「何食べに行く?」と運転中の九条に声を掛ける。まるで恋人同士の会話の糸口のようにも思える。が、再三言うが私たちはそう言う仲ではない。
こいつと外食するときはファミレスもあれば大衆居酒屋なこともある、たまに値段が想像できないぐらいの高い店も連れて行ってくれる。客の誰かと行ったのか、それとも事前にリサーチ済なのか、想像したところで聞いたことは無い。
けれど
「今日はお前んちがいいな~」
九条はにこやかに笑って私の方に顔を向ける。そして私のゆるやかに巻いた髪の先を手に取り
「雨の匂い」と鼻先に毛先を持っていく。私は慌てて前髪を直した。慌ててからボサボサだろう。
「でもいい香り」
卑怯だよ、そんな顔してそんなこと言われたら断れないじゃん。
「九条だって雨の匂いする」と髪の先を奪い返すと、ラフにセットされた黒い髪を指さし。
「え?そっかぁ?」
嘘、だよ。見た目より広いこの広い車内には―――九条が愛用している爽やかな香水の香りでいっぱいだ。
九条が香水を使い始めたのはいつなのかはっきりと覚えていない。けれどいつの間にかそれは当たり前のようにこいつの一部になっていて、爽やかさの中にあるほんの甘い何かの香りに溺れそうになる。
あー、やっぱ私、間違いなくママの子だ。
別に、九条が家に来ることは初めてのことじゃない。私のマンションでお酒を飲んでそのまま泊まっていくこともある。けれど誤解しないで欲しい。私たちは今の今まで肉体関係になったことが一度もない。
私たちの関係はただの腐れ縁の同級生。それ以上でもそれ以下でもない。
「いいけど、作り置きおかずあんまないんだよね。スーパー行って総菜買うか」とぼんやりと考えていると
「じゃぁ、テキトーにつまみと酒、コンビニで買ってすませよーぜ。仁科の作り置きおかず食いてー。腹減った」
「あのさー、そういうこと他の女の子にも言ってるんじゃないよね?勘違いしちゃうよ?女は」
「は?言わねーし。勘違いされるから」九条がちょっと唇を尖らせる。その横顔が方々で光るテールランプの赤い色を反射させていて、まるでステンドグラスを思わせた。そのステンドグラスは真剣そのもの。
それって、私は勘違いしてもいいって―――こと?
分からない。九条が分からない。
てか今の発言ふつーに他の女の子に失礼よね。
私のマンションの最寄のコンビニで籠をぶら下げながら鼻歌なんか歌いながら鮭とばとかを籠にぽいと入れている九条の横顔をちらりと盗み見見た。
だしぬけに
「お前って顔に似合わず乾きもの好きだったよな、ビーフジャーキーも食う?」見てたのがバレた?慌てて顔を戻し
「顔に似合わずだけ余分だよ。じゃぁ私はどんな顔してるんだよ」と慌てて顔を戻し、表情を歪めながら何でもないような素振りで煮うずらの卵を籠に入れる。
「あー、何かプリンとかシュークリームとか?似合いそうじゃん?」
そんな女子的アイテム……好きだけど、好きなこと覚えててくれたんだ。
「やっだー、俺の好きなメーカーのビールがないじゃない、ここ」とおネエ口調で言って九条は頬に手を当て、私はほんのちょっとした緊張がほぐれていくのが分かった。
「違うのでいいでしょ、我慢しな」と、その緊張を誤魔化す為、他愛のないやり取りをしているときだった。
コンビニに居た若い女の子の客二人組が「ねー、あの人超かっこよくない!」と九条の方をちらちら。
「ヤッバ!めっちゃタイプ!」二人の女性客……恐らく20代前半のOL…こちらも仕事帰りだと思われる二人組が目をハートにして九条を見ている。
やっぱり九条って
イイ男―――?



