ゴールデンウィーク明け。数層吹き抜けになった開放的なエントランスロビーは、全面ガラスの壁から差し込む朝の陽光で満たされていた。
都心の一等地に聳える&スタイルの本社ビルは十五階建てで、その中にはさまざまなブランドの事業部が入っている。私が属するブランドの事業部は、八階だ。私は慣れた手つきでICカードを翳し、セキュリティーゲートを抜ける。その後も次々と翳されていくICカードの電子音が、まるで目覚ましのアラームのように一定の間隔で鳴り響くのを聞きながらエレベーターを待っていた。
「おはよ、うめ」
すると不意に後ろから声をかけられ、私は振り返る。……まぁ振り返るまでもなく、その呼び方でそれが誰かはすぐにわかるんだけど。
「おはよう、侑士くん」
案の定、そこにいたのは私の同期の一人でla・milaのデザイン部に所属する、芳賀侑士くんだった。彼は、私の高校の同級生でもある。
百八十センチを優に越える身長に、スラリと長い手足。少し長めの前髪の下に覗く切れ長の瞳には意志の強さを滲ませていて、とても人目を惹く容姿をしている。今もチラチラと前方から女子たちの視線を集めていた。
私を「うめ」と呼ぶのは、今は彼しかいない。
高校一年から三年までを縁あって同じクラスで過ごし、デザイン系の道に進んだ彼とは大学こそ違ったものの、まさかの就職先が同じという縁で再び繋がった。
ここで思いがけない再会を果たしてからしばらくして、侑士くんは私のことをうめと呼ぶようになった。高校の時ですら、呼んだことはなかったのに。
当時、私のことを「うめ」と呼ぶのはただ一人だけだった。侑士くんはそれを知っていたはずなのに、それ以降どんなに『うめじゃなくてこうめ』と訂正してもやめてくれず、結局私の方が折れて今に至る。
おかげさまで、今や「うめ」呼び=侑士くんという図式ですっかり上書きされている。
「ゴールデンウィーク、店舗に駆り出されたんだって?」
言いながら、彼は暑いのか、細い指先でハイゲージニットの袖口をすっと捲った。首元から覗く白Tシャツの襟の詰まり具合までミリ単位で計算されているような清潔感が、デザイン部でチーフを務める彼のストイックな仕事ぶりをそのまま体現しているようだった。
「情報早いね」
「デザイナーの情報網、なめんなよ」
「どんな情報網?」
私が思わず吹き出すと、侑士くんはふ、とわずかに表情を緩めた。



