクレインから「Good luck」と意味ありげにウィンクなんかされてしまった。実に複雑な気分だ。
『好きなこと、好きなだけ、したいこと、したいだけ。せっかく異国の地にいるんだもの、日本じゃ絶対できないこと、やりまくるの』
そもそも、あの日以来、オレはうっすら怖くなっていたのだった。
優依を、というより、あの言葉に嫌悪よりも底知れない魅力を感じてしまったオレ自身を、と言った方が正しいのかもしれない。
優依が入学してから、1か月ほど経った頃だった。
その日は金曜日で、授業のあとでいつものようにみんなでGreenwoodに行こうか、という話になっていた。ラッセルヒルにある行きつけのパブだ。
いったんそれぞれホームステイ先や寮へと戻り、夕食を食べたあと8時にパブに集まった。基本的に門限はなく、家の鍵をもらっているから何時に帰っても問題はない。そもそも、オレのステイ先は看護師をしているシングルマザーと、専門学校に通う大人しい息子、という家族だったから、干渉されたりなんかは一切なかった。
クレイン、という名の息子はややシャイではあるものの、なかなかオレとは気が合う。ピアノが上手で、音楽に詳しい。
そのクレインに「何時くらいに帰るの?」なんてたまたま訊かれて「……遅くなるかもしれない」と反射的に答えてしまったのを、今も覚えている。
「Goin' on a date with your girlfriend?」
「No way! I'm gonna Greenwood with classmates」
「Is that cute Japanese girl also coming? Eh……Yui?」
あのかわいい日本人のコも来る? えーと、ユイだっけ?
優依と二人で歩いているところは、何度かクレインに見つかっていた。一度うちに連れてきて、ホストマザーにも紹介してあるから、たまに冗談でこうして冷やかされてしまうのだった。
「……She may come, but I feel nothing special toward her」
来るかもしれないけど、彼女に特別な感情はまったくない。
少しだけ、嘘かもな、とこっそり思う。nothingというのはさすがに。とはいえ、たまたまステイ先が近いから一緒に帰ることが多いだけ、というのはあながち嘘ではない。デートでもなんでもない。
なのにクレインから「Good luck」と意味ありげにウィンクなんかされてしまった。実に複雑な気分だ。
『好きなこと、好きなだけ、したいこと、したいだけ。せっかく異国の地にいるんだもの、日本じゃ絶対できないこと、やりまくるの』
そもそも、あの日以来、オレはうっすら怖くなっていたのだった。
優依を、というより、あの言葉に嫌悪よりも底知れない魅力を感じてしまったオレ自身を、と言った方が正しいのかもしれない。

