九条とは中学二年と三年クラスが一緒だった。いっとき『大嫌い』発言をしてからしばらく九条は私に近づいてこなかったが、ひょんな所でまた距離が縮まった。それは二年の冬、私が当時の親友の朱里と私と同じクラス委員長をしていた嵯峨野くんと三人でカラオケボックスに行こうとなったとき、朱里に九条を誘って欲しいと言われた。当時の朱里も九条が好きだったのだ。
何であの男がモテるのだろう。ただチャラいだけじゃん。
九条のことは嫌いだけど親友の恋は応援してあげたい。それに私も男子が嫌いとは言え一緒にクラス委員をしていた真面目で爽やかな嵯峨野くんにに初めて真剣に告白をされたばかりだったから、そしてその彼が私の”嫌い”部分を刺激してこなかったから、彼が『カラオケ俺もいい?』と言われたとき断れなかったから。そのメンバーじゃ微妙だと言うことで朱里が好きな九条を誘ったんだっけ。
あの時何の歌を歌って何の会話をしたのか今はあんまり覚えていない。
でもあの時から九条は歌が上手かった。
勉強もそこそこ出来て運動神経は抜群。クラスでは彼氏にしたい男子№1。かっこいいし背は高いし面白いし場の空気を作るのがうまいし、何の不足もない。なのに何故か私は好きになれなかった。
見方が変わったのはそのカラオケボックスで事件があったからだ。
事件―――と言っても大層なものではない。
私が少し前にフった当時サッカー部のエースだった(これまたチャラい)先輩と運が悪いことにその場でバッタリ会ってしまったから。フラれた腹いせか、彼は私のことを罵倒した。そのとき助けてくれたのは九条だった。
確かそこから少しずつ関係が変わってきた気が。
「なぁ仁科~、これめっちゃウケね?」今はリビングのソファでゴールデンタイムのお笑いバトルで芸人たちが芸を披露している最中、九条がある漫才コンビのネタを見ながらビールを缶のまま飲みながらテレビを指さし。
「んー…あんま見てなかった」私も九条と同じメーカーのビールに口をつけると
「なん、考え事?悩み事?悩んでいることがあれば何でもいいたまえ」九条が冗談ぽく言いふいに隣に座った私との距離を縮める。
中学のときからの相変わらずの距離感の詰め方。
近いっつうの。
「あんたいつからカウンセラーに転職したのよ」軽くでこぴんをしてやると、九条は大げさに痛がったフリをしてソファの背もたれに背を預ける。
「これ、この肉じゃがマジでうまいね。仁科の料理ってやっぱサイコーだわ」
とローテーブルに置かれた皿に盛りつけられた肉じゃがに箸を伸ばす九条は相変わらずマイペース。一日前に作った肉じゃがは確かに味がしみ込んでいて作り立てのときより味がいいかもしれないけれど。
男の心を掴むには胃袋から、なんて一昔前の話。それでも九条は私が作った料理をどれも美味しそうに食べてくれる。
「お前、いい嫁さんになるよ」
「んー」
曖昧に返事をしてビールを飲もうとして、その手がふと止まった。



