■ソファを飛び越えて


いつからこいつのこと好きって思ったんだろう。


たぶん、明確なキッカケはなかった。それは白い水の中に一滴ずつ黒い墨汁を垂らすように徐々に徐々に染みわたっていた。


気が付くとそれは『好き』の色をしていた。黒が『好き』の色だったらやはり私の恋愛感はあまり良いものではないのだろう。もっとピンクとか赤とか。そんな色がきっと合う。けれどやっぱり私の中の色は黒で。それを塗り替えるのはあまりにも難しい。


恋をして、想いを伝えたら―――?私たちのこの今まで限りなく黒に近かったグレーが真っ黒に染め上げられたら?私たちの関係が崩れちゃう。それはフラれるよりもっと辛いことだと思った。どんな曖昧な関係でもいい、ただ私は―――九条と居たかった。


九条の手が再び私の頬に伸びてきて、ビクリと肩が揺れた。





「仁科、お前が欲しい」




再び九条の顔が近づいてきても、今度は顔を逸らすことも手でその唇を塞ぐこともしなかった。


ただ、ただ受け入れるだけ。


こんな風に―――誰かにまっすぐに求められたの、初めてな気がする。


こんなのダメだよ、流されてるだけじゃん。


たまたま九条が私の誕生日を覚えててくれて、それがたまたま30の誕生日で、たまたま……


嗚呼、色んな偶然を正当化しようとしても、とろけるように甘い口づけと熱い息遣いの攻撃に考えが全くまとまらない。


ダメ―――……だよ。