湊は仕事帰り、海辺の小屋に居た。最近はいつもここに入り浸っている。
窓を開けているとはいえ、夏の蒸した小屋は暑い。
そろそろクーラーでも取り付けようか考えていたところだった。
ここは、湊が自分を自由に表現できる唯一の場所だ。
父親の忘形見でもあり、大切に遺したい。
椅子に座りピアノに触れる。
今日は月の光が穏やかにピアノを照らしている。
電気は付けなくても充分弾けるだろう。
別に節電しているわけではないが、この幻想的な光の中で弾くのが好きだ。
長袖を軽く捲って、呼吸を整え、鍵盤に指を這わせる。ゆっくりと指に体重を掛けていく。
そしてピアノを奏でる。
華やかな音楽よりも静かでゆったりとした、切なげな旋律のほうが自分には合っている。
この甘美で物悲しげな旋律を作った人は、どんな想いで作曲したのだろう。
しばらく、ゆったりとした贅沢な時間が流れていく。
しかし…暑い…。
ピアノを弾くには見た目より体力が要る。
汗が滴り、肌に服が張り付いてきて不快だ。
集中力がもたない。
もう、帰ろうかな…。
そう思っていた時だった。
玄関の方で扉を開く音がした。
…誰かいる?
湊は演奏をやめて振り向く。
男女3人が立っていた。
その瞬間、悲鳴が聞こえ、走って林の方に消えていく2人の人影。
バターン!!
そしてもう1人はたった今、派手な音を立てて倒れた。
驚いた湊はすぐに駆け寄った。
見たことのある人物だった。
日向の姉、小春だった。
「大丈夫か!?」
え…
なんでこんな所に、日向の姉が!?
しかしこんな夜にこの小屋で、人を見て叫んで逃げて行ったとは…失礼にも程がある。
コイツらさては…
「まさか肝試しでもしてたのか?」
と目を細めて湊が問う。
観念した小春が正座し、バツが悪そうに話す。
「…そうです。勝手に覗いてしまい、すみませんでした…まさか汐見先生だったとは思わず…。」
アホなことを。呆れた湊は首を振り、腕を組む。
ズイ、と小春の前に身を乗り出し、含み笑いをしながら言った。
「ふふ。残念だったな。幽霊じゃなくて。」
ウッとなった小春は重ねて小さくすみません…と謝る。
最初女だと思いました、なんて口が裂けても言えない…。
「頭を打ってたようだが、大丈夫か?」
と続ける湊。
小春はうーん、と頭をさすりながら打ったところを確認する。少したんこぶになっている程度だ。
そんなに強く打ったわけではなさそうだ。
「すみません。たぶん大丈夫です。」
目の前の長髪イケメンは腕組みしたまま続ける。
「だいたい、深夜徘徊だぞ。女の子なんだからもっと気を使え。親御さんも心配するだろう。」
フン。もう二十歳です。これだから教師は…などと不貞腐れて言える雰囲気でもないため、小春は言葉を飲み込む。
ふと汐見先生の背後にあるピアノに目が留まった。
潮風に揺れるカーテンから注がれる月の光。
照らされたピアノ。
すごく幻想的だ。この雰囲気が私は好きだ。
こんなところでピアノを黒髪イケメンが弾くとさぞ絵になるだろう。
小春は率直な疑問をぶつけた。
「先生はいつからここでピアノを弾いてるんですか。」
ピアノを見ながら湊は続けた。
「本当につい最近からだ。忙しくて来れない日もあったけど…」
湊は視線を感じて小春を見る。
静かに目を輝かせてコチラを見ている。
「…なんだよ」
「先生。なんか弾いてみてもらえることって…」
おずおずと申し訳なさそうに言う小春。
目の輝きは隠しきれてないが。
「…まあ、少しだけなら…」
なんか弾いてって言われても…
前に小春を救助して中途半端になっていた曲を思い出した。
歌うのは若干気まずい。
とりあえず弾くだけ弾いて満足して帰ってもらおう。
