いえない事情〜初恋のエリート上司がわたしに執着する理由〜


 もともと高校時代から口数がそんなに多くなかった彼の返事は、いつも端的だ。でも、そんなクールなところがその容姿と相まって、「アンニュイな雰囲気がかっこいい!」などと、社内の女子たちからは非常に人気を博している。昔から彼を知る私としては、彼の良さはそういうところじゃないんだけどな、と思ってしまうけれど、でも。

 
「……これは、侑士くんと人気を二分しちゃうかもね」

「別に、興味ない」


 私がついぽろりと漏らすと、それにも彼らしい淡白で端的な答えが間髪入れずに返ってくるから笑ってしまった。


「じゃあ、私そろそろ行くね。朝一で返信しなきゃいけないメールもあるから」


 ゴールデンウィーク明けから、いよいよ十月に行われる来季のSS(春夏物)コレクションの展示会に向けての準備が本格化する。それと並行して来月に迫った今季のFW(秋冬物)コレクションの展示会準備に、今週行われる店長会議の準備など、やることは山積みだった。


「今日も一日頑張ろうね」


 そう声をかけて、いざ、と、私がフロアに向かって足を踏み出そうとした時だった。


「── うめ」


 パシッと腕を掴まれて、進もうとしていた私の足は、いとも容易く止まる。


「なに?」

「あのさ、……」

「うん?」

「……これもやる」


 どこか少し不自然な間をあけてそう告げながら、侑士くんが持っていたレジ袋を徐に私に握らせる。それから「じゃ、またあとでな」と言い置いて、ひと足先に戻って行ったのだった。


「え、これ侑士くんが食べるために買ったんじゃ……」


 という私の声はもう彼には届かない。彼の背中が廊下の角に消えるのを眺めてから袋の中身を見てみると、そこには梅味のグミやおせんべい、干し梅などがわんさか入っていて、思わず苦笑が漏れた。


 ……これは、労いの数が多すぎるよ、侑士くん。


 彼の良さは、クールなところやアンニュイな雰囲気を纏っているところじゃない。ぶっきらぼうに見えてこういう優しさをさりげなく発揮してくるところだと、長年の友人であり、同期でもある私は知っている。