―――分からない、九条が分からない。
そう言えば私、九条と出逢ったのは中二の春だったけど、あのとき九条のこと大嫌いだった。当時の私の家は都心から少し離れた場所の、それでもど田舎と言うわけではなかったが、都内から引っ越してきたばかりの、当時も変わらずかっこいいと女子から絶大の人気を一瞬にして集めた九条。
嫌い、な理由は特になかった。
男嫌い。
だったのだ私は。ちょうど実の父親の一周忌が終わったばかりの頃。父親がそうであったからか、歳が全然違う男子ですら嫌悪感を抱いていた。
なのに九条は何故か私に纏わりついてきた。気づくと、当たり前のように傍にいた。そしていつも私は女子からやっかみの目で見られる。だから余計に九条のことが嫌いになり、負のループそのものだった。
あの時もそうだった。
『仁科ってハーフなの?』突如九条が言い出した。
『違う。クォーター。ママのママがアメリカ人なの』そっけなく言った。そう言えば私の従姉弟もクォーターになるけどこっちもかなり可愛い顔してたな。片目だけ色が違って……。とぼんやり考えながらもこれ以上話しかけないでほしい。ただでさえ九条はクラスは勿論クラス外や女の先輩から人気者だったから。またも変なやっかみを受けるのもゴメンだ。
『ふぅん。きれいな髪だね』
九条がいきなり立ち上がり、あたしの髪の先に触れる。
あの時の私は息が止まる程びっくりした。
きれいな髪とは良く言われるけど、まさか九条に言われるとは思ってもみなかったから。
『何かいい匂いもするし』
九条が何の前触れもなくあたしの髪を自分の鼻に近づける。そんなこと、クラスの男子にもされたことないし、幼いころ父親に髪を撫でてもらった記憶ですらない私には十分刺激的なものだった。
ドキンッ!
あの時、私の心臓が大きく跳ねあがったっけ。
わけも分からず緊張したが、その反面どんどん気持ちが冷めていった。
『触らないで!!』
私は九条の手を乱暴に払った。
周りの男子たちがびっくりして目を丸くしている。
私の声が思った以上に大きかったのか、クラスメイトたちがそれぞれ手を休めてこちらを見ていた。
それでも私は続けた。
止まらなかった。
『私、あんたみたいな自意識過剰なバカ男大嫌いなの!!』
あんな出来事があったって言うのに、今は私のマンションでビールを飲みながら私の作り置きおかずをつまみにテレビを見てくだらないお笑い番組を見てゲラゲラ笑っている。
分からない―――