湊はピアノの前に座り、あの歌を弾いた。
窓を開けているとはいえ、夏の蒸した小屋は暑い。
そろそろクーラーでも取り付けようか考えていたところだった。
ここは、湊が自分を自由に表現できる唯一の場所だ。
父親の忘形見でもあり、大切に遺したい。
椅子に座りピアノに触れる。
今日は月の光が穏やかにピアノを照らしている。
電気は付けなくても充分弾けるだろう。
別に節電しているわけではないが、この幻想的な光の中で弾くのが好きだ。
長袖を軽く捲って、呼吸を整え、鍵盤に指を這わせる。ゆっくりと指に体重を掛けていく。
そしてピアノを奏でる。
華やかな音楽よりも静かでゆったりとした、切なげな旋律のほうが自分には合っている。
この甘美で物悲しげな旋律を作った人は、どんな想いで作曲したのだろう。
しばらく、ゆったりとした贅沢な時間が流れていく。
しかし…暑い…。
ピアノを弾くには見た目より体力が要る。
汗が滴り、肌に服が張り付いてきて不快だ。
集中力がもたない。
もう、帰ろうかな…。
そう思っていた時だった。
玄関の方で扉を開く音がした。
…誰かいる?
湊は演奏をやめて振り向く。
男女3人が立っていた。
その瞬間、悲鳴が聞こえ、走って林の方に消えていく2人の人影。
バターン!!
そしてもう1人はたった今、派手な音を立てて倒れた。
驚いた湊はすぐに駆け寄った。
見たことのある人物だった。
日向の姉、小春だった。
「大丈夫か!?」
え…
なんでこんな所に、日向の姉が!?
しかしこんな夜にこの小屋で、人を見て叫んで逃げて行ったとは…失礼にも程がある。
コイツらさては…
「まさか肝試しでもしてたのか?」
と目を細めて湊が問う。
観念した小春が正座し、バツが悪そうに話す。
「…そうです。勝手に覗いてしまい、すみませんでした…まさか汐見先生だったとは思わず…。」
アホなことを。呆れた湊は首を振り、腕を組む。
ズイ、と小春の前に身を乗り出し、含み笑いをしながら言った。
「ふふ。残念だったな。幽霊じゃなくて。」
ウッとなった小春は重ねて小さくすみません…と謝る。
最初女だと思いました、なんて口が裂けても言えない…。
「頭を打ってたようだが、大丈夫か?」
と続ける湊。
小春はうーん、と頭をさすりながら打ったところを確認する。少したんこぶになっている程度だ。
そんなに強く打ったわけではなさそうだ。
「すみません。たぶん大丈夫です。」
目の前の長髪イケメンは腕組みしたまま続ける。
「だいたい、深夜徘徊だぞ。女の子なんだからもっと気を使え。親御さんも心配するだろう。」
フン。もう二十歳です。これだから教師は…などと不貞腐れて言える雰囲気でもないため、小春は言葉を飲み込む。
ふと汐見先生の背後にあるピアノに目が留まった。
潮風に揺れるカーテンから注がれる月の光。
照らされたピアノ。
すごく幻想的だ。この雰囲気が私は好きだ。
こんなところでピアノを黒髪イケメンが弾くとさぞ絵になるだろう。
小春は率直な疑問をぶつけた。
「先生はいつからここでピアノを弾いてるんですか。」
ピアノを見ながら湊は続けた。
「本当につい最近からだ。忙しくて来れない日もあったけど…」
湊は視線を感じて小春を見る。
静かに目を輝かせてコチラを見ている。
「…なんだよ」
「先生。なんか弾いてみてもらえることって…」
おずおずと申し訳なさそうに言う小春。
目の輝きは隠しきれてないが。
「…まあ、少しだけなら…」
なんか弾いてって言われても…
前に小春を救助して中途半端になっていた曲を思い出した。
歌うのは若干気まずい。
とりあえず弾くだけ弾いて満足して帰ってもらおう。
湊はピアノの前に座り、あの歌を弾いた。
